選手たちの記録をノートに記入しているなまえの傍を通ったとき、ふわりと良い匂いがした。沢村は足を止め振り返る。意識して息を吸うと、甘い香りが沢村の鼻腔をくすぐった。

「なんか、良い匂いがするんスけど……」
「え、そう?」

シャープペンシルを動かす手を止め、なまえは沢村を見るなりちょいと首をかしげる。甘い匂いなんですけど、と続ける沢村に、もしかして、となまえは答えた。

「のど飴かな?」
「飴?」

なまえは舌を出し、小さな飴玉を沢村に見せる。今日は今朝から少し喉の痛みを感じ、今朝来るときにコンビニで色々な種類ののど飴を買ってきたのだと言う。体調を心配する沢村になまえは大丈夫だと返す。沢村はほっと安堵の息を吐いた。

「あ、沢村ものど飴いる?」
「え、良いんすか?」
「桃の味だけど大丈夫?」
「好き嫌いは特にないです!」

えっへんと胸を張る沢村に、さっすが、となまえは微笑む。パタンとノートを閉じ地面に置き、シャープペンシルを体操ズボンのポケットへ仕舞うと、なまえは沢村に向き直った。沢村の頬を両手で包み込むようにすると、なまえは背伸びをしぐいと顔を近づける。瞬きした瞬間、沢村の唇に柔らかな感触があった。目を見開くと同時に、舌で閉ざされていた唇をこじ開け、なまえは沢村の口の中に先程まで舐めていたのど飴を移す。コロンという小さな音が聞こえるなり、なまえはゆっくりと沢村から離れた。

「最後の一個だったの。しっかり味わいなさいよね」

じゃあね、と言うとなまえはノートを拾い上げた。手を軽く振り沢村に背を向け、シートノックを行っている選手達のもとへ行く。一人残された沢村はなまえの背中に目をやりつつ、落ち着け落ち着け、と高く早くなる心臓に言い聞かせた。口の中でふわりとのど飴が香り、コロンと小さな音を立てた。


スイート・キャンディ・スイート・ハニー
(え、俺、今、なまえ先輩とキスした!? いや、された……!?)

愛子||191020(title=リコリスの花束を)