グラウンドの隅で選手たちの練習風景を見ている片岡鉄心の傍へとなまえは歩み寄った。監督、と呼ぶと片岡は視線を下げた。

「どうした、みょうじ」

低く威厳のある声音で名前を呼ばれ、なまえは胸を高鳴らせる。えっと、と言葉に詰まりながらも体操ズボンのポケットからあるものを取り出した。

「これ、監督に!」

掌の上に載せ差し出した物を、片岡は何もいわずに受け取る。片岡の手にはフェルト生地で作られた、野球ボールの形をしたお守りだった。マネージャーの皆で考え、空いた時間に少しずつ作っていたのだ。完成したお守りはほとんど配り終え、後は監督達だけとなった。
なまえは率先して監督に渡す役目を自ら候補した。理由を知っているマネージャー達は頑張れとなまえの背を押してくれた。
他のマネージャー達と一緒にお守りを作ったことをなまえは話す。何気なくお守りの裏を見ると、サングラスとハートマークが不器用ながらも端側に縫われていた。ピクリと片岡の眉が動いたのを、なまえは見逃さなかった。あわあわと慌てて両手を振り、それはっ、と説明を始める。

「裏は、みんなの特徴とかを入れようって話になって……っ! か、監督はサングラスかなって、皆で話して決めたんですっ」

だからその……、と続けようとすると、ふっと片岡は一文字に結んでいた唇を緩めた。そうか、と相槌を打つと、他のマネージャー達にも礼を言っておいてくれと言付けを預かった。なまえは元気よく返事をし、それじゃあ、と来た道へ踵を返そうとした時、しかし、と片岡は呟く。

「このハートマークはなんだ……?」

どきりとなまえは体を震わせ動きを止める。片岡はじっと目で問いかけていた。監督への想いを込めた、とは流石に言えず、なまえは口ごもり、その……、と言葉を濁す。

「は、ハートマーク入れたら……可愛いかなって、思って……」

苦し紛れに出た言い訳に苦い色を浮かべる。全身に汗がふき出すのがわかり、上手い返しが出来なかったことを心の中で責めた。二人の間につかの間の沈黙が訪れる。だが、それは小さく笑った片岡により破られた。

「可愛らしいところもあるのだな、みょうじ」

そう言うと片岡は腕を伸ばし、なまえの頭を優しく撫でる。

「みょうじ達のお守りのお陰で、更にチーム一丸となって甲子園へ挑むことが出来る」

手を離し片岡は持っていたお守りをズボンのポケットへ仕舞うなり繋いだ。

「ありがとう」

礼を伝えると、片岡は声を張り上げ選手たちに次の練習の指示を出した。なまえは撫でられたところに手を伸ばしそっとおさえる。まだ片岡に触れられた感触が残っているような気がして、知らずのうちに顔は綻んだ。


しあわせの四文字
(監督がみょうじの頭を撫でた……)
(あの監督がみょうじの頭を撫でてた……!)
(監督に撫でられた……幸せ……)

愛子||150614
(title=桜咲く)