「やっぱり、私の見立てどおり!」
パチンと手を叩きキラキラと輝いた瞳で全身を舐めるようにしてみてくる同性で同期の藤丸立香とは裏腹に、なまえは両腕で必死に自身の体を隠していた。
マイルームへ遊びに来た立香に、早々と手渡されたのが今来ている服だった。ノースリーブ以上にノースリーブな上に、下着が見えてしまうのではないかというくらいのミニスカート丈。背中が丸見えのセーター、通称――童貞を殺すセーターだ。着なければ胸をわしわしと揉みしだくと脅されて渋々と言うとおりに着てみたのだが、着ているというよりも着られているという表現の方が正しい状況だ。特に胸が。
これは立香のようにスタイルの良い者が着るべきではないのかと抗議すると、けろっとした表情をされた。
「着るよ?」
なんだとっ、と衝撃を受ける。
「私も後でそれを着て、ドクターを悩殺(ころ)しに行くつもり」
恋する乙女のような仕草をする立香に、あいたー、となまえは頭を抑えた。立香はロマニ・アーキマン――Dr.ロマンに想いを寄せている。激しすぎるスキンシップに見ているこっちが冷や冷やとするくらいにDr.ロマンに対しては押せ押せなのだが、立香からのアプローチを受けている当人は上手くかわし続けている。それにとうとう痺れを切らしたのか、立香は今回、インターネットでも話題となったこのセーターをダ・ヴィンチ経由で極秘に取り寄せ、Dr.ロマンに再度、今度は過激なアプローチを行う予定らしい。
どうして二着も取り寄せたのかと聞くと、このセーターはなまえが着るとかなり可愛いと思って! と立香。答えになってないよと肩をすくめた時だった。
「マスター、ちょっと良いかな。さっきアルトリアが……」
扉が開き、契約をしているサーヴァント――マーリンはマイルームに入ると同時に動きを止めた。あまりのタイミングの悪さに声は出ず、代わりに心の中で絶叫するなまえとは逆に、やっほーと立香はマーリンに手を振り挨拶する。
「よし。それじゃあ私も準備してこようかなっ」
良い報告を期待してて〜と残し、立香はマイルームから出て行った。
ぽつんと二人だけが残され、シンッとした空気が訪れる。ここは安息の地であるマイルームのはずなのに、どこかへ逃げたいと口の中で呟く。しかし、この空気をなんとかマスターである自分が払拭しなくてはと思い、恥ずかしさに耐えつつ唇を開いた。
「えっと、アルトリアがどうかしたの?」
静かに歩み寄って来るマーリンにぎこちない笑顔を見せて問いかける。傍に来たかと思うと、唐突にぎゅうっと抱きしめられた。驚いて名前を呼ぶも離してはくれない。あいている背中にマーリンの温かな手が触れ、くすぐったさに声が出る。するとさらに抱きしめる腕に力がこめられた。
「マーリン、」
恥ずかしさと、困り果てたのとでもう一度、名前を呼ぶ。すると、ふるふるとマーリンの体が小刻みに震えたかと思うと、バッと勢いよく肩に手を置かれ身体を離された。
「マスター! ななな、なんて格好をしているんだい!? いや、私としてはとても役得というかどう言葉をかけて良いのか悩むのだけど……とりあえずその服、最高だね!?」
「あ、ありがとう!?」
興奮冷めやらぬ表情で早口にそう紡いだマーリンに、勢いに任せて礼を言う。マーリンはじっとなまえを見つめるもすぐに愛でるような色に変わり、再び強く抱きしめた。
「マーリン!? えっと、その……恥ずかしいのだけれども……とりあえず、離して?」
どうしても離して欲しい? と耳元で尋ねられ、戸惑いつつもこくりと頷く。なら、とマーリンは続けた。
「その服、今度は私のためだけに着てくれないかい?」
一呼吸あけてから、えっ、と驚く。駄目なら離すわけにはいかないとマーリン。早く着替えたいしこの状況が続くのも困る。軽く深呼吸をすると、わかったと弱々しい声で返事をしたが、何て言ったのかとマーリンは悪戯っぽく尋ねてきた。このサーヴァントは……! と先に文句が出てしまいそうになったがぐっと堪えた。
「今度はっ、マーリンのために……この服を着ます」
そう約束を交わすと、マーリンは少し名残惜しそうにしながらも離れた。だが嬉しそうに笑みを浮かべている。
自分のサーヴァントだからか、それとも惚れた弱みだからか、マーリンの顔を見ただけでこちらまで満足してしまった。たまには女性らしい、変わった服装をしてみるのも良いかもしれない――今頃、同じ服を着てDr.ロマンを悩殺しているかもしれない立香に、こっそりと感謝をした。
残念ながらべた惚れ
「ところでマーリン、アルトリアがどうし――」
ふと思い出し、訪ねてきた理由を問おうとした時、ノック音の後に扉が開いた。
「マスター、宜しいですか? 先程、アーチャーが美味しいケーキを焼いてくれて……」
訪ねてきたのは同じく契約をしている青いセイバーことアルトリア・ペンドラゴンで、なまえの姿を見るなり先程のマーリンと同じように動きを止めた。アルトリアに頼まれていたことをすっかりと忘れていたらしく、ポンッとマーリンは手を打つ。固まっているアルトリアに代わり、アーチャーことエミヤがケーキを焼いたので皆が集まっている食堂へ行こうと誘いに来たのだと結んだ。アルトリアはなまえを真っ先に探していた本人の為、それで……とマーリン。
それじゃあ着替えてから食堂に行くよ、と告げようとした瞬間、アルトリアは鼻息荒くなまえの傍へと駆け寄ってきた。
「ななな、なんて愛らしいのですか!? マスター――いえ、なまえ! ありがとうございます、何て言えば良いのかわかりませんが、とりあえずありがとうございます!!」
「何だかキャラが変わっているよアルトリア!?」
「その気持ち、わかるよアルトリア」
うんうんと頷くマーリンを他所に、ありがとうございますを連呼し、今度は抱きしめてきたアルトリアになまえは困惑した。
そうして――なかなかあの腹ペコ王もといアルトリアが来ないことを不審に思ったエミヤが次に訪ねて来て、かなり面白いことが起こったのはまた別の話である。
愛子||180326
(title=確かに恋だった)
(いまさらなセーターネタ。ちなみに立香ちゃんとロマンがどうなったのかは読んでいる方のご想像におまかせ致しますー)