「峰先輩、記事の校正をお願い出来ませんか?」
「早いな、何時に戻って来てたんだ?」
「先輩達より二、三時間前くらいだったと思います」
なまえからコピーを一部受け取りさっと目を通す。瞬間、ん? と峰は首をかしげた。
「注目の眼鏡球児特集……?」
「あ、それ違う! 間違えた! こっちが正しい記事です」
誤って渡した記事を奪うようにして手に取ると、なまえは素早く正しい記事を峰に渡した。こいつ……という色をしたが、峰は記事に目を通す。特におかしなところもなく、選手達や学校の特徴もしっかり書けている。何よりなまえの文章は素朴だが読者を惹きつける不思議な力があった。峰は一通り確認するなりOKサインを出した。よかった、となまえは安堵の息を吐く。峰からOKサインの出た記事を受け取ると同時に、シャッと事務椅子とともに大和田秋子が傍へとやって来た。
「眼鏡特集、是非読ませて!」
秋子の瞳はキラキラと輝いており、早く記事を差し出せとでも言うように手を出している。お前な、と峰は肩をすくめた。
「記事は後で読ませてもらえ。今は取材をしてきた内容をまとめろ」
「いいえ、峰さん。これは取材内容をまとめるにあたっての大事な栄養補給です!」
「何が栄養補給だ」
近くにあった資料を手に取ると、それを筒状に丸めて峰は秋子の頭をぽこんと叩いた。秋子はぶすっと頬を膨らませるが、すぐさまなまえに向き直り早くと読ませてと急かす。てきとーに作ったものですよ? と言うも秋子は、それでも良いから! と笑顔した。勢いに負けたなまえは遊び半分で作った記事を渡した。受け取った秋子はよっしゃっとガッツポーズをするとすぐさま記事を読み始めた。
「ところで峰さん、試合はどうでしたか?」
先程観に行ってきた青道高校と仙泉学園の試合内容を聞かれ、峰はまずは結果と、そして内容を詳細に話す。話している最中、内容をまとめるためパソコンを起動し録画をしてきたものの再生準備をした。二日後には青道高校対稲城実業高校の甲子園をかけた戦いが始まる。注目のカードだけに話をする峰の気持ちも自然と昂った。
「甲子園に行くのは青道高校か、それとも――」
「青道に決まってます」
峰の言葉を遮るようになまえは続けた。
「絶対的エースの不在と言われ続けていますけど、今年の青道はタイプの違う投手が揃っています。打線だって、守備だって、去年よりも更に向上だってしています」
だから、となまえは一度言葉を区切ると胸を張り声高らかに宣言した。
「甲子園に行くのは、青道です!」
フロア内は一瞬シンッと静まり返ったが、皆すぐに自分の仕事へ戻る。峰も二、三度瞬きを繰り返したが一呼吸置いてから、まあ勝負の世界はわからんけどな、とぽつりとこぼした。それでも優勝するんです、となまえはフイとそっぽ向く。峰は小さく息を吐くと、なまえの作った眼鏡特集記事を読んで幸せそうに顔を綻ばせている秋子の頭を再度丸めた資料でぽこんと叩き、早く仕事に戻れと告げた。
「でもまあ、なまえちゃんがそう言うのもわかる気はしますけどねー。だってなまえちゃん、青道出身でしょう?」
「確かに気持ちはわからないでもないが、記者が特定の学校を贔屓するのは良くない」
「去年の青道関連の記事、全部ボツでしたもんね」
「私情しか入ってなかったから当然だ」
「もうそんな記事書きませんよー。だから、二日後の決勝戦の記事はわたしに書かせてくださいお願いします」
「断固拒否の却下だ」
「峰さんのいけずー!!」
編集長に記事を渡してきますっ、と言うとなまえは背を向けずんずんと歩いていった。編集長に軽くあたっているなまえの後姿を見ながら、峰は困った奴だと腕を組んだ。眼鏡特集記事を読み返していた秋子が唐突に、あっ、と声を上げた。
「峰さん、峰さん」
「何だ?」
「ここ、読んでください」
そう言い峰に記事を渡すと、記事を締めくくる最後の文章の上の段を秋子は指でなぞる。それを読むなり、あいつらしい、と峰は思った。遊びで作ったとは言っていたが、この記事の方がずいぶんと手が込んでいることに気づく。二日後に行われる西東京大会決勝戦――いつも真面目に頑張って他の有力高校に取材に行き、なまえは上手く記事をまとめている。決勝戦に連れて行ってやっても良いかと峰は考えながら、らしいなー、と微笑んでいる秋子の頭をもう一度丸めた資料でぽこんと叩いた。
Manly girl
(がんばれ青道、優勝を掴め――!)
愛子||150927
(title=tenuto)
(記者コンビ好きです。大和田さんと是非眼鏡トークしたい)