コールドで試合を終えた青道高校は早々に帰る仕度をするとバスへと乗り込んだ。
次の試合の相手は別の球場で試合を行っており、そちらには高島率いるクリスを筆頭としたマネージャー数名がデータを取りに行っている。
最後にバスに乗り込んだのは、トイレに行っていた沢村だった。道に迷っていたのか、目に少し涙を浮かべており、バスに乗れたーっ!! と叫ぶ。早く座れ! と既に席に座っていた倉持が叱咤した。沢村は慌てて空いている席を探しきょろきょろと辺りを見回す。ふと、一番後ろの席に座っていたなまえがこっちへ来いと手招きした。沢村は足早に後部座席へと向かう。途中、この馬鹿っ、と倉持に頭を叩かれた。
真ん中になまえが座り、その右横に御幸の姿。沢村が必ず何かをやらかすことを知っている二人は、さすが沢村、と小さく笑っていた。笑うなと目を吊り上げて沢村は言うとなまえの左横に腰を下ろした。
片岡は選手全員がバスに乗ったことを確認すると、運転手に一言謝った。さっそくバスは発車する。
試合に勝った後の落ち着いた雰囲気の所為か、来た時よりも選手達の口数は少ない。沢村も続けて試合に出たからか、ふうっと一息ついていた。御幸は今日の試合を思い返しているのか、反省点を頭の中でまとめているらしく窓の外を眺めている。
次の試合相手はどこだったか、と考えていた時、ふいに肩に重みを感じた。驚いて視線をやると、沢村の肩になまえが寄りかかっていた。

「――なまえ先輩?」

名前を呼ぶも、すっかり眠っているらしく返事はない。そういえば今日は朝早くから寮に来ていて全員分のお弁当を寮母さんと作ったと言っていたっけ、と沢村は思い出す。朝起きるとエプロン姿のなまえが食堂に居り、他の選手達と一緒に驚いた。
起こすわけにもいかず、沢村はなるべく体を動かさないように注意を払う。
何気なく、なまえの顔を見る。綺麗な肌に整った顔立ち。長い睫毛に高い鼻、ふっくらと柔らかそうな唇はまるでさくらんぼのように愛らく色づいていた。
何故か緊張し始め、知らずと胸は弾んだ。
そっ、となまえに手を伸ばそうとした時、にやりと笑みを浮かべた御幸がこちらを見ていた。ハッとなり沢村は慌てて手を引っ込めた。

「気にすンな、俺のことは空気だと思って良いから」
「い、いや別に……! てか、何もしないっすよ」

御幸は悪戯っぽく口元を緩めると、声を潜めて続ける。

「お前、なまえのこと好きだろ?」
「はあっ!? な、な、いきなり何言ってんだよっ!?」

突然大声を出したからか、バスに乗っている者達の視線が一斉に後部座席へと向く。すいません……、と沢村は頭を下げた。御幸は腹を抱えて静かに笑っている。声を上げたからか、沢村に寄りかかっているなまえの表情も一瞬歪んだが、再び寝息を立て始めた。
沢村は誰も自分達の方を見ていないことを確認し、一度視線を下ろす。なまえも起きている気配はなく、ほっと安堵の息をこぼすと、沢村も声を落とした。

「本当、いきなり何言ってんスかっ。そんなこと、あるわけねぇスっよ」
「へぇ、さっきなまえに触ろうとした癖に?」
「あ、あれはなんていうか……ふ、不可抗力? 的な何かであって、俺の意思じゃねぇ! ……です」

それじゃあ、と御幸は継ぐ。

「俺のにしても良いってことだよな」
「……えっ?」

予想もしていなかったことに沢村は目を丸くした。二人の間に沈黙が訪れる。ちょっと待て、と数秒ほど間を空けてから沢村は考えた。御幸の言葉を思い出し、それはつまり、と思う。
答えない沢村に、良いんだな? と御幸は念を押すように問いかける。なまえの顔を一瞥するなり、沢村はゆっくりと閉じていた口を開けた。

「良いわけあるか……俺だって、先輩のこと……、」

先を紡ごうとした時、ぱちりとなまえの目が開いた。沢村は寸前のところで声を詰まらせる。なまえは上目で沢村を見ると、状況を瞬時に理解できたのか急いで離れた。

「ご、ごめん沢村! すっごい寄りかかってたよねっ? お、重たくなかった? ていうか、よだれとか垂らしてない? 大丈夫!?」
「あ、いや……全然、大丈夫です。よだれとかも、本当、全然」
「よかったー」

大きく息を吐きなまえは安心した色を浮かべた。今どこらへん? となまえは御幸に尋ねる。青道高校まではまだしばらく掛かると御幸は答えた。
先程の話はなまえに聞かれていただろうかと沢村は思う。もし聞かれていたら――と考えると、居た堪れない気持ちになった。
良く寝た気がするー、となまえはのんびりと背伸びをする。そんななまえに先手を仕掛けたのは御幸だった。

「なあ、肩かりても良いか?」
「肩? なんで?」
「ちょっと眠くなってきたんだよ。良いだろ?」
「あんま体重かけないでよー?」
「わかってるって」

傍にぴったり添うと御幸はなまえの肩に寄りかかる。それを見た沢村は、んがっ、と口を開けた。この野郎……、と心の中で悪態をつきつつ、怒りで体を小刻みにふるふると震わせ俯く。これが一年間一緒に過ごして来た差なのかと考えていると、沢村、となまえに声をかけられた。

「大丈夫? なんか震えてるみたいだけど……もしかして酔った?」
「へ!? いや、これはその……、」
「疲れてるなら沢村もちょっと寝れば良いよ。肩、かしてあげる」
「いや、大丈――……まじっすか?」

なまえの言葉に沢村のみならず目を閉じたはずの御幸も驚いた色を見せていた。なまえは首をかしげ、寝ないの? と問うてくる。もちろん沢村に断る理由はない。心の中で密かにガッツポーズをすると、失礼しやす、と上ずった声で言うなり微笑んだなまえに寄り添うと肩をかりた。


結果的には恋してる訳で
(……俺、なまえ先輩のこと好きなんだ)
(こいつ等鈍感すぎるだろ。けどま、うかうかしてらんねぇな俺も)

先程の会話はバスに乗っている選手達の耳にしっかりと聞こえていたのだが、声を落として話していたつもりでいる三人には知る由もない。

(沢村は帰ったらシメる。御幸はしばく)
(倉持、いろいろと顔に出ているぞ。……腹が減ったな)
(どうやってイジメようかなぁ、あの二人)
(あ、兄貴……顔が怖いよっ)
(そうか、二人はみょうじのことが好きだったのか……応援してやらないとな)
(哲、やめとけ。お前が出たらなんか余計にややこしくなりそうだ)
(どうでも良いから静かにして欲しい……)
(みょうじもいろいろと大変そうだな。帰ったら頭を撫でさせてやるか)
(今日の夕飯、カラアゲ出るかな……)

愛子||150718
(title=星屑Splash!)
(上から、倉持、増子、小湊兄弟、結城、伊佐敷、降谷、丹波、川上の順番)