嫌な予感がする、という言葉を信じ、本来彼女が生きた時代へ再びレイシフトを行った。今回はデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライトも一緒だ。
レイシフトをした先は稲城実業高校の校内。学校というのが珍しいのか、藤丸立香とマシュは目を丸くする。しかし、それ以上に心奪われたのは満天の星空だった。

「きれいですね、先輩」
「そうだな、マシュ」

普通の人間には気づきもしない光の輪があるものの、それに沿うかたちできらきらと輝く星々に、二人は感嘆の息をこぼす。ふと、立香はきょろきょろと辺りを見回した。どうかしたのかと問うマシュに、一緒に来たはずのもう一人が居ないと伝えたのもつかの間で、マスター、とどこからか呼ばれた。声のした方に視線をやると同時に、二人はきょとんとした色を浮かべた。

「……どなたですか?」
「わかってて言ってるでしょう?」

立香が問うと、声の主――学生服を着た少女は眉根を寄せる。じっと少女を見ていたマシュはハッとした色を浮かべた。

「え、あ……晴明さん!? その姿はいったい……」

少女――安部晴明もといみょうじなまえの名前を呼ぶ。なまえはふわりと微笑むと、久しぶりの学校というのもあり、当時の姿に霊基を変えてみたと言う。しゃべり方はそのままなのかと首をかしげる立香に、慣れてしまって戻せないのだと肩をすくめた。
しかし、一人テンションの上がっている者が居た。もちろんそれはロマニ・アーキマン――通称Dr.ロマンで、カメラをなまえに向けろと口うるさく立香に指示をしている。その度にマシュは冷たい眼差しをしていた。

『――さて、』

他愛のない会話をいったん区切り、Dr.ロマンは本題を切り出す。

『嫌な予感がすると言っていたけれど、それはどういうことかな?』

ふいと目を伏せるも、なまえは平然と答えた。

「勘」
「勘でここへ連れて来たんですか!?」
「マシュちゃん、女の勘は当たるものよ。特に、"嫌な方の勘"はね」

嫌な方……、とマシュは復唱する。立香はなまえを信じてくれているのか、その原因を探そうと言ってくれた。

「ここね、わたしの通っていた学校なの。案内も含めて、はりきって探索をしましょう!」

軽いし自由だな! というDr.ロマンの突っ込みを受けるも、なまえがこういう性格であることを理解しているのか、立香とマシュは行儀良く、はーいと手をあげた。

「あの、晴明さん。この学校はどういったところなのでしょうか?」

夜の学校を探索し始めるなりマシュはなまえに尋ねる。稲実は野球がとても強いことと、そして何より個人的にだが制服が可愛い学校だと説明をする。じっとなまえの姿を見つめ、確かに……、と立香は頷く。JK良い……、と続けてつぶやくDr.ロマンに、マシュは眉根を寄せた。
学校探索を始めてしばらくして、最後にある場所へと辿り着いた。

「ここって……」
「野球のグラウンドですね」

野球グラウンドを間近で初めて見たのか、立香は息を呑む。マシュも初めてなのか、大きいですね……! と感動の色をした。

「変わらないな、本当……」

一呼吸置いて、懐かしむようになまえは目を細めた。

「晴明さん、何か感じたりしますか?」

マシュに問われ、なまえはちょいと首をかしげる。しかし、今のところは特に、と軽く首を横に振る。思い違いか何かだったのかな? と立香。瞬間、すっとなまえは視線を上げた。

「――いえ。やっぱり当たったわ、"悪い勘"が」

驚く立香とマシュに通信音が割り込む。

『晴明さん……いや、晴明ちゃんの言う通りだ! すぐ近くに敵性反応があらわれた!』
「ドクター、言い直す必要はありましたか!?」

マシュの突っ込みもほどほどに、ふとなまえはグラウンドがよく見える場所に顔を向ける。そこに無数の黒い影のようなものが唐突にあらわれた。影は一箇所に集まり、ほどなくして人型と成した。少女にも見えるその影は、どこか見覚えのある姿をしている。じっとグラウンドを眺める影は、Dr.ロマンは敵性反応だと言ったが攻撃をしてくる気配はなかった。

「あれは敵なのでしょうか?」

マシュは警戒しつつ立香の一歩前に出る。なまえは冷静に相手を分析したのか、小さく息を吐いた。

「"有り得たかもしれない存在"、か」
『それはどういう意味だい? 晴明ちゃん』
「ドクター、帰ったら覚えていてね?」

にこっと笑顔するなまえに戦慄したのか、Dr.ロマンはあわてて手のひらで口を押さえたらしく、声は聞こえなくなった。

「晴明さん、"有り得たかもしれない存在"ってどういう意味ですか?」

改めてマシュはなまえに問う。なまえは影に視線をやりつつ淡々と紡ぐ。

「あれは恐らく、聖杯へ取り込まれる前にわたしが残してしまった魔力の一部だと思う。その魔力の残り香に引き寄せられた怨霊や亡霊達が集まって、姿を成してしまったのね」

つまり、と立香は悟ったのかなまえの代わりに続けた。

「あの影は晴明?」
「マスター、大正解」

あの影は"もしも"聖杯へ取り込まれず、この地に魂が留まっていたならばなっていたかもしれない自身の姿だとなまえは結ぶ。

「けれど、どうしてあの影は襲ってこないのでしょう? ずっとグラウンドの方を見ているようですが……」
「探しているのよ、"彼"を」

ピンと来たのか立香は一瞬表情を変える。マスターと呼ぶと、なまえは真剣な色を浮かべた。

「あれは放って置けば人に害をなす存在。早々に片付けましょう」

すぐさま結界を張ったなまえに、立香は驚いたものの頷く。マシュも首を縦に振ると戦闘体勢をとる。察知したのか、影は三人の方を見ると声とは言い難い叫びを発し、突如として襲い掛かってきた。

『気をつけて、来るぞ!』

黙っていたDr.ロマンだったが、咄嗟にアシストに入る。なまえも武器を形にして手に取るとマシュの隣に立つ。立香は構え、戦闘指揮をとった――。









影の敵はなかなか手強かったものの、立香の指揮のお陰で怪我等を負わずに勝利できた。完全に消滅したのを確認し、なまえは結界を解く。お疲れ様と労いあっている最中、しっ、となまえは声を落とした。

「誰か来るわ」
「えっ!?」

声を上げたのもつかの間で、ねえっ、と三人に声がかかった。途端になまえの身体は大きく震える。足音が近づくなり、Dr.ロマンは話がこじれてしまわないよう、通信は切らずに黙った。なまえは立香の後ろに急いで隠れる。
驚く立香とマシュのもとに、ある人物が姿を現した。

「こんな時間に何してンの?」

姿を現したのは、以前、なまえの家の前で会った少年――成宮鳴だった。運動をしていたのか、首にかけてあったスポーツタオルで汗を拭っている。
立香とは一度面識があったからか、あの時の……、と成宮は呟く。だがマシュを一瞥し、怪訝な表情を浮かべた。

「コスプレ大会?」

違うと否定しても今のマシュの姿ではどう言い訳をしても的を得た回答にはならないだろう。先輩、と助けを求めるマシュに、ええと、と立香は片手で後頭部をかく。しかし、成宮はこんな時間に学校の敷地に忍び込んだコスプレ一団をどうでも良いとでも言わんばかりに大きく息を吐いた。

「早く帰った方が良いよ。此処、出るらしいからさ」
「出る?」

そっ、と成宮は面白おかしく笑う。

「夜になると出るんだってさ、女の幽霊が」

おどろおどろしく幽霊を表現し説明をする成宮を他所に、もう退治したけど……、と心の中で返しつつ、立香とマシュは思わずなまえに視線をやりそうになる。そういうわけだから早く帰った方が良いと教えてくれるあたり、成宮はとてもやさしい人だと立香は感じた。

「あの、先輩」

こそっとマシュは立香に耳打ちする。

「この人は、もしかして晴明さんの……?」

以前にモニター越しで成宮の姿を見ていたのを思い出したのか、マシュの問いに立香はうなずく。マシュからの質問は、目の前にいる彼はなまえの彼氏で合っているか、というもの。以心伝心している二人だからこそできる、言葉にしなくとも分かり合える業だった。
マシュは少し考えた素振りをするも、表情を引き締め、あのっ、と成宮に話しかけた。

「せいめ――みょうじなまえさんとは、恋人同士……だったんですよね?」

すると成宮はムッとして返す。

「だった、じゃなくて、今でも恋人なんだけど」

ぱちりと目を瞬くと、ごめんなさい、とマシュはすぐさま謝る。フンッと鼻を鳴らす成宮に、次に立香が尋ねた。

「今でもその人のこと、好きですか?」

目を丸くするも、成宮は何をいまさらという風に肩をすくめた。

「当たり前じゃん。俺はなまえのことしか好きじゃねぇし。今も……これからも」

隠れているなまえが小さく身体を震わせ反応した。立香はマシュの顔を見る。これから何をしようとしているのかを悟ったのかマシュは、マスターの判断に任せる、と強かに頷いた。

「隠れてないで話をするべきだと思う」

立香は突然、誰かに語りかけた。成宮は首をかしげるも話を続ける。

「マスター命令。出て来い、"晴明"」

命令とは言いつつも優しい口調で立香。数秒間を置いてから、酷い人、とため息交じりに声が漏れる。立香の後ろから静かにあらわれた人物に、瞬間、成宮の動きは止まった。
ずっと想っていた、もう逢えないはずの愛しい人が、寸分違わぬ姿かたちのまま成宮の前にあらわれたのだ。

「なまえ……?」
「久しぶり……鳴くん」

呼ばれた名前に、声音に、成宮はゆっくりとした足取りでなまえの傍へと向かう。目の前に立ち、改めて姿を見るも間違はない。成宮の前に居るのは、想い焦がれていたなまえだった。
本物かという問いかけにふわりと微笑むと、成宮はなまえの腕を取り自身の腕の中に閉じ込めた。"ここに居る"ことを確かめるように、強く抱きしめる。
わっ、と後ろでマシュが小さな声を上げたが、立香により要らぬ目隠しをされた。見ちゃだめ、見ます、と二人が変な攻防を繰り広げている最中、なまえはこみ上げてくる感情をぐっとこらえる。軽く下唇を噛むも、息を吐いて落ち着くなり、応えるようにして成宮の背に腕を回した。
聞こえてくる心音に、不思議と安心感を覚える。

「信じてた……生きてるって、絶対、どこかに居るって……俺っ、」

成宮の言葉ひとつ一つに丁寧に相槌を打つ。少し落ち着いたところで、なまえはすべてを話すことにした。
成宮と別れた後に参戦した"聖杯戦争"のこと、そしてそこで、命を落としたこと――。けれども不思議なことに死んでは居らず、肉体は消滅したものの、魂だけは祖先である安部晴明に宿り、特殊な擬似サーヴァントとして魔術師である立香の召喚に応じ力を振るっていること。包み隠さずすべてを話した。
しばらく二人の時間を楽しみ、話が一区切りついたところで、あのね、と声をかけた。

「わたしね、今もこれからも、鳴くんのことが大好き」

一寸距離を取り背伸びをし、なまえは成宮の唇に触れるだけのキスをした。わっ、と誰かが声を上げたが、聞こえていなかったことにした。
ぱちりと目を瞬く成宮に、満面の笑みを浮かべる。

「"次に目が覚めた時、私のことは忘れ候え"」

息を呑む音が聞こえた刹那、成宮は意識を手放し、なまえの腕の中へ力なく身体を預けた。見ちゃだめ、見ます、という小競り合いをしていた立香とマシュだったが、突然のことにただ目を丸くしている。しかしすぐに、マシュが声を荒らげた。

「晴明さん!? いったい何をっ」

なまえの傍へ駆け寄り、立香とマシュは事態を早急に理解しようとする。さすがに驚いたのか、呪術をかけたのか!? と黙っていたDr.ロマンが問いかけた。成宮をぎゅっと抱きしめると、なまえはこくりとうなずく。

「呪術って、この人をどうするつもりなんだ?」
「あら、そんなに恐ろしい術ではないのよ?」
「じゃあ、いったい何の術を……」

眉根を寄せるマシュに、規則正しい寝息を立て始めた成宮を愛おしそうに眺めながら継ぐ。

「これから先、鳴くんの歩む道に、みょうじなまえという存在は要らぬ枷となるだけ」

だからね、となまえは寂しそうに目を細めた。

「この眠りから覚めたら、わたしという存在を忘れるように……そう、暗示をかけたの」
「じゃあ、この人が次に目を覚ましたら……」
「ええ、わたしのことは忘れているわ。今まで過ごした日々も、全部」

そんな……、とマシュは睫毛を伏せる。悲しむ必要はないと伝えるが、マシュは悲痛な色をした。これで本当に良かったのかと言うDr.ロマンに、最良の選択だと、名残惜しそうに成宮を抱きしめながらなまえ。
ほどなくして、マシュちゃんと呼び、成宮をグラウンドの中にあるベンチに運ぶのを手伝って欲しいと頼んだ。
ここまでの決断を下したなまえに、今度は敬意の眼差しを向けると、マシュは無言で手を貸した。
ベンチまで運び終えると、なまえは膝を折り、寝顔を覗き込む。小さく成宮が身じろぎした時、ズボンのポケットから何かが落ちた。
ちりんと音を立てて地面に転がったのは、つい先日渡した形見の鈴だった。見覚えがあったものだったからか、拾い上げるなり、これ……、と立香は呟く。なまえは腕を伸ばし、指先で鈴に触れると呪文を謡った。
何をしたのかと聞かれ、おまじない、となまえはつめの先で鈴をちょんと弾く。すると、ちりんと可愛らしい音を鳴らした。

「どこの馬の骨ともつかない輩が、わらわらと鳴くんに近づかないようにする為のね……うふふ」
「先輩、晴明さんの目が本気です! 怖いです!!」
「――というのは半分冗談で」
『半分!? じゃあ半分は本気なのかい!?』

当然でしょう? と平然としているなまえに、生身の女の人ってやっぱり怖い、とDr.ロマンはぼやく。残りの半分は? と立香は首をかしげた。

「これから先、たくさん幸運がありますように――って」

立香から鈴と取ると、もとの場所に戻してやる。
さて、と立ち上がると、そろそろ帰りましょうとなまえは告げた。立香は成宮を見つめ何かを思っているのか、唇を結んだままだった。代わりにマシュがDr.ロマンに帰還依頼する。わかったよ、とDr.ロマンは承諾すると、準備を始めたのか、カウントを始めた。

「……マスター」
「どうかした?」
「少し、胸を貸して」
「えっ、」

立香の傍へ行き、胸に顔を押し当てる。あっ!? とマシュが声を上げたものの、なまえの肩は小刻みに震え、嗚咽がこぼれる。立香は何も言わずになまえの髪を撫でた。戸惑ったものの、マシュもなまえの背をやさしくさすった。

「思いっきり泣いていいよ、"なまえ"」

立香の言葉に箍が外れたのか、現代からカルデアへ帰還すると同時になまえは声を上げて泣き始めた。
その声は悲痛で、とても寂しく、悲しい音だった――。









大切な何かが光とともに泡となって消えた。手を伸ばすも指の間をすり抜け、つかむことはできない。声を上げるも、それがいったいどんな名前なのか、形なのか、思い出すこともできない。

「――……、鳴!」

誰かに呼ばれハッと瞼を開いた。眼前には見慣れた仲間達の姿。二、三度目を瞬き、状況を整理する。

「こんなところで寝るなんて何してンだ、お前」

神谷カルロス俊樹に言われ、成宮はゆっくりと上半身を起こす。辺りを軽く見まわす。どうやらグラウンド内にあるベンチの上で眠っていたらしい。

「同室の奴に幽霊探してくるとか言って出てったまま帰って来ないから、みんなで探したんだけど」

白河勝之の言葉に、そうだっけ、と成宮は考える。何故、外で眠っていたのかはわからない。今までこんなことはなかったのにと口の中で呟く。

「鳴さんも見つかったことですし、早く戻りましょう」

安堵の色を浮かべる多田野樹に、お前が仕切るな、とカルロスと白河。多田野は体を小さくし、すみませんと謝った。
寮へ踵を返す仲間達の後を追うため、ベンチから腰を上げる。すると、ちりんと何かが音を立てた。視線を下げると、見慣れない可愛らしい鈴が地面に落ちていた。首をかしげ、何気なく鈴を拾う。
自分の物なのか、それとも誰かの落し物なのか、定かではない。しかし、何かが胸の奥底でつっかえたような気がした。それが何なのかはわからない。けれども、その鈴を捨ててはいけないと心が訴えていた。

「鳴、何してるんだよ。戻るぞ」

カルロスに呼ばれ、すぐに行くって、と成宮は返す。鈴をポケットに仕舞い仲間達のもとへ向かう。
ふと空を仰ぐと満天の星空が広がっている。
この空の下で何かがあったはずなのだが、やはり思い出せない。不思議な気持ちのまま、カルロスと白河にいじられている多田野に、樹ーうるせー早く戻るぞー、と同じようにからかい出し、悪戯気な笑顔を浮かべながら成宮はポケットの中で静かに鈴を握り締めた。


君は笑って、私は泣いてそれぞれを生きる

愛子||170730
(title=星屑Splash!)
(幕間のような話を目指しました。この後、夢主のプロフィールが追加され宝具レベルがあがります←
fate×diaはこれで書きおさめ。お粗末さまでした、ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました)