寮の食堂で昼食を済ませるなり、無性にコーヒーが飲みたくなった御幸は一度部屋へ戻るなり小銭を手に取ると、上着のポケットに入れ外へ出た。まだ11月初旬だというのに随分と冷え込んでおり、雪でも降るのではないかと考えてしまう。しかし今朝観た天気予報では日中晴れ間が続くだろうと言っていた。
自販機の前まで来ると御幸は小銭を取り出し一枚一枚入れていく。ふと、午前の練習で沢村が投げたボールを思い出す。何かアドバイスできることはないかと考えながらボタンを押すと、ガコンという音とともに買った飲み物が出てきた。腰を屈め腕を伸ばし飲み物を手に取る。商品名を見た瞬間、ゲッと御幸は顔を顰めた。
確か買ったものはホットのブラックコーヒーだったはずだ。だが御幸の手にあるのは温かいおしるこで、甘いものが苦手な為どうするかと悩んでいると、近づいてくる足音があった。視線をやると、小さながま口財布を片手にジャージの上から上着を羽織り、白い息を弾ませてこちらにやって来るマネージャー――なまえの姿。軽く手を挙げるとなまえはにこりと笑う。御幸の近くまで来るとお疲れ様となまえは言った。そうだと思い御幸は尋ねた。

「なあみょうじ、おしるこ飲める?」
「飲めるよ。ていうか、今絶賛おしるこの口!」

だから買いに来たんだー、と続けるなまえに御幸は良かったと安堵の息を吐くと、持っていたおしるこを差し出した。

「くれるの?」
「やるよ。俺、飲めねぇし」
「え、じゃあ何で買ったの?」
「コーヒー押したつもりだったけど、間違えて買ってたみたいでさ」

だからほら、と促すと意外な御幸が見れたとなまえは笑っておしるこを受け取った。間違えてしまったのならコーヒーは自分が買うと言い、御幸の代わりにホットのブラックコーヒーを購入すると、なまえは落ちてきた缶を手に取るなり差し出した。御幸は礼を言い好意を受け取ると、近くのベンチに腰掛けた。なまえも御幸の隣に腰掛け、缶を軽く振った後おしるこを飲み始める。あまりにも幸せそうにおしるこを飲んでいるなまえに、御幸は不思議そうな視線を向けていた。見られていることに気づいたのか、何? となまえは戸惑いつつ尋ねた。

「いや、よくそんな甘いものを平気で飲んでンなぁって思って」
「御幸こそ、よくそんな苦いものを平気で飲んでるよね」
「缶コーヒーってブラックでも結構甘いんだぜ」
「えー、絶対うそだ」

本当だと言う御幸になまえは嘘だと眉根を寄せる。そこまで言うならものは試しだとばかりに御幸は飲んでいた缶コーヒーを差し出した。それならとなまえも飲んでいたおしるこの缶を御幸に差し出す。御幸は一瞬渋い顔をしたが、ものは試しなんでしょ? となまえに言われ、仕方なく飲み物を交換することにした。

「つか、俺さっき甘いもの苦手だって言ったじゃねぇか……」
「苦いの嫌いなのにチャレンジするんだから、御幸も頑張って挑戦して」

苦手な飲み物を前にして躊躇った素振りを見せるも、お互い顔を見合わせるなり意を決したのか、飲み口に唇をつけきゅっと缶を傾けた。こくんと喉が動くと同時に飲み口から唇を離し、二人は同時に飲み物を返した。自身の飲み物が返ってくると、二人は急いで口直しをした。

「苦っ! コーヒー苦っ! よくそんなの飲めるね!?」
「甘っ。おまっ、よくそんなの飲めるな!?」

お互いに信じられないという色を浮かべ再び口直しをする。そっちの舌がおかしい、いやそっちが、と言い合っていると、ジュースを買いに来た一年生トリオ――沢村、小湊、降谷が二人の傍へとやって来た。三人は挨拶もそこそこに何を言い合っているのかと問いかけてくる。なまえと御幸は事情を話し、どちらの舌が可笑しいかと三人に意見を求めた。えっ、と三人は一歩後ずさり困った表情をする。

「別に、二人とも可笑しくはないと思うんですけど……」
「御幸先輩はコーヒー派、なまえ先輩はおしるこ派で良いんじゃないですか? ……面倒なので」
「コラコラ最後に本音を出すな降谷。しかも適当か」

つーんとそっぽ向く降谷に無視かと御幸は突っ込む。無視はだめだよ、と春市は降谷のわき腹を軽く突いた。ていうか、と口を閉ざしていた沢村は思ったことを二人に告げた。

「お互いの飲み物交換したってことは、先輩達、間接キスしたんスね」

沢村の言葉になまえと御幸は無言でお互いを見やる。そして一呼吸遅れてから、あっ、と声を揃えた。



青い少年少女
「ばっ、バカ村! もっ、何言ってるの!? べ、別に深い意味で交換したわけじゃないからね!? 勘違いしないでよ御幸! もっ、バカ村のバカ!」
「バカ連呼すんな! 何なんスか! つかなまえ先輩、顔赤いし!」
「うっさいバカ!」
「バカ言うな!」
「ちょ、栄純くんタメ口は駄目だよっ」
「コラ、バカ。もっと先輩を敬え」
「御幸先輩までバカっつった!」
「うるせぇバカ(つか、なんつー顔してんだよコイツ。俺までドキドキしてきたじゃねぇか)」
「(あれ、御幸先輩ちょっと照れてる?)」

愛子||190331(title=星屑Splash!)