女子寮をこっそり抜け出し足早に野球部の寮へと向かう。周りに誰もいないことを確認し、なまえはとある部屋のドアとノックした。程なくしてガチャリとドアは開く。開けた人物――倉持洋一は訪ねてきたなまえを見るなり驚いた色をした。なまえはへらりと笑い、片手に持っていたケーキ屋の箱を見せるなり、部屋の中を覗く。部屋には沢村と増子の姿はなく、明るい部屋にテレビがついているだけだ。

「あれ、増子先輩とワンコくん居ないの?」
「あの二人ならまだ帰ってきてねーぜ」
「なーんだ、つまらん。でも折角だから部屋に入れて」
「折角ってなんだ折角って。つーか入り浸る気で来たんだろ」
「倉持だーいせいかーい!」

さっさと入れと言われ、なまえは笑いながら部屋へあがる。人がいないからか、いつもより少しだけ広く感じた。

「んで? 何しに来たんだよ、こんな時間に」
「こんな時間って、まだ9時半ですよ倉持くん」
「普通の女子はこんな時間に寮抜け出したりしてこねぇよ」

テレビに背を向け、倉持は胡坐をかいて座る。なまえは倉持の前に腰を下ろすと、持っていたケーキの箱をあけ、中からあるものを取り出した。

「あげる」
「プリン?」
「ちょー有名店のプリン。偶然買えたので持ってきた」

なまえからお洒落な容器に入ったプリンとプラスチックのスプーンを受け取り、へぇ、と倉持は相槌を打つ。高島礼からスカウトのコツを学ぶため、なまえは中学校の地方大会を観に出かけていた。その帰りに、たまたま店に行列が出来ていないことに気づき、礼にわがままを言い寄り道をしたそうだ。お前らしいと倉持は苦笑した。プリンをすくい一口食べる。上品な甘さと濃厚な味に思わず舌鼓を打った。美味しいでしょ、と言うなまえに倉持は素直に頷く。今日あったことを軽く話し合い、時には倉持の甲高い笑い声と突っ込みが入った。

「あ、そうだ」

話を途中で遮り、思い出したかのようになまえは箱の中からもうひとつプリンを取り出すと、倉持に差し出した。

「一つ食ったし、もういいって」
「良いじゃん、受け取りなよ。ハッピーバースデー倉持」

なまえの言葉に倉持は目を瞬く。早く受け取れと言わんばかりに、なまえは無理やり倉持の手にプリンをとらせた。

「よく覚えてたな、誕生日」
「ここへ来て二回目の誕生日だよ? 忘れるわけないでしょ〜」
「去年は忘れてた癖に良く言うぜ」
「きょ、去年は去年。今年は今年ですー! てか、去年はこんなに話したりしなかったし、知らなかったんだもん」

むっと頬を膨らませなまえは視線を逸らす。なまえとこんなに仲良くなったのはいつからだったかと倉持は考えたが、すぐにどうでも良くなった。
小さく息を吐くなり、なまえは視線を戻す。同時にふわりと微笑んだ。

「誕生日おめでとう、倉持」

不思議と胸は高鳴り、頬に熱が上る。いつでも気を許せて話せる仲の良い友人だと思っていたなまえが、一瞬とても可愛らしく思えた。すぐに首を振り慌てて気持ちを否定する。どうしたのかと尋ねるなまえに、倉持は急いで歯を見せて笑顔した。


とても全部は言葉にできないけれど
「ヒャハハ! ありがとうな、なまえ!!」

愛子||150518
(title=さよならの惑星)