小休憩に入ると、なまえは何気なくいつもの場所へと向かう。向かったのは御幸の前の席で、席の主はなまえを見るなり次の授業の準備を手早く終えると腰を上げた。いつもごめんと謝ると、気にするなと肩をたたかれた。
横向きに座ると同時になまえはハッと顔色を変える。

「御幸が、チョコを食べてる……!?」
「チョコを食ってちゃ悪いか?」
「珍しいと思って……!」

前にチョコレートを持ってきたことがあるのだが、その際、食べるかと聞いたとき、甘いものは苦手だからと断られたことを思い出す。しかし今、御幸はあの苦手だと言っていたチョコレートをつまんでいる。
珍しそうに見ていると、机の中から取り出したスコアブックを眺めつつ、御幸は個包装されているチョコレートをなまえに一つ差し出す。もちろんなまえに断る理由はない。表情を緩め、素直に受け取った。
鼻歌交じりに包装を開けていると、席を立っていた倉持が戻ってきた。いつも通りに集まっているのを確認し、無言で二人の傍へとやって来る。スコアブックに視線を落とし、この間の練習試合での記録かと問えば、御幸は頷いた。

「沢村の奴、調子悪くねぇよな」
「降谷も沢村に負けず、良い調子だぜ」
「ヒャハッ、確かにな」
「キャッチャーが良いからな」
「その一言がなきゃ素直に褒めてたのによ……」
「――ふぐうっ!?」

二人の会話に水を差すかのように変な声を上げたのはなまえだった。どうかしたのかと目をやれば、顔を青くしぷるぷると震えている。

「大丈夫か?」
「ちょ、ちょこれーと……」
「チョコが何だよ」
「……にがい」

は? と首をかしげる倉持とは逆に、御幸は腹を押さえ必死に笑いを堪えてる。終いには涙目になり、なまえはおろおろと飲み物を求めだす。そんななまえに御幸は盛大にふき出し大きく笑い始めた。笑いながらも鞄の中からペットボトルのお茶を取り出し渡す。なまえは慌てて受け取り、蓋をあけてすぐに飲んだ。口の中に残る苦味を一通り流し込むと、ペットボトルから唇を離す。まだ笑い続けている御幸を睨むと、なまえは目を吊り上げた。

「チョコ! 苦い! まずい!!」
「はっはっはっ! 苦いのは当たり前だろ? ビターだし」
「ビター!? 天敵のビター!? 馬鹿なの眼鏡バカなの!?」
「馬鹿言うな」

笑うのを止め腕を伸ばすと、御幸はなまえの鼻をつまみ上げる。色気のない悲鳴を上げるなまえに、いったい何がなんだかと倉持は眉根を寄せた。そんな倉持に御幸は簡単に経緯を説明する。因みに、なまえに渡したチョコレートはビターチョコレートで普通のものよりもカカオが多めに使われているのだ補足を加えた。
攻撃から逃れると、先にそれを言えと声を荒らげる。なまえは涙をぬぐいもう一度お茶を飲んだ。

「ビターを食べるとか人間なの!? 実は御幸、眼鏡のお化けかなんかでしょう!?」
「ビター食えるだけでこの言われようは何?」
「俺に聞くなよ」

なまえを指さし御幸は倉持に問うも一蹴される。そういうなまえはビターチョコレートを食べられないのかと倉持が尋ねると、あれは食べ物ではないと即答された。今のでビターチョコレートが好きな人間を全員敵にまわしたぞ、と御幸は呟いた。

「それより、お茶返せ」
「……ありがとう、助かりました」

蓋を閉め、御幸にペットボトルを返す。渡された時よりも量は減っており、次の休み時間の時に自販機で新しいのを買ってくるとなまえは言った。別に気にはしていないと御幸は受け取ったペットボトルの蓋を開けてお茶を飲む。飲み口から唇を離すと、思い出したかのようにあっと声を出した。

「間接キスしちまった」

つかの間の沈黙が三人の間に流れる。
しかし、すぐにそれは冗談っぽく笑う御幸により破られた。なまえのことをからかっていることに気づいた倉持は、お前なぁ、と腕を組み苦い色をする。ケラケラと笑う御幸と小さく息を吐く倉持とは反対に、なまえは密かに頬を赤く染めていた。予想外な反応をしたことに驚いた二人はぴたりと動きを止め、ぱちりと目を瞬く。
声をかけようとした時に、小休憩終了のチャイムが鳴り響いた。


素直さあっての恋言葉
「え。お前なにマジで赤くなって……、」
「う、うっさい! 眼鏡馬鹿、バカ眼鏡! イケメン眼鏡!!」
「最後褒めてるじゃねぇか……」
「うっさい倉持! もう席に帰るっ」
「(これは使えるな……)」
「(御幸の奴、次の休み時間もこのネタでいじるつもりだな……)」

愛子||210921
(title=星屑Splash!)