「なまえ」

部活終わり、背後から名前を呼ばれ振り向くと、両腕を後ろに回しニコニコと微笑んでいる小湊亮介の姿があった。肩から提げている鞄をきゅっと握り、なまえは一歩後退りする。お疲れ様です、と声を震わせて言うと、お疲れ様、と小湊は軽い足取りで傍へとやって来た。

「いつも頑張ってるなまえに、癒しをあげようと思って」
「あ、結構です。わたしの癒しは皆さんが頑張って練習をしているところを見るということなので」
「はい、これどうぞ」
「聞いてないよこの人」

小湊は隠していたものをなまえに無理やり手に取らせる。小湊から渡されたのは、海外ホラー映画のDVDだった。ふるふると手を震わせ、なまえは上目で小湊を睨む。

「亮介先輩……わたしが怖いもの嫌いだって、ご存知ですよね……?」
「あれ、そうだっけ?」

笑顔のまま小湊はちょいと首を傾げてみせる。あまりにもわざとらしい素振りに、なまえは顔を顰めた。ホラー映画は癒しだと言い、小湊は毎週一本ずつDVDを無理やり貸してくる。以前貸りたのは日本のホラー映画で、精神的にくるものがあった。今回はパッケージを見るからに身体的に痛そうなものだと察する。
いつから小湊はDVDを貸してくれるようになったのか、と考えるも、数秒と経たずに思い出すのをやめた。それにしても、様々な種類のホラーDVDをよくこんなに持っているなとなまえは思う。小さくため息をついた時、小湊はすっと手を差し出した。それを見て、そうだったとなまえは鞄の中を探った。

「はい、これ。ありがとうございました」
「怖いものは嫌いだって言うわりには、しっかり観てるんだね」
「お蔭様で観た後は電気を消して眠れなくなりましたけど」
「ちゃんと眠れているようで良かったよ」
「話聞いています?」

以前貸りていたDVDを小湊に返し、先程の物は鞄の中へ仕舞う。今日もまた眠れない日がやって来た、となまえは心の中で涙を流した。あのさ、と小湊はぽつりとこぼす。

「俺が言うのもあれだけど、嫌いなら観なければ良いじゃん」

鞄のジッパーを閉じるなり、なまえは小湊に視線をやる。小湊の表情に笑顔はなく、DVDのパッケージをじっと見ていた。断れるわけないじゃない、となまえは口の中で呟くも声には出さない。

「亮介先輩が好きなものを、嫌いだからって共有しないのは……なんか、その……」

口ごもり、ふいとなまえは目を伏せる。そんななまえに、ふっと小湊は微笑む。すぐ傍まで寄るなり、優しく頭を撫でてやる。なまえは驚き一瞬息を呑む。亮介先輩、と名前を呼ぶと、まったく、と小湊は紡いだ。

「その顔、俺以外に見せないでよ」
「え? えっと、それってどういう……?」

くすっと笑うと、小湊は次になまえの額に軽くデコピンをした。痛っ、とデコピンされたところの手のひらえ押さえ、何するんですか! となまえは眉根を寄せる。小湊はくるりと背を向けるもすぐに振り返った。

「好きな子ほど、いじめたくなるんだよ」

二、三度、瞬きをした後、言葉の意味を理解したのか、ぽしゅんとなまえの顔は真っ赤になった。


ああもう心臓止まれ!
(えっ、え? つ、つまりわたしと先輩って両想いだったのっ!?)

愛子||150521
(title=さよならの惑星)