みょうじなまえが"聖杯戦争"へ赴くと残して数ヶ月。学校へは約一週間程度、家の用事で休むと連絡を入れていたらしいが、予定を大幅に超えている。この一週間、世間では様々な動きがあった。冬木市でガス漏れ等で甚大な被害があったりと、しばしば物騒な騒ぎが相次いだが、突如終息を向かえた。
一週間を過ぎたものの、それ以降連絡はなく担任等が心配してなまえを訪ねたりしたが、家は蛻の殻で人ひとり居ない無人だったらしい。もちろんこの話は一瞬にして校内に広がった。
あの成宮鳴の彼女が行方不明になった、と――。
担任等から事情を聞かれたりもした。もちろん成宮もなまえのことが心配な為、できる限り協力をした。ただ、なまえから口止めをされた"聖杯戦争"のことだけは誰にも話さなかった。喉の奥からつい出そうになってもその度に、約束だよ、と微笑んだなまえの姿が脳裏をよぎり堪えた。
時が経つにつれ、なまえという存在は薄れていった。しばらくは持ちきりだった噂も影を潜め、今では話題に上がることも少なくなった。
ただ一人、成宮だけはなまえをずっと探していた。部活を終えた後やオフの時、ほんの少しの空き時間でもなまえを探し続けていた。だが努力はむなしく、目撃者さえ見つけることはできなかった。
ある日、成宮は仲間達の制止を聞かずにふらふらとした足取りである場所へと向かった。それは二人でよく歩いた道を通って行く、なまえの家だった。小高い地形の頂上にある大きな赤屋根の家だ。
ようやく坂を上りきったとき、見知らぬ二人組がなまえの家から出てきた。その一人が、一瞬だけなまえに見え目を見張り思わず名前を呼び傍へと向かう。二人は成宮の方を振り返った。
しかし、成宮の期待はすぐに泡となった。

「ええと……、」

二人組みのうち一人、真っ黒なスーツを着た年の近い青年が困ったような色を浮かべる。そんな青年を片手で制し、なまえと見間違えた和装姿の女性が凛とした雰囲気を纏いつつ一歩進み出た。

「こんにちは」

と、綺麗な声音で挨拶をされた。成宮はぱちりと目を瞬くも、ども、と小さく頭を下げる。後ろで青年が不安そうな表情で女性を見上げていた。

「あなたはなまえのお友達?」
「友達というか……その、彼氏です」

女性はなまえのことを知っているようだ。成宮を見て、彼氏!? と後ろで青年は驚いているが、女性は淡々と相槌を打った。なまえの家で何をしていたのかと訪ねると、ちょっとした野暮用、と女性。人が訪ねてくるということは、まさかなまえに頼まれてきたのではと成宮は考える。あのっ、と声を荒らげた。

「なまえと会ったの!? どこに居るのか俺に教えて下さい!!」

言葉と同時に頭を下げる。きっと良い報せとともにまた会えると、高鳴る胸に言い聞かせ返事を待つ。だが、程なくして耳に入ったのは聞きたくはない応えだった。

「死んだわ、あの子」

世界が、止まったような気がした。
恐る恐る顔を上げ、嘘だとこぼす。信じたくなくて、何かの冗談だと告げて欲しくて女性の瞳を見る。女性の瞳は強かな光を帯びており、もう一度、しっかりと言葉を紡いだ。

「残酷かもしれないけれど、この世界にはもう居ない。みょうじなまえは死んだの」

青年が何かを言おうとしたが、女性に一瞥され口をつぐむ。
その瞬間、光が消えた。
喪失感が胸の中に渦を巻く。明日にでもこの事実を学校側に伝えるつもりだと女性は続ける。何故亡くなったのかとまでは詳細には言わなかったが、恐れていたことが現実となって訪れた今、その場に立っているだけでも限界だった。
あの笑顔をもう見れない、あの声を聞けない、もう二度と隣に立ってはくれない――。
力のない足取りで踵を返そうとした時、待って、と女性に引き止められる。蒼白な顔で弱々しく立ち止まると、女性は傍へとやって来た。

「君、成宮鳴くんよね」

どうして名前を知っているのか、というのはこの際どうでも良かった。こくりと頷くと、女性は懐からある物を取り出し、成宮の手に握らせた。

「これを、君に渡してって言われていたの」

女性の手が離れ、握らされた物を見る。年代物の、少し古びた小さな鈴だった。それでも輝きはあり、しっかりと手入れがされていたらしい。手のひらで軽く転がすと、ちりん、と愛らしい音を奏でた。

「その鈴、なまえの宝物よ。代々受け継いできた代物なんですって」

ふと、女性は目を細めて先を継いだ。

「"わたしのことを好きで居てくれてありがとう。傍に居ることはできないけれども、鳴くんのことをずっと見守っているから"」

女性は一度言葉を切り、そして結んだ。

「あなたの進む道に、どうか幸運がありますように」

ふわりと緩めて浮かべたその笑顔が、探していた彼女にとてもそっくりで、知らずのうちに涙が頬を伝っていた。






しばらくとりとめもない会話を交わした後、何かが吹っ切れたのか、最初に逢った時よりも随分と良い顔色で成宮は二人に背を向け去っていった。その背中が見えなくなると、青年は女性に声をかけた。

「本当に良かったのか?」

女性が微笑むと、青年はどうも腑に落ちないのか眉を下げる。その表情を目にし、女性は少し困った色を浮かべた。

「マスターが気に病むことではないわ。これで良かったのだから」
「けど、あの人はなまえの彼氏なんだろう?」

面と向かって言葉にされるとどうも恥ずかしいのか、女性――否、みょうじなまえはほんのりと頬を赤らめる。青年――藤丸立香はそんななまえを見てちょっと驚いたようだった。

「"この世界"のわたしは、あの聖杯戦争で死んだ」

肉体は消失し、何の悪戯かはわからないが、魂だけは破壊される前の聖杯に取り込まれ、祖先である安倍晴明に宿った。肉体を得て驚いたのは、あの有名な安倍晴明が女性であったということなのだが、これは立香も同じだっただろう。魔術師でありカルデアのマスター藤丸立香の召喚に応じ、特殊な擬似サーヴァントではあるが、今では持てる力を存分に振るっている。

「あの人と逢えたのは、マスターのお陰ね」

パチパチと目を瞬く立香になまえはくすりと笑う。

「マスターがわたしのわがままを聞いてくれたお陰で逢えたの。渡したかった物も渡せた。最後に話もできた」

唐突にどうしても家の整理がしたくて、なまえは無理を言い、ロマニ・アーキマン――通称Dr.ロマンを巻き込んで、立香とともにこの世界へレイシフトをした。マシュに内緒で来たものだから、来て早々、帰ったらきっと怒られるだろうと二人で顔を見合わせた。
掃除をしている時、立香には真実を伝えた。家の埃を払いながら、本当の"自分"を語る。もちろん、彼のことも話をした。恋人同士だったとは伝えなかったが。
最後に幻滅したかと問えば、立香は首を横に振り、それがなまえだと笑って受け入れてくれた。言葉にできない程の感銘を受け、こみ上げてくる感情をぐっと飲み込み、ただただありがとうと微笑んだ。
掃除を終えて家を出た時、モニター越しに怒っているマシュとそれを宥めているDr.ロマン。いつもと変わらぬ穏やかな心情だったが、唐突に一変した。まさかずっと逢いたいと願っていた彼と出会うことになるとは、露とも思わなかった。
自分のお陰なのだろうかと片手で頭をかいている立香に朗らかな色で頷く。

「さあ。帰りましょう、マスター。わたし達の……みんなが待っているカルデア(うち)へ」

この世界には、もう"なまえ"の居場所は存在しない。だが、もう一つの――"カルデア"には居場所が、存在する意味がある。
ふと、マウンドに立ち仲間たちを背中で引っ張る彼を脳裏に思い浮かべる。まるで太陽のような笑顔でずっと照らし続けてくれた彼に口の中で別れを告げると、そっと瞳を閉じた。


いつもの言葉は君と一緒に消えた
(さようなら、わたしの最初で最後の恋。ありがとう……わたしを、愛してくれた人)

愛子||170618
(title=星屑Splash!)
(ロードU世と同じく霊基3段階目で鳴の知ってる夢主の姿になりますという勝手な設定。なので鳴が出逢った夢主は霊基2くらいの姿なので面影はうっすらとあるけれども知らない人という勝手な設定その2.ちなみに夢主はキャスターです、マーリン兄さんやロード並みのチート希望。書いてて正直、楽しかったです)