金属バッドの心地よい音がグラウンドから聞こえてくる。じりじりと照りつける太陽の下、どこ行ったのかしら、と呟きながら、次は室内練習場へと赴く。こんなにも天気が良いのだから室内練習場には誰も居ないだろう、と高を括り入り口からそっと中をのぞいて見る。そして、思わずピタリと動きを止めた。
「……居た」
フラットベンチの上で仰向けに寝転んでいる降谷の姿があった。練習場の中は太陽の光が入らない分、外よりも少し涼しく感じる。ため息をつくなり降谷の傍へと歩み寄った。降谷くん、と呼び体を軽く揺する。しかし、降谷は目を閉じたまま微動だにしない。
「降谷くん、起きて。降谷くんってばっ」
強く揺すっていると、ほどなくして降谷は静かに目を覚ました。ゆっくりと身体を起こし、ぽけーとしたままなまえを見る。二、三度瞬きをした後、おはよう、と挨拶した。あまりにも抜けた言葉になまえはずるりと一瞬肩を落とす。おはようじゃないよ……、と呟くように返し、御幸先輩が探してたよ、と続ける。
「早く練習に戻らないと、ブルペンに入れてくれないかもしれないよ」
たぶん、と心の中で結ぶ。なまえの言葉に降谷はハッとなり急いで立ち上がる。だがすぐに、ふらふらともとの場所に腰を下ろした。
「降谷くん、大丈夫っ!?」
「だ、大丈夫……だいじょうぶ……」
「絶対、大丈夫じゃないと思うんだけど……」
顔の青い降谷の前髪を上げると、なまえは自身の手のひらを押し当てる。手のひらから伝わってくる温度に、熱は特にないように思える。夏バテかしら、と考えていると、じっと降谷に見つめられていることに気づいた。ごめんっ、と謝り急いで手を退けた。咄嗟とはいえなんてことをしてしまったのかとなまえはおろおろとする。
降谷はまだ、なまえを見ていた。どうすれば良いかと反応に困り、えーと……、と何か話題をふろうとした時だった。
ぐいと利き腕を引かれるや否や、降谷の腕の中になまえは居た。
「えっ、え!? あの、ふ、降谷くんっ?」
強い力で抱きしめられ、なまえの頬にますます熱が上っていく。言葉に詰まっていると、降谷はそっと離れた。
「……冷たくなかった」
「……はい?」
ため息をつく降谷に、なまえの頭の中はぐるぐると混乱と疑問が渦巻く。
「さっき触ってもらった時、手、冷たかったから……」
でも温かった、とぼそっと降谷は継ぐ。そういう理由!? となまえは心の中で叫んだが、心臓の音がうるさく肩で息をするだけで今は精一杯だった。そろそろ行かないと、と降谷は再度腰を上げ立ち上がる。もう体調は戻ったのか、今度はしっかりとした足取りで歩き出した。何歩か歩いた後、降谷は歩みを止める。そうだ、と振り返ると降谷は告げた。
「今日みたいに暑くなったらまた触ってよ。君なら良いや」
そう言い残すと、それじゃ、と降谷は手を振り外へと出て行った。残されたなまえは、両頬をそっと手で包み込む。頬にはまだ熱が残っていた。
熱中症にはご注意あれ
(ふ、降谷くんのばかっ。ドキドキがとまらないじゃない……!)
愛子||150604
(title=tenuto)