程なくして一度ビデオを止め、渡辺は背伸びをする。少し休憩してからもう一度観直そう、そう思っていた時、がらりと食堂のドアが開いた。訪ねてきた人物を見るなり、渡辺は目を丸くして驚いた。
「お疲れ様、ナベちゃん」
「みょうじ!? え、上がったんじゃなかったの?」
「ふふっ、このわたしが上がって素直に家に帰りますかですよ!」
「つまり、さっきまでまた沢村達のところに行ってたんだ」
「うん、バッチリいじってきた!」
満面の笑みを浮かべ、なまえは渡辺の前の席に腰掛ける。前に帰りが遅いと親に怒られたことがあると話していたことを思い出し、また怒られるよ、と渡辺は言う。今日は太田先生に送って貰うことになっているんですー、となまえは鼻高に答える。太田となまえの家は近所らしく、帰りが遅い時はたまに送って貰っていると聞いていた。なら今日は安心だ、と渡辺は微笑んだ。
テレビに視線をやり、王谷の試合観てたんだ、と言うと渡辺は頷く。次は渡辺が情報をまとめているノートを覗き込むと、びっしりと選手たちのデータが書かれていた。さすがっ、となまえは小さく拍手をする。
「そんな、褒めてもらえるものでもないよ」
「謙遜しないでよ。本当、ナベちゃんはすごいや。前の鵜久森の時も分かりやすかったし……御幸がナベちゃんを指名したの、なんかわかった気がする」
ノートの端をつまみ、前のページを何枚かめくっていく。事細かに書かれた情報に、なまえはただただ感心するしかなかった。
「……ナベちゃんは、本当にすごいよ」
さっきまでの明るさとは違い、なまえは目を伏せてぽつりと呟く。首をかしげた渡辺に、なまえは小さくため息を吐いた。
「わたしも皆の役に立ちたいって思っているけど、ナベちゃんみたいなことができるわけでもないし、おにぎりも上手に握れないし……」
いつも明るく誰に対しても気さくななまえがこぼした本音に、渡辺は二、三度目を瞬いた。一呼吸置いてから、そうかな、と渡辺は続ける。
「みょうじは十分、俺達の役に立っているよ」
そんなことないよ、返すなまえに、そんなことある、と渡辺は優しい声音で継ぐ。
「みょうじってほら、試合前によく話しかけてくれるじゃん。御幸達が言ってたよ、お陰で悪い緊張感がなくなっていつも通りに戦えるんだって」
上目で渡辺を見るなり、なまえはきょとんとした表情を浮かべる。しかしすぐに頬をほんのりと赤く染め、そんなことないしっ、と体を小さくした。
「た、ただお喋りなだけだよっ。わたしなんかより、スコアをつけられる幸子の方が役に立ってるし……!」
「梅本は梅本、みょうじはみょうじ。本当にすごいと思うよ、誰にでも普通に接することが出来るって」
いつも有難う、と渡辺は結ぶ。なまえの頬はいつの間にか真っ赤に染まっていた。そっと渡辺のノートを手に取り自身の方へ引き寄せるとさっと顔を隠す。渡辺はくすりと微笑み、自信を持ちなよ、と言う。ノートを少し下げ、なまえは目だけを見せる。渡辺はふわりと微笑んだ。
照れ屋な赤林檎
「……ナベちゃん、実は女子キラー?」
「えっ、何それ?」
「……無自覚なのか」
「おっ、やっぱまだやってたのか」
「工藤、東尾……おつかれ」
「なんか、みょうじ顔赤くね?」
「つかみょうじ、さっき太田先生が探してたぜ」
「……ナベちゃんのばか!」
「ええっ!? なんで!?」
「工藤も東尾も、なんかとりあえずばか!」
「は!? いや、意味わからねーし!」
「なんで馬鹿!?」
「そ、そんな君達が大好きだ!!」
「みょうじって、照れると壊れるんだ……」
愛子||150714
(title=tenuto)
(渡辺くんの口調が難しい…似非ですみません。。)