(※捏造旧剣オルタ設定が盛り込まれています。また公式設定とは異なっていることが多々あります。苦手な方はご注意ください)

ある特異点の修復を終え、無事にカルデアへ戻ってくることが出来た。それから数日後、カルデアに新たな英霊が召喚された。その英霊は藤丸立香ではなく、みょうじなまえとしか契約を結ばないと頑なに拒み、結果、その通りに話は進んだ。なまえが契約をしたのはセイバークラスのサーヴァント――なのだが、とある特異点で汚染された聖杯に取り込まれて反転したアーサー王ことアーサー・ペンドラゴン。先に契約をしていた蒼銀の騎士――アーサーは、なまえを守るように庇っていたが、黒衣の騎士と契約が成立してしまったことに苦い色を浮かべていた。
黒衣の騎士は契約をしてすぐに霊体化し、姿を現すことはなかった。しばらくはアーサーがなまえの傍に居り警戒は怠らなかった。だが、黒衣の騎士が何をするわけでもなく大人しくしていることに安堵したのか、ある日、一時だけなまえから離れた。それを狙ったかのように、黒衣の騎士は久方ぶりに実体化した。
アーサーからは用が無い時はしばらくはマイルームから出ないようにと念を押されていたなまえは本を読んでいたが、突然かかった影に視線を上げ息を呑む。

「元気にしていたか? マスター」

黒衣の騎士は微笑み問いかけてくる。なまえは一瞬、表情を強張らせたものの小さく深呼吸し、ええ、と頷いた。黒衣の騎士はいつもアーサーが座っている席に腰掛ける。パタンと本を閉じ丸テーブルの上に置くと、久しぶりだね、となまえ。

「全然姿を現さなかったけれども……どこへ行っていたの?」
「同族のもとにしばらく居ただけだ」

同族という言葉になまえはちょいと首をかしげる。思い当たる人物が何名か居たため、恐らく立香と契約をしている誰かのもとだろうなと考えた。

「今日は運の良いことに煩い騎士王が貴様から離れたのでな。こうして我がマスターに会いに来た、というわけだ」

煩い騎士王とはなまえから離れたアーサーのことだろう。同一人物だというのにどうしてここまで性格や言動が違うのか、なまえは不思議でならなかった。乾いた笑みを浮かべていると、ところで、と黒衣の騎士。

「痛みはもう無いのか? 最初は酷く苦しんでいたようだが」

と、令呪の宿る腕を指差し言う。なまえは袖をまくり、もう大丈夫、と伝えた。手の甲から二の腕にかけて黒い羽のような文様が刻まれている。赤く刻まれた令呪とは別に黒い羽のような文様は、例の特異点でとあるサーヴァントと無理やり魔術回路を繋がれた際に宿していたもの――否、令呪だ。令呪が二つも身体に刻まれるなんて話は聞いたことがないとダ・ヴィンチも驚いていた。黒衣の騎士と契約し、黒い令呪が宿った数日間は痛みに苦しんだが、唐突に身体は楽になった。その間、アーサーはずっと傍に居てくれたが、目の前の彼の姿はどこにもなかった。
あの時――無理やりパスを刻まれたことは今でも忘れはしない。特異点での出来事だとしても、忘れられるはずはなかった。けれども、恨んでいるかと問われると返答に困った。許すことは出来ないけれども、恨んではいない。だって目の前のサーヴァントは、根本は"彼"なのだから。
一呼吸置いてから、そうか、と黒衣の騎士は頷くと唇を閉ざした。
突然訪れた沈黙になまえは程なくして耐え切れなくなり、ええと、と戸惑いながらも話しかける。

「あ。名前! その、アーサー……だと、なんだか……」

だからええと、と言い淀むなまえの意図を読んでか黒衣の騎士は軽く息を吐いた。

「セイバーで良い。その方が貴様も気を使わなくて済むだろうし、呼び慣れているだろう」

心の中で、この世界のアーサー王ことアルトリア・ペンドラゴン達の呼び方をまた少し考えないなと思っていると、黒衣の騎士は腰を上げた。ゆっくりと近づき、すぐ傍に来るなりそっとなまえの頬に手を添えた。

「だが……たまにで良い。我が真名を口にすることを許そう――なまえ」

低く重みのある声音で黒衣の騎士――否、セイバーは言った。夜空に溶け込むかのような真っ黒な鎧に、まるで星のように美しい金色の髪――同色の冷たい瞳。逸らすことが出来ず、金色の瞳に吸い込まれてしまいそうになる。うん、と頷くとなまえはふわりと微笑んだ。

「わかった――アーサー」

満足気にセイバーは表情を緩めると、なまえの額に触れるだけのキスを落とす。何かを察したのか扉の方を一瞥するとすぐに霊体化となり姿を消した。
額に残った柔らかな感触に不思議と胸を高鳴らせた刹那、マイルームの扉が開き蒼銀の騎士――アーサーが戻ってきた。手にはなまえの大好きなプリンを持っており、穏やかな色を浮かべている。おかえりなさい、と声をかけるとアーサーは、ただいま、と笑った。


堕ちていくことさえ愛の歌
(嗚呼。この気持ちは、いったい――)

愛子||180320(title=空想アリア)