先輩であるマネージャー藤原貴子からウォータージャグを洗って来るようにと言われた。土のついたウォータージャグをなまえは綺麗に洗い直す。
原因は一年生マネージャーの吉川春乃で、洗ったばかりのウォータージャグを躓いた弾みに地面に放り投げてしまったのだ。もちろん春乃は貴子達に怒られたのだが、まあまあとなまえは擁護した。すると、いつも甘いと一緒に怒られ、何故か罰ということで今に至る。春乃は怒られた後、丁度切れてしまった麦茶のパックを買いに近所のスーパーへと使いを命じられた。
グラウンドからは金属バッドの気持ちの良い音が聞こえてくる。時折それにあわせて聞こえてくる部員達の声に自然と表情は緩んだ。
ウォータージャグを洗い終え、水道をきゅっと捻ねり出していた水を止める。ふうっと息を吐いた時、背後から突然、強く抱きしめられた。唐突のことに驚きなまえは一瞬身体を硬くする。しかし、すぐに鼻腔をくすぐった香りになまえはほっと安堵した。

「何してるの、御幸」
「休憩」

なまえの肩に額をのせ、御幸は力なくため息をつく。どうやら一年生投手達から逃げてきたらしく、あいつ等俺の都合考えねぇんだもんなー、とこぼす。それだけ頼りにされてるってことじゃないの、と返すと、エゴイストなんだよあいつ等投手は、と御幸は即答した。どの口がそれを言うのか、となまえは口の中で思わず呟いた。

「今、俺の悪口言ったろ」
「あら嫌だ、何のこと?」

心の中を読まれたのかと一瞬どきりとするも慌てて否定する。へえ、と御幸は口角を上げるなり、ふっとなまえの耳に息を吹きかける。同時になまえはビクリと身体を震わせ小さく悲鳴を上げた。

「な、何するのよ!?」
「相変わらず耳、弱いな」
「わかってるならやめ――ひうっ!?」

言葉を遮るように、今度はなまえの耳に舌で触れる。耳の裏を丁寧に舐め、時には甘く歯を立てた。その度になまえは反応し、くぐもった声を出す。それが御幸にはたまらなく、そして愛おしく感じ、執拗以上に弱いところを責める。無意識になまえは御幸から逃げようとするも、いつの間にか腰に腕を回され、更に密着する形になる。下半身に硬いものが当たり、まさか、となまえは思った。ちょっと待って! と言葉に詰まりつつも潤んだ瞳で御幸を見た。

「い、今部活中なのになんてモノをあてて来るのかなっ!?」
「いやー、なまえが可愛くて……つい?」
「ちゃんとした答えになってないしっ。もっ、馬鹿じゃないの!?」
「馬鹿にさせたのはお前だろ?」

軽く笑いながら御幸は自身の下半身をなまえのお尻の辺りに擦り付ける。身の危険を感じたなまえは御幸の腕の中でもがいたがびくともしない。体力だけが奪われるような感じがし、うーっ、と唸った。それがまたツボを付いたのか、おもしれぇなー、と御幸は大きく笑った。その時、なまえにとってはまさに天の助けと言わんばかりに遠くから声が響いた。

「見つけたぞ、御幸一也ーっ!!」

グラウンドの方から猛スピードで走ってくる一年生投手の沢村栄純の姿。ナイス沢村! となまえは走ってきた沢村を見るなりガッツポーズをした。御幸は舌打ちすると、ゆっくりとなまえから離れる。なまえの後ろに隠れるようにすると、少し前屈みに立った。

「なんだよ、沢村」
「なんだよ、じゃねーよ! クリス先輩から少しだけ褒められた俺のストレート、受けてみたくはないかぁ!!」
「少しだけって……お前、それじゃ昨日も散々受けたエセストレートと変わってねぇってことだろ」

とにかく!! と沢村は先輩であるはずの御幸を再びフルネームで呼び捨てし指をさすと、ブルペンで待っていると威勢よく告げた。なまえにはしっかり挨拶し丁寧に頭を下げると、ブルペンのある方へと踵を返した。しっしっと手で払う御幸に、沢村は途中で立ち止まりくるりと振り返る。そして同じことをもう一度繰り返すと、駆け足で去っていった。
まるで嵐のような子だと沢村の背を目で追いなまえは苦笑する。そろそろ行きますか、と落ち着いたらしい御幸に、さっさと行けー、となまえは促す。置きっ放しにしていたウォータージャグの持ち手を掴み、待っているであろう貴子達のもとへ向かい歩き出す。気のない返事をしながら同じく歩を進めた時、なまえ、と御幸は呼んだ。呼ばれたなまえは振り返り首をかしげる。御幸はふっと微笑み言葉を紡いだ。

「今度のオフの時、覚悟しろよ」

一瞬何のことかと考えたが、すぐに理解出来たらしく、なまえは顔を真っ赤に染めた。


ハニースイートシュガー
「や、約束しても絶対二人っきりになんてならないからね! こ、今度のオフの時……さ、沢村とかも誘ってやるからね!!」
「んじゃその時は見せ付けるか。お前に悪い虫が寄って来ないように」
「せ、性格悪いぞ御幸一也!」
「コラコラ、お前まで沢村化するな」

愛子||190331(title=流星雨)