(※下ネタ発言有。苦手な方はご注意ください)


日直当番としての最後の仕事に取り掛かるため、成宮鳴は今日一日相方として行動をした明るい髪色をしたみょうじなまえと向かい合って座っていた。教室には既に二人以外の生徒は居らず、静けさに包まれている。二人とも当番としてのやる気はほぼ皆無に近く、真っ白だった日誌を交互にうめていた。授業の記録は成宮が記入する番で、黒板横の壁に貼ってある時間割表をまずそのまま写す。各教科の担任名と授業経過、そして感想を書かなければならない。声に出して感想を読み上げながら、成宮はその通りに綴り始めた。

「ねえ、成宮」
「何? 3時間目は保健体育か……確か保健だったんだよなぁ」
「成宮って童貞?」
「なるみやは、どうて――は?」

シャープペンシルを動かしかけて手を止めた。いきなり何を聞いてくるのだとでも言いたげな色を前の人物に向ける。利き手で器用にシャープペンシルを回しつつ、どうなの? と気にもしない素振りでなまえは再び問いかけた。

「いや、意味がわからねぇンだけど。つか女子が童貞とか言うな、死ね」
「死ねはひどくない? 純粋に疑問をぶつけてるだけなのにさ」
「あっそ」
「で、どうなの? 童貞なの? 童貞じゃないの?」
「……童貞じゃねぇし」

一呼吸間を空けてから答えると、まじで!? となまえはあからさまに驚いた。どういう意味だと目を吊り上げて反論すると、いやだって、となまえは手を止めるなりキリッとした表情をした。

「友達と成宮が童貞か童貞じゃないかで賭けてたんだもん」
「お前等最低だなッ!」
「因みにわたしは成宮が童貞に千円賭けていました」
「本当に最低だなっ。マジで死ね!」

死ねはやめてよ流石に傷つくと言うなまえにもう一度同じ言葉を復唱して浴びせる。人の貞操で賭けをする等もっての他だ。傷ついたーという声を無視し、成宮は日誌を書き進めていく。

「あ、じゃあちょっとタイム。好みは? 好みのタイプは?」
「四時間目は古典か。漢文って習う意味あるんですか? っと。タイムってなんだよ。つーか好み?」
「そう、好み!」
「あー……じゃあ清楚系」
「なんで古典の感想だけ疑問系なの意味わかんない。てか、じゃあって何よ、なんで投げやり? まあいいけど。あ! ねえ、最近はしたの?」
「まだ続くのかよその話。えーと……五時間目は数学」
「だって気になるんだもん。ねえ、したの? 誰と? いつ?」
「あー、もうマジうぜぇ。最近した。昨日した。……授業内容なんだっけ」
「数学、次の授業小テストするらしいよ。え、昨日って部活じゃなかった?」
「まじかふざけんなテスト。部活終わりにしたんじゃねーの?」

なまえはきょとんとしたまま少し考える素振りをする。日誌を書き進める成宮に視線をやりつつ、ハッと表情を変えた。

「まさかっ、成宮ホモ!?」
「誰がホモだよっ! 俺、今お前のことすっげー嫌いになった!!」

怒った成宮に平然としたまま、傷ついた第二段ー、と唇をすぼめるも、ホモだと言った理由をなまえは述べる。休憩時間に昨日の部活はやたらと厳しく、夕食後、遊びに行っていた先輩の部屋でそのままで眠ってしまった云々とぼやいていたのを聞いていたからだ。呟いたことは確かだが不純行為は一切ないことを成宮は声を荒らげて抗議する。それならばとなまえの目は光った。

「嘘吐いたな成宮〜。あんたやっぱり童貞なんでしょう?」
「う、嘘じゃねぇし! 俺だってそういうことくらい、」
「後でアイス差し入れに行ってあげるから、本当のこと喋っちゃいなよ〜」
「え、まじ?」

アイスと聞き成宮はぴくりと反応した。そのチャンスを逃すまいと本当だと付け加える。

「なんだったら1個300円するあのお高いやつでも良いよ。好きなやつ、袋いっぱい買ってきてあげる」
「……俺、ラムレーズンが良いンだけど」

任せろとなまえは胸を張りトンッと叩く。日誌を書く手を止めると、成宮は呟くように答えた。

「……てい」
「え?」

だから、と成宮は息を吸うと恥ずかしそうに続けた。

「童貞だっつってンだよ」

やっぱり! となまえはぱちんと手を叩いた。聞きたかったことを本人から聞くことができ、なまえは満足気に表情を緩ませる。次はお前の番だと成宮は日誌の向きを変えるなり、逆に尋ねた。恥ずかしがる様をからかってやろうと思い成宮はなまえを盗み見る。

「処女だよ」

あっさりと答えたなまえに、絶対に嘘だと成宮は反論する。清掃当番判と欠席、遅刻者の欄に目を通しながら、なまえはくるりと一度シャープペンシルを回した。

「いやいや、これまじなんだよね」
「いやいや、絶対ねぇわ。だってお前、ビッチって有名じゃん」
「え、うそマジで? うわー、え、今日一番傷ついたわそれ」

空欄を記入するなまえの表情は本当にショックだったのか沈んだ色をした。クラス内では男遊びが盛んな女子生徒としてなまえは有名だった。しかし反応からして、それはただの噂話で定かではないことに気づく。本当のところどうなのかと問いかけるとなまえは少し拗ねたように言った。

「確かに男子と遅くまで遊んだりはしてるけど、そういうことはしてないよ。小学生じゃないけど、わたしの一生賭けて断言する」
「じゃあマジで処女なわけ?」

当然だとなまえは強かに頷いた。空白だったところを記入し終えると、成宮の方に日誌を向ける。残った空欄を記入し始めた成宮になまえは紡いだ。

「女はね、鉄のパンツ穿いて錠を何個もかけておかなきゃいけないのよ。鍵を外す時は本当に好きな人ができた時だけって、わたし決めてるから」

ぱちんとシャープペンシルの芯が折れた。あまりにも意外な持論を聞かされ、成宮はぽかんと口を開け目を丸くする。なにその顔、となまえは眉根を寄せた。なんでもないと返すと成宮は再び綴りだす。
少しの間、二人の間に沈黙が訪れる。だが、それを破ったのはなまえだった。成宮は口を閉ざし、目だけを向ける。すると、なまえは満面の笑みで繋いだ。

「わたし達、真剣に付き合わない?」

再びぱちんとシャープペンシルの芯が折れた。

「――ばっかじゃねーの」

完璧に動きを止めた数秒後、成宮は呟くように返事をした。


おしゃべりな告白
翌朝、席に着くなりまだ時間があったため仲の良いクラスメイトに頼んでいた漫画の続きを借りた。授業中にでも読もうと思いパラパラとページを捲っていると、急に教室内がざわついた。靴音がすぐ傍で止まり、影がかかる。何事かと視線を上げると同時に、成宮は目を見開き持っていた本をその場に落とした。

「おはよう、成宮」

成宮の前には、昨日とはまるで別人のように髪色を戻し、これぞ清楚系の代表とでも言わんばかりの美少女――否、みょうじなまえがにこやかに立っていた。

愛子||160829
(title=たとえば僕が)