また今日も部長である太田に車で送ってもらうのかと聞けば、なまえはフフンと不敵に鼻を鳴らして答えた。
「今日は高島先生と途中まで一緒に帰るのだよ」
「道中気をつけてくださいよ、最近物騒だし」
「え、やだ心配してくれるの?」
「だって先輩、女子だし」
そう言うとなまえは照れたように両頬を手のひらでおさえる。あの二人は絶対にそんなこと言わないのに、と呟いた後、にこりと笑みを浮かべた。
「ところで沢村、何座?」
「は?」
「沢村の星座、教えて」
突然なんだと思ったが、自身の星座を答える。血液型は? と続けて聞かれ、O型っス、と返した。ふむふむとなまえは相槌を打つと、突然あるものをテーブルの上に広げた。座る際に膝上にこっそりと隠していたらしい。なんスかそれ、と沢村は本に目をやり首をかしげる。すると、占いの本〜、となまえはページをめくりつつ言った。
「友達から良く当たるって聞いてね、思わず買っちゃった」
「先輩、占いなんて信じるんスか?」
「良い結果だけね。占いなんて当たるも八卦、当たらぬも八卦っていうし、一種の娯楽としてとらえていれば良いんじゃないかなーって思うよ」
普段、御幸と倉持にいじられ、その度に子どもの様な言動をするなまえを見ているからか、先程の言葉は沢村に衝撃を与えた。なまえでも頭の良い発言をするのかと内心驚き、思わずおろおろとしてしまった。そんな沢村を見て、失礼なこと考えたでしょ、となまえは眉間に皺を寄せた。
「えーと、沢村は……」
「何見てんだよ?」
と、他の部員達と話を切り上げて来たのか、なまえの後ろに立つなり倉持はひょいと本を取り上げた。倉持の横に御幸も並び、本の題名を声に出して読むと、ぷっと腹を抱えた。笑うな眼鏡このやろー、と文句をこぼすなまえの鼻を、御幸はむぎゅとつまんだ。二人が地味な攻防戦を繰り広げている間に、倉持は素知らぬ顔でぺらぺらと捲り、恋愛特集のページを開く。
「なあ御幸、何座?」
「さそり座」
「血液型は?」
「B型」
なまえの鼻をつまみながら御幸は淡々と答える。次に倉持は、なまえは? と尋ねた。ぺしぺしと腕を叩き、時に身をよじったりしてなんとか御幸から逃れようと動きつつ、舌足らずになりながら、なまえも自身の星座と血液型を伝える。倉持はページに目を落として指で紙をなぞる。沢村も席を立ち、倉持の傍へ早足で向かうと中を覗き込んだ。開いているページは「二人の恋愛相性チェック」と大きな文字と可愛らしいフォントで記されており、倉持の意図を読み取ったのか沢村はニタリと笑った。そして二人の相性が記された場所を見つけ、あっ、と声を上げた。
「なまえと御幸の相性……、」
「えっ、なに!? 眼鏡との相性が何!?」
「眼鏡って呼ぶな」
「いだだ!!」
少し強く鼻をつまむ御幸に、なまえはムキーッと声を上げる。沢村読め、と倉持に指示され代わりに文字を読んだ。
「えーと……"二人の相性はものすごく普通。友達としては良いかもね"だそうです」
「よっしゃ!」
グッとガッツポーズをしたなまえの鼻を、御幸は無言で引っ張る。色気のない悲鳴を上げるなまえに、馬鹿だろお前、と倉持は冷静に言った。
倉持から本を受け取った沢村は何気なく別の相性を探した。ようやく鼻を解放されたのか、さっと倉持の後ろに隠れ、なまえはまるで猫のように御幸を威嚇する。相変わらずの二人に倉持は小さく息を吐き、本当に元気だなお前ら、と呆れた色を浮かべた。その時、あった! と沢村は声を上げた。
「何があったんだよ、沢村」
「倉持先輩となまえ先輩の相性っス!」
意外な返答に倉持は思わず目を丸くし、別に聞きたくはないと言うも、耳はしっかりと沢村の方へ傾けていた。えーと、と沢村は書かれている文字を読み上げる。
「"二人の相性はともかく普通。友達としては良いね!"……だそうです」
「よっしゃっ」
倉持の後ろに隠れていたなまえはグッとガッツポーズをする。すると倉持はくるりと振り返ると、御幸がしていたのと同じようになまえの鼻をつまんだ。むぎゃあっ! と可愛くない悲鳴を出し、倉持の腕をぺちぺちとなまえは叩く。そんな二人を他所に、御幸は沢村のもとへ行くと本を取り上げた。
「確かお前、おうし座のO型だったよな」
「え、あ、はい。つか、よく知ってますね」
「さっきなまえに言ってたじゃねーか」
そういえば、と沢村はポンと手を叩く。オイオイ、と心の中で突っ込みながら、御幸はなまえと沢村の相性が記されている場所を探した。倉持から逃げ出すことが出来たのか、なまえは今度は沢村の後ろに隠れ、再び威嚇を始めた。しかし倉持も同じく威嚇を始め、二人を交互に見やり、なんだこれ……、と沢村は口の中で呟く。ようやく見つけたのか、御幸はぱちぱちと目を瞬いた。
「"ふたりの相性はバッチリ! もう今すぐに付き合っちゃえ!!"……だってさ」
御幸の読んだ文章を聞き、なまえと沢村は目を合わせる。数秒と経たずにニヤッと笑みを浮かべると、沢村の腕に抱きついた。
「幸せにしてね、沢村!」
「はあ!?」
突然そう言われ、思考は追いつかず素っ頓狂な声を上げる。からかっている色を浮かべながら、なまえはうりうりと肘で沢村のわき腹を突いた。何すンだよ! と目を吊り上げる沢村に、幸せにしろー、となまえは言い寄る。沢村は御幸と倉持に顔を向け、助けてくださいと懇願した。だが、二人は無表情のまま口を開いた。
「おめでとさん、沢村。大変だろうけどがんばれよー」
「とりあえず何かあれば鼻つまめば良いぜ。がんばれよ、馬鹿」
そう残すと、御幸は持っていた本をなまえにそっと返すと同時に二人してスタスタと食堂を出て行った。なまえに抱きつかれ身動きの取れない沢村は、ちょっ、と口を開くなり叫んだ。
「は、薄情者ーっ!!」
他の誰かに助けてもらおうとキョロキョロと辺りを見回すも、目が合うなりさっとそらされた。時間が来るなりつまらなくなったのか、なまえはいつの間にか離れ、副部長の高島とともに帰宅をした。
後日――沢村となまえが付き合い始めた、という噂があっという間に流れ広まったのはまた別の話である。
AとBの関係
後日、部活動にて――。
「なまえ先輩ーっ!」
「ちょっとあんたー!!」
「あの話、本当なの!?」
「わあっ!? どうしたの? 春乃に幸子、それに唯まで……」
「どうしたのじゃない! 沢村と付き合いだしたってマジか!!」
「本当ですか!?」
「本当なの!?」
「え、なんのこと?」
「「「あれ!?」」」
噂の張本人はすっかり忘れていた。
愛子||190331(title=tenuto)