「ワンコくーん、そろそろ一旦休憩したらどう?」
声をかけるも沢村は走るのをやめない。再度、ワンコくん、と呼びかけるも無視をしているのか、それとも本当に聞こえていないのか、沢村はただ前を見て走っていた。なまえはむすっと顔を顰めると、ペットボトルをぐっと握り投球フォーム見せる。腕を大きく振りかぶると、思い切りペットボトルを沢村に向けて投げた。ボコッという音とともに投げたそれは沢村の背中を直撃する。周りからは拍手が起こり、ずべっと沢村はその場に倒れた。
「痛ってぇ!?」
声を上げ上半身を起こし、何が当たったのかと沢村は自身の背中を擦る。辺りを見回すと、地面には砂のついたペットボトルが落ちていた。遠くでは倉持や御幸達が腹を抱えて大爆笑している。何笑ってんだよ! と周りに怒る沢村の傍まで歩み寄り、ごすんとなまえは軽く手刀を落とした。
「……何で?」
「君が言うことを聞かなかったから」
上目で睨み、さっきのはなまえ先輩っすか? と沢村は問う。そうよ、となまえは平然とした表情で答えた。
「走ってばかりじゃなくて、少しは休憩も取りなさいよ。我武者羅に走るばかりが練習じゃないわ」
とりあえず飲みなさい、と手に持っているペットボトルを指差し促す。なまえの言っていることはもちろん沢村もわかっていた。少し考えた素振りを見せたが、沢村はなまえの言う通り水分補給をし始めた。麦茶を半分程飲むなり、沢村は清々しい色で一息つく。五臓六腑に染み渡る〜っ、と年相応の発言に相応しくない感想をこぼし、ありがとうございやす! と今度は明るい表情でなまえに礼を言った。
「そういえばワンコくん、最近走るペースが早くなってない? 最初の頃より、随分と体もしっかりしてきた気がするし……」
「マジっすか!?」
なまえの言葉に沢村は目をキラキラとさせ、自信満々に胸を張る。自分もそう思っていたのだと沢村は嬉々とした色で続けた。
「相棒との相性もどんどん良くなってる気もするし……やっぱり、継続は力なりってやつっすね!」
「相棒って、ただのタイヤよね……」
「ただのタイヤと侮るなかれですよ、先輩!」
グッと親指を立て沢村は歯を見せて笑う沢村に、そう、となまえは一呼吸遅れて相槌を打った。しばらく他愛の無い会話を交わし、沢村は残りの麦茶を一気に飲み干すと腰を上げ簡単にストレッチをした。空になったペットボトルを受け取り、また走るの? となまえも立ち上がる。もちろんです! と沢村は元気に頷いた。
「あの人達に少しでも早く追いつくために……今は、走り続けます」
ニッと微笑んだ沢村に、なまえもふわりと笑顔する。
「応援してるよ、沢村」
と紡ぐと、沢村は目を点とさせた。どうしたの? と首をかしげると、いや……、と沢村は片手で後頭部を掻く。
「なまえ先輩に名前呼ばれたの、なんか、久々な気がして。ちょっとビックリしたっていうか……」
「じゃあ、頑張れワンコ!」
「ちょっ、戻ってるし! さっきみたく名前で呼べよ!」
「先輩に対して敬語を使わない子は、ワンコで十分ですー」
ぐぬぬっと拳を握り悔しがる沢村に、なまえは大きく笑いたいのを我慢する。そっと腕を伸ばし背伸びをすると、くしゃりと沢村の頭を撫でた。
「早く一人前のエースになりなさいね」
優しい笑みを浮かべると、目を見張る沢村の頬に薄く赤色が差す。一瞬口ごもりながらも、おっす!! と沢村は返し、再びタイヤを引いて走りだした。その後姿は、入部してきた当初よりも逞しく見えた。
しゅわしゅわストロベリーサイダー
(君ならきっと、真のエースになれる)
愛子||150511
(title=tenuto)