『なまえさんへ
お昼11時にシュミレーター前にてお待ちしています。
服装は遊園地に行くような服装を推奨します。いえ、必ずそういった服装で来てください。
昼食はこちらで準備をしておきますのでご安心下さい。
PS.四不相さんはフォウさんと一緒に私と先輩でお預かりします。』
はてさて、時刻通りにシュミレーションルーム前に行けば一体何が起こるのだろう。時刻は午前9時半すぎ。少し寝すぎてしまった気はするが、昨夜のを思い出して仕方ないと照れた色を浮かべる。
辺りを見回せば、確かに四不相の姿もなかった。これはもう手紙に従う他ないようだ。
そうと決まれば顔を洗う為にベッドの外へ。"遊園地に行くような服装"――何着か普段着は持って来ては居たが、何処へしまっただろうか。まずは発掘することから始めなくては。
♪
指定時間10分前にシュミレーションルーム前へ到着。いつもとは違った心持ちと、服装と、何が起こるのかというワクワク感に胸はドキドキする。こんなにも気持ちが昂っているのは何時ぶりだろう。つい最近にも感じたのは確かだ。
なまえは輪廻転生を繰り返していた元仙女だ。封神演義の派生作品では引き名で記されている太公望の後妻である。封神計画実行時より太公望と共に行動し、いつしか二人は惹かれ合い、物語の後半で正式に夫婦となった。だが、結末はどの作品も同じで封神寸前の妲己に致命傷を負わされ道連れにされる。本来であれば封神台へ収められるはずだったが、収める場所が無く、けれども身体から離れてしまった魂は戻れず、いつしか浄化される運命を待つしかなかった。しかし、なまえはそれを良しとせず、自身の力を使い輪廻を巡る旅へ立つ。
それはいつか、最愛の人との再会を願って。
獣の呪いを受けながら、何十、何百、何千と流転の度を続けるも、長い歴史の中で様々な苦痛を受け続け、いつしか心を閉ざしてしまった。
封印は太公望が来てから少しずつ解けており、記憶も戻ってきている。二人が夫婦であり、探し求めていた最愛の人は
呪いは、祝福へと転じたのだ。
なまえが特殊な魂の持ち主だというのは、カルデアベースに居る者は既に周知の上である。
此処へ来る前に何名かのサーヴァントと職員達とすれ違ったが、皆目を丸くしなまえに視線を向けていた。白のカットソーに、子どもサーヴァントから貰った紙ねんどで作った苺を模したペンダントをつけて、淡いベージュ色のチノパンツと履きなれたバレエシューズを合わせた、カジュアルだが大人の雰囲気を纏った姿。利き手首には腕時計――ではなく、悲しいかな、緊急時に備えての通信機を巻いている。職員制服でも十分に目を惹く容姿をしているなまえだが、私服となると更に魅力が引き出されていた。すれ違った中で、ただ一人だけ違った反応を示した。生前を含めて何度か交流のある虞美人は、なるほどその手があったか、と興味深くなまえを見ては、また後で、と残して軽やかな足取りで去って行った。その時は、また後でとは? となまえは首を傾げつつシュミレーションルームへ向かったわけだが。
「よかった、ギリギリ間に合った」
背後から覚えのある声が聞こえ何気なく振り返る。瞬間、なまえは瞳を大きく開いた。お待たせしました、とすまなそうに謝ったのは愛しい彼――太公望なのだが、普段と全く雰囲気が違っている。
中華風の霊衣ではなく現代風の服装。黒のインナーの上にグレーと白のセーターとどこか見覚えのあるシルバーのネックレスをあわせ、インナーと同色のパンツに白の靴下、スニーカーを履いている。頭には狼をモチーフとしたモフモフ帽子を被っていた。左手には風呂敷に包まれた四角い大きな何かを持っていた。
「――え……?」
「驚きますよねェ。安心してください、正直に言うと僕もビックリしてます。なまえがいつもより可愛くて」
「あ……あり、がとう……」
慣れない空気感に互いに照れた色を浮かべつつ、なまえも太公望も、二人して相手の姿を見合う。内心、私の夫かっこよすぎッ、僕の妻かわいいきれいすぎっ、と大きすぎる感情が込み上げているのだが言葉にするのはグッと堪える。ええと、とややどもりながらも口を開いたのはなまえだった。
「そ、その格好どうしたの?」
「ん〜、やっぱり変でした?」
「ちがっ。素敵すぎて直視し辛いのっ! ――あっ。いえ、その、うぅっ」
つい本音が零れ、急いで噤む。しかし、はっきり聞こえた言葉に太公望は笑みを浮かべた。実は、と緩んだ口元はそのままに太公望は今日のことを話した。
ある日、なまえが勤務中、食堂でオデュッセウス他知略に長けた英霊たちとバックギャモンを楽しんでいた。他愛の無い話で盛り上がっていたが、いつしか妻や想い人の話題へ。様々な甘く温かな思い出やくすっと笑えるエピソードを耳にし、太公望は相槌を打ち時に目を細める。今世でのお二方はどうなのか、と突然話を振られ、当たり障りない程度に回答する。デートはシュミレーターを使って思い出の場所に行くことが多く、のんびり釣りをしたり昼寝を楽しんでいる――と言った時、ガタッと近くのテーブル席から足早に誰かが駆け寄って来た。
「もしかして、なまえさんと太公望は現代風のデートを楽しんでいないということ!?」
「恐らくそういうことだと思います、先輩ッ!!」
やって来たのは丁度、昼食を摂っていた我らがマスターこと藤丸立香とその後輩のマシュ・キリエライトの二人。偶然にもゴルドルフ・ムジークも居り、食事中は席を立たないの! とまるで父親のように注意をするが意味をなさない。立香もマシュも年頃の少女だ。英霊たちの話を聞きながら胸をキュンッと高鳴らせていたのだろう。そんな最中、刺激の無いデートを楽しんでいると何気なく語った太公望に抗議の声を第三者ながらも声を上げたのだ。マスター達が乱入したことによりバックギャモンは一時お預けに。太公望だけが別のテーブルに連れて行かれ、デートの詳細を聞かれるなり二人は頭を抱える。黙って聞いていたゴルドルフも、シュミレーターをもっと活用しなさいよ、とため息吐くものだから肩身が狭くなる。
「オススメのデートって、何かあります?」
待ってましたとばかりにキラリと立香の瞳が光り、マシュはどこからかサッとペンとメモを取り出す。現代で有名なテーマパーク名をつらつらと上げる立香に、もっと再現しやすいものにしなさい、とゴルドルフ。でしたら、とポンッと手を打ったのはマシュだった。
「オニランドはいかがでしょう。カルデアベースに記録も残っていますので、すぐに再現可能かとっ」
「それだッ!!」
パチンと指を鳴らした後に、さすが私のナスビちゃんやでぇ〜! とマシュを抱きしめ撫でまわす立香に、太公望はやや引きながら他に必要な物はあるかと問う。日にちは次になまえが一日休みの日に、時間はこちらの都合に合わせて午前11時頃なら助かると照れながらマシュは言う。その他のことは全てこちらで引き受けるから任せろと立香は胸を張るが、ただ一つだけ必要な物があるといえばあると告げた。
「服、流石に霊衣のままなのはどうかと思うから現代風の衣装に着替えなよ太公望」
現代風の衣装、と突然オーダーされ太公望は固まる。他にも現代風の霊衣を持っているサーヴァントはたくさん居ると聞かされ、カルデアとは何とも自由で気ままなところだと改めて思い直す。だが、現代風と言われてもどうもピンッと来ない。静かに悩んでいると、食事を終えたゴルドルフが得意気に助け舟を出した。
「推し作品に登場する人物にデートの服装をプランニングする……なかなか楽しそうじゃないかね、キミ達。ここは一つ、私に任せなさい!」
「貴族風じゃなくて若者風でお願いしますパパ」
「ジャラジャラ金属を付けた感じではなく、爽やかな感じでお願いしますお父さん!」
「私はまだ20代独身なんだがっ!?」
パパはやめなさい! と次いで突っ込み、そういうわけで、とゴルドルフは咳払いを一つ。太公望の服装はゴルドルフがプロデュースし、用意されたものを着ていたのだと言う。ちなみに手に持っている風呂敷は赤い外套のアーチャーことエミヤが作った行楽用の弁当で、後ほど一緒に食べようと太公望は言う。ちなみに、12時になると他のサーヴァント達も入れるようにするから1時間だけの貸し切りなのだと結んだ。理由は、太公望達の会話を聞いていた他の者達が自分達も遊園地デートをしたい、遊びたい、騒ぎたい! と申し出た為だ。ちなみに立香も息抜きしたいと便乗して騒ぎ始め、12時丁度にマシュとフォウくん、預かってくれると言っていた四不相達を引き連れ乱入すると宣言したらしい。
なるほど、此処へ来る前にすれ違った虞美人の呟きもやっと理解できた。虞美人達も後程、遊びに来るのだろう。
立香とマシュの思い付きと、ゴルドルフのファッションセンスに感謝しつつ、無意識に視線は頭に被っている狼を模した帽子に向く。太公望も気づいたのか、これはですねェ、と続けた。
「マスターから貰ったんです。テーマパークに行ったみたいで可愛いだろ!? と言われて」
ダ・ヴィンチの試作礼装の一つらしく、特に何の機能も付けていないので普通の帽子らしい。立香曰くダ・ヴィンチに借りて来たと豪語していたが、本当かどうかはわからない。太公望は帽子を脱いだかと思えば、ぽすんとなまえに被せにこりと笑顔。
「僕よりもなまえの方が似合います。ほら、更に可愛らしくなった」
「も、もう……っ!」
ふいと目を逸らすも頬は赤く染まり嘘を吐けない。利き手を伸ばしてなまえの手を取ると、太公望は指を絡めて手を握る。貸し切り時間は1時間――否、既に切っている。
「現代風のデート、楽しみましょうか。僕の愛しい
ただでさえ、嬉しくて照れているというのに言葉で追い打ちをかける。心の中で太公望に対して恋しい気持ちを叫びながら、なまえは深呼吸を一つ。気持ちを切り替えると、太公望の手をぎゅっと握り返した。
「はい、私の愛しい
二人並んでシュミレーションルームの扉を潜れば――眼前に広がるのは遊園地もとい再現された
緩む表情を頑張って引き締めるも、顔は素直で嬉しさを隠しきれない。共に歩く太公望を見上げると同時に、なまえはそっと寄り添った。
シンデレラの魔法にかけられて
(さあ、まずは何から楽しもう? 二人で過ごす時はどんなことでも尊い時間となる)
愛子||220731(title=Liebe)