頼まれていたスコアブックを片手に、なまえはとある教室を訪ねる。休み時間だからか、教室は生徒達の話し声で満ち溢れていた。小さく、お邪魔しまーす、と声をかけると真っ直ぐに目的の人物のところまで歩いていった。話し相手が今は居ないのか、彼――御幸一也は机の上にスコアブックを広げている。
傍に行くなり、そっとスコアブックを差し出す。御幸は視線を上げると、サンキュ、と微笑み受け取った。御幸の前の席が空いており、なまえは黙って腰掛けつつ、熱心ねー、と呟く。

「たまにはクラスの子とかと話したら?」
「たまには倉持と話してるぜ?」
「……そうじゃなくて、」

倉持以外の子と、と続けようとしたが、きっとさらりと嫌味を含んだ言葉を返されるに違いないと思い、なんでもない、と口を閉ざした。御幸はなまえから受け取ったスコアブックを早速開き眺める。そんな御幸を、なまえはじっと見ていた。

「なに?」
「別に?」
「もしかして俺に惚れたとか?」
「わあ、とっても面白い冗談ね」

棒読みで返すと御幸は面白可笑しく笑う。そんな御幸を余所に、なまえはそっと手を伸ばした。同時に御幸の眼鏡フレームを掴みするりと外す。コラコラ、と言う御幸を横目に眼鏡を持ち直すとかけてみた。

「……見えない」
「度が合ってねぇんだから、当たり前だろ」

眼鏡をかけたまま御幸を見るもぼんやりとしている。目を細めると、少しだけ姿が見えた気がした。

「満足したか?」

そろそろ返せ、と言わんばかりに御幸は手を差し出す。なまえは眼鏡を外すと素直に返した。眼鏡をかけ直し、まったく、と御幸はこぼす。

「……俺の眼鏡、次は放課後にかけてみろよ」

突然の言葉に、えっ、となまえは首をかしげる。スコアブックを閉じるなり御幸は拗ねた色をして紡いだ。

「お前の眼鏡姿、見れなかったなんて悔しいからな」

なまえは目を二、三度瞬く。しかしすぐに、ぷっと吹き出した。


ジン・リッキー
「御幸でもそんなこと言うんだっ。ふふっ、意外だなぁ」
「うるせぇ。好きな奴の色んな顔を見たいって思うのは男として当然だろ」
「……えっ?」

愛子||150511
(title=流星雨)