ベッドの上に正座をさせられ早数十分。目の前には仁王立ちしているなまえのサーヴァント――アーサー・ペンドラゴンの姿。ちらっと上目で一瞥するも、アーサーのお説教は続いている。どうしてこうなったんだっけ、となまえは体を小さくしつつ事の経緯を思い出した。
それは朝食を終えた時のことだ。廊下を歩いていると、同期の藤丸立香が契約をしているサーヴァントのナーサリー・ライムとジャック・ザ・リッパー、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィの三人に出会い、一緒に遊んで欲しいと誘われた。レクリエーションルームにでも行こうかと提案したが、三人はカルデアの中は飽きたと駄々をこね出した。
飽きたと言われても……と困っていると、偶然通りかかったマリー・アントワネットとシュバリエ・デオンに、いつも元気ね、と声をかけられた。子ども達は、どこかにつれていってー、退屈なのだわー、トナカイ2号さんやる気を見せてくださいー、となまえを中心にくるくると回る。そんな三人の様子を見て、わたしから一つ良いかしら? とマリー。

「天気の良いところへピクニックに出かけてはどうかしら? きっと楽しいと思うわ」

ピクニック、と復唱すると子ども達の瞳はキラキラと輝きを帯びる。

「ピクニック!」
「雪の降っていない寂しい時期ではありますが、ピクニック……とても良いと思います!」
「行きたいのだわ! 楽しみだわ!!」

もう既に行くことを前提に話を始めている三人に、これは期待に応えてあげなくてはいけないなとなまえは思う。ねえねえっ、と期待の目を向けてきた三人に、わかりました、という意を込めて両手を挙げた。
マリー達と別れると、なまえと子ども達は食堂へ行き、エミヤとブーティカに説明をし弁当をこさえてもらった。そして、保護者として二人にも同行を願い安全な場所へレイシフトをし小さいピクニックが始まった。途中で出会ったキャスターのクー・フーリンがピクニックと聞き、日ごろの息抜きと称して勝手に同行をしてきたことにエミヤは苦い色をしていたが。敵性反応等も一切なく、束の間の休息はあっという間に流れる。夕方になる前に切り上げ、全員でカルデアへ戻った。
そうして――子ども達ともうしばらく今度はレクリエーションルームで遊ぶと、夕食前に立香のもとへ無事、送り届けた。今日のピクニックは振り回されはしたものの楽しかったなと思いながらマイルームへ戻った。
マイルームには静かに怒っているアーサーが待っており、なまえを見るなり満面の笑みを浮かべたかと思うとベッドの上で正座をするように言われ、今に至る。

「まったく、君にはマスターとしての自覚がないのかい?」
「アーサー……話がループしてる……」

最初に戻ったお説教になまえはぽつりと呟く。言葉は止まり、ん? とアーサーは笑みを浮かべて聞き返す。ひえっと口の中でこぼすと、先をどうぞ……、と促した。こほんっと咳払いをするとアーサーはまるでなまえの保護者のように、マスターとは、サーヴァントとは、魔術師としての心構えとは、等など云々と再び口うるさく述べる。このお説教はいつ終わるのかと相槌を打ちながら考えていたが、そろそろ限界に来ている箇所があった。両足はぴりぴりと痺れ、我慢をしていたがいったん足を崩したい。

「つまり――君はリツカと同じく人類最後のマスターなのだからその自覚と心構えを、」
「あ、アーサー……ちょ、ちょっとタイムを下さい……ッ」
「しっかりと持って……――タイム?」

ぱちりとアーサーが目を瞬いたと同時に、もう無理! となまえは声を上げて足を崩すのとあわせてばたりとその場に倒れた。なんともいえない痛みに声にならない声を上げる。その姿にアーサーの怒りはどこへやら、肩をすくめると、軽く息を吐いた。

「少し熱くなりすぎたかな。話はこれで終わろう」

ところで、とアーサーはベッドの縁に腰掛け問う。

「足は大丈夫かい?」
「だいじょうぶじゃないーっ」

まだ痺れは取れず、うぐーっと歯を食いしばる。アーサーは何気ない表情でなまえの足を突っついた。ぎゃあっと悲鳴を上げるとなまえはアーサーを涙目で睨む。何をするのっ、と表情で訴えるもアーサーは笑って触れ続ける。ギブアップを意味するようにばんばんっとベッドを叩くとようやく止めてくれた。

「痺れてる足を触るとか……アーサーの鬼っ」
「何も告げずにレイシフトをした君が言うことかい?」

一瞬言葉に詰まるも、もう反省しました、と拗ねたように伝えると、よろしいとアーサーは目を細める。

「しっかりと僕の言葉が響いたようなら何よりだ。けれど……怒っていたのはそれだけじゃないんだ」

痺れがゆるやかに治まり、体を起こして楽な姿勢をすると、どういうこと? となまえはちょいと頭を傾ける。アーサーが怒っていたのは勝手にレイシフトをしただけではない――では、他に何に対して怒っているのだろうか。

「君はあまりにも無自覚すぎる。もう少し警戒をするべきだ」
「……何に?」

それは、と言いかけてアーサーは先を紡ぐのをやめた。軽く頭を横に振り、何でもない、とこぼしす。きょとんとした表情を浮かべているなまえに視線をやり、さっきの言葉は忘れるて欲しい、とアーサー。腑に落ちない色をするも、わかった、と一呼吸置いてからなまえは返事をした。
ふと壁にかけてある時計を見やり、そろそろ夕食の時間だね、とアーサーは言う。

「マスター――否、なまえ。お腹の減り具合はどうだい?」
「アーサーのお陰でお夕飯食べれます」
「それはどういう意味かな?」

追求しようとするアーサーに、深い意味はないよ! と慌てて言い訳をした。また一からあの長いお説教は聞きたくない。そして今日はもう正座をしたくはない。あははっと目を逸らして乾いた声で笑っていると、なまえとアーサーに名前を呼ばれた。なんでしょうっ? と視線を戻すと同時に、ぴたりとなまえの笑い声は止まった。
なまえのすぐ目の前にはアーサーのきれいな顔があった。唇には柔らかな感触。けれどもそれはすぐに離れる。

「これでなかったことにしよう」

そう言い、ふわりとアーサーは微笑んだ。先程の柔らかな感触の正体はアーサーの唇。理解するのと同時になまえの頬はほんのりと赤く染まる。
さて、とアーサーは膝を軽く叩くと腰を上げた。固まっているなまえに手を差し伸べ、食堂へ行こうかと声をかける。二、三秒止まっていたもののハッと我に返りおずおずと差し伸べられた手を取った。

「では、食堂までエスコートをしよう」

強かで、それでいて温かな表情、声音でアーサーは言う。それだけでも胸は高鳴るのに、無意識でこれをしてくるのだからある意味困りものだ。そんなアーサーも格好良いのだけど、と心の中で思いつつ、お願いします……、と口元が緩みそうになるのを必死に堪えて応えた。


キスをしてごちそうさま
(嗚呼、もうっ。アーサーはずるい……ずるいよ……)
(どうして僕はこう、君にだけは甘いのだろう。まったく、困ったな……本当に)

愛子||180418(title=星屑Splash!)