稲城実業高校へ入学して二年と数ヶ月。平々凡々な生活を送りつつも充実した毎日を送っていた。最近、生活に変化があり、まだそれに慣れずに戸惑ってしまう。
一つは、一年の時から想いを寄せていた、今ではもうすっかり有名人となったクラスメイトの野球部のエース、成宮鳴と付き合い始めたこと。ある日、突然名前を呼ばれたかと思うと、クラスみんなの前で告白をされた。面食らって返事が出来ずに自席でぽかんと口を開けていると、はいかイエスかで返事をしろと急かすものだから、はいと二文字で答え、晴れて付き合うこととなった。
まだ付き合い始めて日は浅いが、入学当初から癒しとしていた成宮の練習姿を本人認知のもと部活終わりまで見届ける。部活が終わると、時折、成宮に家の近くまで送ってもらい二人の時間を楽しむ。ただそれだけで幸せで、こんな日々がずっと続けば良いと思っていた。
だが、そんな幸せな日々にもう一つの変化――否、なまえとしては待っていたことが始まりを迎える。それは数十年に一度、冬木市にて行われる"聖杯戦争"だ。聖杯戦争とは、万物の願いをかなえる"聖杯"を奪い合う争いであり、謂わば魔術師たちの戦争だ。みょうじ家は代々続く魔術師の家系であり、なまえは現当主だ。幼い頃に両親は亡くなり、その間際に託されたのが「必ず聖杯を手に」という願いだった。"聖杯"に願うものはない。だが、家の為に手にしないといけないと小さな頃から思っていた。幼い頃に死別した為、ほぼ独学でだが魔術の修練を積んできた。人並みの魔術師よりも努力をしてきた。
稲城実業高校へ入学して二年と数ヶ月。平々凡々な生活を送りつつも充実した毎日を送っていた。最近、生活に変化があり、まだそれに慣れずに戸惑ってしまう。
一つは、一年の時から想いを寄せていた、今ではもうすっかり有名人となったクラスメイトと自負している。聖杯戦争が始まれば、今のこの生活すべてが変わるだろう。最悪の場合、もう二度と大好きな彼、成宮とは会えなくなるかもしれない。
小さく息を吐いた時、ねえ、と隣を歩いていた成宮に声をかけられた。我に返り、自然な色でちょいと首をかしげる。
今は成宮に家の近くまで送ってもらっている最中だ。話を聞いていたかと訊かれ、もちろんと頷くと、こつんと額を小突かれた。
「ハイ、嘘吐いた。いつも見てンだから、お前が嘘吐いてることくらいわかるっつーの!」
舐めるなと言わんばかりに成宮は鼻息荒く唇をすぼめる。好いた弱みか、この人には敵わないとなまえは思う。軽く息を吐くと、話を聞いてなかったと正直に答え謝った。成宮は肩をすくめるも、それで? と尋ねる。
「なに考えてたわけ? なまえがぼーっとするなんて、珍しいじゃん」
えっと、となまえは口ごもる。成宮に聖杯戦争のこと、そして自身の家系のことを話すべきか、ずっと迷っていた。けれども、普通の人間(ひと)として居られるのは、今日で最後となる。だからこそ、大好きな成宮には全て話をしておきたかった。
歩みを止め、鳴くん、と呼び止める。同じように足を止めて振り返ると、今度は成宮が首をかしげた。
「あの、ね。鳴くんは、魔術とか……オカルトとかって、信じる……?」
上目で様子を伺うように、なまえは恐る恐る問うて見る。成宮は二、三度瞬きをした後、小さくふき出した。
「そんなの信じるわけねぇじゃん!」
オカルトなんてと笑う成宮に、そうだよね、となまえはしゅんとした色を浮かべる。それを見て本気で尋ねてきていると察したのか、成宮は笑うのをやめると、オカルト類は信じてはいないと改めて告げた。
「いきなりどうしたの? なんつーか、なまえらしくないっていうか……」
少し戸惑ったが、意を決してなまえは自身の思いを交えて成宮に話をし始めた。自身の家系のこと、本当は普通の人間ではなく魔術師であること、始まりを迎える"聖杯戦争"のこと――。最初は冗談だろうと聞き流していた風だったが、"殺し合い"という単語を耳にしてから、成宮の表情は変わった。
淡々と語り、最後に明日から準備等を含めて学校を休むと話を結んだ。
「なんかいきなりで、まだ信じられねぇンだけど……」
と、少し困ったように呟き後頭部を掻くも、成宮はまっすぐになまえを見据える。
「絶対に、その"聖杯"を取って来なよ」
否定をされると、止められるのではと思っていたなまえは、予想外の言葉にぱちりと大きな瞳を瞬いた。そんななまえを余所に成宮は続ける。
「待ってるからさ、なまえが帰ってくるの」
成宮は一度区切りなまえの傍へと歩み寄ると、人目を憚らずにぎゅっと強く抱きしめる。華奢な身体を抱くその両腕は小さく震えていた。こみ上げてくる感情をなんとか堪え、なまえはそっと成宮の背中に腕を回す。弱みを見せないよう必死に取り繕うように、なまえはふわりと微笑むと言葉を継いだ。
「必ず鳴くんのところに帰ってくるから……だから、待っていて下さい」
こくりと成宮は頷くと、静かになまえから距離をとる。しかしすぐに、唇に触れるだけのキスを落とした。
「この続きは、帰ってきた時にするから」
格好良く決めたつもりだったのだろうが、成宮の頬は真っ赤に染まっている。もちろんそれはなまえも同じで、キスはお互いに今のが初めてだった。なんだからしくない一時の別れに、なまえはふき出す。笑うなと眉根を顰める成宮に、続きを楽しみにしていると伝えると、威力は抜群だったのかますます真っ赤になった。
もう一度、今度はなまえからキスをする。愛しい気持ちを、そして交わした約束を胸に、行ってきます、と強かになまえは言った。
顔を赤くして、心がときめいた日々はおしまい
(嗚呼、神様。どうか奇跡があらんことを――……)
愛子||170530
(title=星屑Splash!)
(夢主が契約するなら、凛ちゃんに成り代わって弓でも良いかもしれないとか勝手に想像してたり。個人的にもし続編を作るならやさしくない世界が良いかなと勝手に思っています)