季節は夏――といえばバカンスの時期。同居人――先日ライダー霊基で召喚された太公望はまだ帰って来て居らず、マイルームにはカルデア職員でオペレーターの立花なまえと四不相だけ。今日は早番勤務だったので既に仕事を終わらせ、次の勤務までのんびりと過ごすつもりでいる。だが、今はのんびりとはちょっと違い上機嫌に鼻歌交じりに着替えをしていた。そんななまえの様子を四不相は不思議そうに眺めている。
マイルームへ戻る間際、アマゾネスドットコムで注文していた品がエルドラのバーサーカー――ではなく、サーヴァント・ユニヴァースのペンテレイシアもといC.E.Oが届けてくれたのだ。書類にサインをして受け取ったダンボールの中身――それは、新調した水着と夏用サンダルだった。

「うん、サイズもぴったりっ。後は髪の毛を上げれば良い……かな?」

生前・・より縁を持つ虞美人から、水着の一着や二着くらい用意しておくのが妻としての役目であると焚きつけられたのが原因だ。虞美人がアマゾネスドットコムを利用して夏に向けてのグッズを一式買うと言っていたので便乗して一緒に購入してもらった。
緑色のシュシュで髪を一つにまとめ上げ、こんな感じかな? と鏡に映る自身とにらめっこ。シュシュはもう一つあり、利き腕の手首に巻いている。当日は髪をお団子にするのも良いかもしれない。
水着は、黒と赤がメインにあしらわれたチャイナ風ビキニ。サンダルも水着と併せて大きな赤い花があしらわれている。四不相が近寄りサンダルの花の匂いをかぎ始めたので、食べれないよ、となまえは笑った。
なまえは輪廻転生を繰り返していた元仙女だ。封神演義の派生作品では引き名で記されている太公望の後妻である。封神計画実行時より太公望と共に行動し、いつしか二人は惹かれ合い、物語の後半で正式に夫婦となった。だが、結末はどの作品も同じで封神寸前の妲己に致命傷を負わされ道連れにされる。本来であれば封神台へ収められるはずだったが、収める場所が無く、けれども身体から離れてしまった魂は戻れず、いつしか浄化される運命を待つしかなかった。しかし、なまえはそれを良しとせず、自身の力を使い輪廻を巡る旅へ立つ。
それはいつか、最愛の人との再会を願って。
獣の呪いを受けながら、何十、何百、何千と流転の度を続けるも、長い歴史の中で様々な苦痛を受け続け、いつしか心を閉ざしてしまった。こころも耐えきれなくなり、記憶と力を封印しての最初の流転が今――みょうじなまえだ。
封印は太公望が来てから少しずつ解けており、記憶も戻ってきている。二人が夫婦であり、探し求めていた最愛の人は太公望というのも魂で理解した。
呪いは、祝福へと転じたのだ。
なまえが特殊な魂の持ち主だというのは、カルデアベースに居る者は既に周知の上だ。
水着のサイズは申し分ない。生地もしっかりしているし、何よりデザインが可愛らしい。ただ、ちょっと"意識しずぎた"かもしれないが。両膝を折り四不相を撫でながらなまえはぽつりと呟く。

「次のお休みは、子牙と私と四不相で川遊びしようか」

川遊びと聞いて四不相も嬉しいのか、なまえにすり寄り甘えた。しかし、数秒と経たずズンッとなまえの顔は曇る。もふっと四不相を抱きしめ、スンスンッと鼻を鳴らして肩を揺らした。

「次、いつ休みとれるだろう……」

カルデアは常時人手不足の状態だ。一日の休みを取るのも職員内で大戦争になるし、自分が抜けた穴は誰か代わりの職員で補わなければならない。昔は良かったなぁとまだ若いのに年寄りじみた声をこぼす。元気を出してと言わんばかりに四不相はなまえの頬に鼻を寄せて慰めた。今月辺りに何とか有給で一日の休みはもぎ取るつもりだと伝え、なまえは立ち上がった。

「水着はその時まで隠しておこうっ」

サプライズで太公望に水着姿を見てもらうのも悪くはない。よしっ、色々と決意を新たになまえは普段着に戻ることにした。

「おや、帰ってたんですね?」
「あ、お帰り子牙――きゃぁぁあっ!?」

サプライズは秒と掛からず失敗に終わった。マイルームの扉が突然開き、同居人こと太公望が帰ってきたからだ。咄嗟に小さな四不相の後ろに回ってしゃがみ込む。隠れるに隠れ切れていないなまえの姿に、太公望はパチリと瞬く。

「なまえ、その姿……」
「ぁ、ぅ、えぇと……」

誤魔化そうにも上手く言葉が出てこない。まじまじと注がれる視線に耐えきれず、ゆっくりと立ち上がった。

「夏なので……今度のお休み……川遊びが出来たら良いなぁって」

心構え無しに、愛しい人に見られると恥ずかしい。生まれたままの姿を見られている仲ではあるが、水着は少し違うのだ。

「その水着……もしかして、」

何かに気づいたのか、太公望はぽつりと呟く。言わずもがな、水着は太公望を意識したデザインのもの。初めて水着の写真を見た時、自分にはこれしかないと思った。
ふるふると何故か小刻みに震え、興奮を隠しきれない色を浮かべていた。瞼をぱっちりと開き、瞳の中にしっかりとなまえの姿を焼き付ける。
見られている側は恥ずかしさでそろそろ限界だ。ゆっくりと歩み寄ってくる太公望を前に、咄嗟に身体を小さくする。

「あ、あのっ。き、着替えるから……」
「なまえ」
「ちょっと外に出て行って、」

瞬間、なまえは温かい何かに包まれた。その正体は太公望の両腕の中で、ぎゅっと強く抱きしめられる。

「――刺激が強すぎるんですが」
「そ、そんなこと……」

無い、とは言い切れず声が喉の奥で途切れた。自分でも薄々気づいてはいた。いま着ている水着は、布面積がやや少ない気がする、と。それでも、この水着が一番らしい・・・と思い切って購入したのだが。
本当は、今度いつもの渓流へ出かける時に着て驚かせようと思っていたと告げる。こつんと互いに額を合わせれば、目を逸らすことが出来なくなる。

「とても、美しい」

最初に出会った頃と同じ台詞を掛けられたのを覚えている。その一言はなまえにとって最上の褒め言葉であり、胸の中をいっぱいにした。

「独り占め、して良いよ。水着、初めは子牙に見て欲しいって思っていたもの」
「言われなくても。誰よりも先に見れて光栄です」

腕をほどき、互いに手のひらをあわせて指を絡めて握り合う。自然に唇同士が触れ合おうとした時、モッモッ! となまえの足元を四不相が鼻が撫でた。うひゃぁっ!? とくすぐったくて思わずなまえは声を上げる。二人の視線が下がり四不相を見ると、フンスッ! と何やら鼻息荒くした。あっ、と声を上げたのはなまえで、握っている手を解くと改めて両膝を折る。

「私の水着、最初に見たのは四不相だったね」

そうだと言わんばかりに四不相はこくこくと頷く。腕を伸ばして四不相の撫でつつ、ごめん、となまえは謝った。そうかァ〜、と太公望は残念そうな色を浮かべる。

「なまえの水着を初めに見たのは、僕ではなく四不相だったか。負けたなァ〜悔しいなァ〜」

それなら、と太公望はポンッと手を打つ。

「このことは僕と四不相だけの秘密にしましょう」

その提案が嬉しいのか、四不相は何度も大きく頷いた。秘密は、次になまえが渓流で水遊びをする為に水着を身に付けるまでの間。川遊びをするなら、マスターである藤丸立香やデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライト達も呼び大いに楽しむのも悪くないだろうと添えれば、なまえはもちろん賛成した。

「なまえ」

何気なく名前を呼べば、ん? とちょいと首を傾げて太公望へ顔を向ける。その刹那に、頬に触れるだけの接吻キスを一つ。不意打ちにも似たそれに、なまえはぱちりと目を瞬いた。

「――この続きは、四不相が出かけた後で」

囁くように耳打ちする。瞬間、ボッとなまえの顔が赤くなり、隠れ切れていないのは重々承知の上だが、再び四不相の後ろに隠れた。それを見て太公望は大いに笑い、何? とでも言いたげに四不相はなまえに顔を向けた。


スピカとレグルス
(乙女は肉食獣に狙われている)

愛子||220822(title=Liebe)