少し手が空いたから、こっそりと抜け出し青心寮へとやってきた。近くにある自販機で冷たいジュースを飲み、影のあるベンチで休もうとしていた時、たくさんの荷物を持った寮母さんに出会った。こんにちは、と声をかけ傍へと駆け寄る。寮母さんの手にあるスーパーの袋に目をやり、すごい量ですね、と驚いた。近所のスーパーで買い物をしてきたそうで、駐車場に停めてある車の中にまだたくさんの荷物があるのだという。手伝いますよ、と言うと寮母さんはなまえの好意を快く受け取った。
今日の夕飯の材料なの、と玉の汗を流しながら寮母さんは話す。話を進めていると、選手達のことを本当の子どものように慈しんでいるのが良く分かり、自然となまえにも笑顔がこぼれた。
いつの間にか荷物を食堂にすべて運び終えていた。寮母さんからたくさん感謝され、お礼にということでこっそりと買っていたという棒つきアイスをもらった。なまえは遠慮なくアイスを受け取り、これ以上は寮母さんの邪魔にならないよう食堂の外へ出た。そして当初の予定通り、ジュースを買う必要はなくなったがベンチの影で涼むことにした。
影に入りベンチに座るとほっと息を吐く。寮母さんは毎日あんなにたくさんの荷物を買って居るのだなと思うと、心の奥底から尊敬の念が溢れ出た。将来、栄養士やたくさんの資格を取ってここへ戻ってくるのも良いかもしれない等と考えながら、もらったアイスの封を切る。パッケージには「濃厚リッチミルク味」と書かれており、スタンダードな味が好きななまえとしてはなんとも嬉しいお礼だった。しゃくりと一口齧ると、口の中にひんやりと冷たく甘いミルクの味が広がる。しあわせー、と顔を綻ばせていると、あっ、という聞きなれた声。アイスを食べたまま声のした方を見ると、休憩に入ったのか、泥だらけのユニホーム姿に汗を流した御幸の姿があった。

「姿が見えねぇと思ったら、こんなところでなに油売ってんだよ」
「売ってませんー休憩ですー」

本当かよ、と御幸は呟き自動販売機で冷たい缶ジュースを買うとなまえの隣に空いていたスペースに腰を下ろす。休憩? と聞くと、さっき入ったんだよ、と答え御幸は缶のプルタブを小気味良い音を立てて開けるとジュースを飲んだ。

「つーか、何アイス食ってんだよ。さては抜け出してコンビニに行ったろ」
「そんな度胸がわたしにあるとお思いですかお兄さん?」
「……ねぇな」
「ふふっ、今の状況も貴子先輩にばれたらどうなるか……」

さっと視線をそらし、なまえはもしものことを考え体を小さくする。逆に御幸はそのもしものことを想像し軽くふき出した。なんで笑うかな、となまえは顔を顰めて御幸を睨む。悪い悪い、と笑いながら御幸は謝った。

「で? なんでアイス食ってんだよ」

御幸の問いかけに、なまえは先程のことを少しずつ溶け始めたアイスを食べながら話した。

「みょうじが手伝いとか、明日雨降るんじゃねぇの?」
「ちょっと、それどういう意味?」

そのまんまの意味、と御幸は意地悪く言う。降りませんー、となまえは頬を膨らませた。

「はいはい。アイス溶けてんぞ」
「うえぇっ!?」

御幸の言う通り、アイスはどんどんと溶け始めておりなまえは急いで平らげた。急いだせいか、口の中は随分と冷たくなり頬に触れてみるとひんやりとしていた。棒にあたりくじはついておらず、残念、と心の中でこぼし近くにあったゴミ箱に袋と棒を捨てる。美味しかったか? と悪戯っぽく笑う御幸に、なまえはアッカンベーをした。

「御幸のせいでアイスあんまり味わえなかった」
「はははっ、良かったなー」
「良くないし」
「俺もアイス食いたかったなぁ」
「人の話聞いてる?」

眉根を寄せるなまえに、聞いてる聞いてる、と御幸は適当に返す。ふと、何かを思いついたのかなまえを見るなり御幸は缶をベンチに置いた。

「アイス、あったな」
「何言ってるの? もう食べたよ」
「いや、残ってる残ってる」

そう言うと御幸は指先で軽くなまえの顎を持ち上げる。それは一瞬の出来事で、なまえの唇に自身の唇を押し当てた。口内に舌を侵入させ、歯列をなぞり、舌を絡める。
無意識になまえは御幸の胸をトンと叩く。すると、名残惜しそうに御幸の唇は離れた。
なまえは目を丸くし、顔を真っ赤に染めて御幸を見上げる。バニラの甘さに驚いていた御幸は、甘っ、と呟いた。

「お前、よくこんな甘いもの食えるな」

しかしなまえは答えず――否、答えられずただただ金魚が呼吸するかのように口をぱくぱくとさせているだけだった。御幸は歯を出してケラケラと笑うと、わしゃわしゃとなまえの頭を撫でる。休憩を切り上げ練習に戻るのか、御幸はジュースを飲み干すと腰を上げた。空き缶をポイと投げると、専用のゴミ箱の中に見事に入る。

「あんまサボんなよ」

と、御幸はなまえに背を向けグラウンドへと踵を返す。なまえはようやく正気に戻ったのか、御幸の背中を見送りつつ、きっとボサボサになっているであろう髪を手櫛で整え始めた。アイスのお陰で下がったはずの体温がまた上がったような気がする。それも最初とは比べ物にならない程にひどく暑く、心臓は早く高鳴り今にも体から湯気が出てしまいそうな気がした。


ルパンのようにしなやかに
(返せ、わたしのアイス! いや違う、ふぁーすときす! ――と、そのほかなんかいろいろ!!)

愛子||150617
(title=rim)