(※霊衣ホワイトローズの表現及び公式設定と違い捏造描写が多々あります。苦手な方はご注意ください。)



届いた大きな箱を両手に持ちなまえはぱちぱちと目を瞬く。先程、ダ・ヴィンチからの贈り物ということで、後輩のマシュ・キリエライトが持ってきたのだが中身までは聞いていないと言っていた。しっかりと届けましたので! と自身の任務を全うしたマシュはその足で食堂に居るであろう、なまえと同期の藤丸立香のもとへ向かった。
とりあえず箱を開けてみないことには始まらない。部屋の中心に箱を置き蓋を開けてみる。そして静かに息を呑んだ。
箱の中には純白なドレスが入っていた。まるで物語に出てくるお姫様のようだ。細部までしっかりと装飾が施されており、見ているだけでため息が出そうになる。手に取り広げてみると、あまりの美しさにほうっとなまえの表情は緩んだ。新しい礼装かなにかだろうか、と考えているとはらりとドレスから何かが落ちた。一旦、ドレスを箱に戻し落ちたものを拾う。落ちたのは文字の書かれたメッセージカードだった。

【 Dear,なまえちゃんへ このメッセージを読んだらすぐにドレスに着替え管制室へ来るように。来なかったら怒るぞ! というか私が怒られるから大至急!! From 世紀の大天才より 】

怒られるって誰に? となまえが首を傾げると同時に通信が入った。

『ハロー! 元気にしてるかい?』
「うひゃあっ!? ダ・ヴィンチちゃん?」
『やあ、ダ・ヴィンチちゃんさ! ところで贈り物は届いたかい?』

ついさっき、と答えると、それは良かった! とダ・ヴィンチは微笑む。

『それじゃあカードにも書いていた通り、ドレスを着て管制室へ来てくれたまえ! 10分以内に!!』
「えっ!? 10分以内!?」
『この通信での会話とかその他諸々の時間を差し引いて10分。そういうわけで、本当に急いでね?』
「そういえば怒られるって書いてたけど一体、」
『お願いだからね!?』

ダ・ヴィンチは強い語気で念を押すと通信を切った。本当に誰から怒られるのだろうかと疑問は尽きないが、とりあえずダ・ヴィンチの頼みとあっては断れない。ドレスを一瞥すると、なまえは軽く肩をすくめた。



管制室に辿り着くまでに誰にも会わなかったことが奇跡だと思った。到着すると、待ってたよ〜!! とダ・ヴィンチはすぐさま駆け寄って来た。全身を舐めまわすように見ると、ふむっとダ・ヴィンチは満足気に笑みを浮かべる。ドレスと、箱の中に一緒に入っていた同色のパンプスのヒールをコツンと鳴らしてなまえは恥ずかしそうに体を小さくした。誰かが、カメラはよ、写真班急げ! と騒いでいたが気にしている場合ではなかった。

「じゃあ、さっそくレイシフトをしよっか」

ダ・ヴィンチの言葉になまえは目を大きく見開き、どこに!? と尋ねるも教えてはくれない。行ってからのお楽しみだよん! とダ・ヴィンチはなまえをレイシフトの位置まで移動させるとパチンとウインクを一つ。カウントダウンが始まり、ええーっ!? という叫びも空しくなまえはどこかへ強制的にレイシフトをさせられた。
そして――閉じていた瞼を開くと見覚えのある景色が映った。レイシフトをした先は第六特異点として訪れたことのあるキャメロット城の中に似ている。しかし、城の中だというのに誰も居らずなまえは不安を抱きつつも、こつこつと靴音をならして長い廊下を歩き始めた。一定間隔にある窓から時折、外を眺める。景色は夜で、きらきらと宝石のように輝く星々の真ん中に大きな満月が浮かんでいた。
廊下を進むと分かれ道が現れた。左手に進むと玉座に続く階段があり、右手に進むと――どこだっただろうか。少し悩んだ末に行ったことのある玉座の方へ進むことにした。もしかしたら獅子王ことランサーのアルトリア・ペンドラゴンや円卓の騎士達が居るかもしれない。淡い期待を抱いてなまえは左に足を進めた。
程なくして階段を上りきると、目指していた玉座の間へと辿り着いた。重い扉を開くと、部屋の中心に見慣れた人物の姿があった。

「アーサー……?」

驚いて名前を呼ぶと、なまえが唯一契約をしているサーヴァント、アーサー・ペンドラゴンはふわりと微笑んだ。

「良かった、来てくれて。待っていたんだ」

ダ・ヴィンチ氏に頼んだ甲斐があったよ、とアーサーは続ける。もしかしてダ・ヴィンチが怒られると言っていた相手はアーサーだったのだろうか。アーサーはゆっくりとなまえの傍へやって来る。
ふと、なまえはあることに気がついた。玉座の間なのにやはり人は居らず、尚且つ、アーサーの服装がいつもと違う。

「あの、他の人は? お城なのに人の姿が無いのだけれども……」
「今は全員、城を出ているからね。だからここに居るのは、僕となまえの二人だけなんだ」

全員が城を出ているとは一体どういうことかと問うと、アーサーは少し唇を閉ざしたものの、実はね、と答えた。

「なまえと踊るために、無理を言って空けてもらったんだ」

円卓の騎士達はアーサーの願いを聞いた後、快く了承をしてくれた。アーサーにとっては別世界の自分ことランサーのアルトリアは渋りに渋ったらしいが、円卓の騎士達の助けもあり最後は頷いた。流石アーサーと呟き、次いでもう一つのことを尋ねる。

「ところで、その服装は……?」

アーサーが着用しているのは白と青を基調としたタキシード。胸ポケットには純白の薔薇を挿しており、いつもの騎士のような出で立ちとは違い、まるで本物の王子様のような格好だ。見慣れない姿に視線を逸らすことができず、あまりの素敵さになまえの胸は高鳴り頬に熱がのぼっていく。

「ダ・ヴィンチ氏から貰ったんだ。ホワイトローズ、という名の衣装だそうだよ」

ダ・ヴィンチちゃんグッジョブッ!! と心の中で感謝を述べていると、ちなみに、とアーサー。

「なまえの着ているそのドレスは、ホワイト・リリーという新作の礼装らしい」

ドレスに視線を下ろし、これは礼装だったのかと知る。新作……と口にこぼすや否や、アーサーは胸元の薔薇を手に持つとなまえの片耳の上に載せて髪に挿した。薔薇の棘は既にとってあるのか痛みはない。

「とてもよく似合うね。綺麗だ――なまえ」

大きく息を呑み、一呼吸あけてから、ありがとうと礼を言う。アーサーはなまえの手を取り玉座の間の中央へと移動した。再び向き合う形となると、もう片方のアーサーの手はなまえの腰に添えられた。

「それじゃあ、踊ろうか」
「ま、待ってっ。踊るって言っても、わたし、ダンスなんてしたことないし……」
「実を言うと僕もあまり得意ではないんだが……大丈夫、力を抜いて。精一杯、エスコートしよう」

そう言ってアーサーはなまえをエスコートして踊り始めた。壮大な音楽も無ければ煌びやかな照明もない。大きな窓から差し込む月明かりだけが、くるくると踊る二人を照らしていた。
なまえのダンスは決して上手というわけではなかったが、得意ではないと言っていたもののアーサーが丁寧にカバーをし、まるで蝶のように優雅に可憐に舞っていた。いつの間にかなまえの顔に笑みがこぼれた刹那、履きなれないパンプスの所為でドレスの裾を踏んでしまった。小さな悲鳴を上げて倒れそうになるもアーサーが支えてくれた。

「大丈夫かい?」
「ありがとう、アーサー……」

ほっと安堵したのも束の間で、すぐ目の前にアーサーの顔があった。ほんの数秒見詰め合っていたが、そっとアーサーの手がなまえの頬に触れる。

「今日は共に踊ってくれてありがとう」
「わたしの方こそ、ありがとう。すごく楽しかった」

はにかんで伝えると、アーサーも嬉しそうな色を浮かべるなりなまえの額に触れるだけのキスを一つ。

「またいつか、こうして僕と踊ってくれるかい?」

なまえは頬をほんのりと赤く染めて頷く。良かった、とアーサーは表情を緩めると、今度はなまえの唇に触れるだけの口付けを落とした。

「まだ時間はある――もう少し踊ろうか」

もちろん断る理由はない。むしろ、もっとアーサーと一緒に居たい。

「よろしくお願いします、アーサー」

応えるように頷くと、アーサーは再びなまえの手を引き踊り始めた――。


寵愛の揺りかご
(時間の許す限り、君と、あなたとともに――)

愛子||180314(title=睡郷)
(今年のホワイトデーは運営さんに感謝しかありません…)