とある昼下がり。まだ昼食をとっていないというアーサー・ペンドラゴンを食堂へ呼び出した。ピークを過ぎた食堂に人は居らず、シンッと静まり返っている。
食堂にはなまえと二人だけだとわかった為、アーサーは深くかぶっていたフードをはずした。
到着するなりさっそく席に座ってもらう。座ってもらった場所にはたくさんの料理がテーブルの上に並んでいた。和洋折衷、数々の料理にアーサーは驚いた色を浮かべるものの、すごいね! と微笑む。
料理はいつも厨房で腕をふるっている彼等が作ったのかとアーサーは尋ねる。なまえは軽く頭を横に振り、実はね、と照れながらも答えた。

「わたしが、作ったの」

えっ、とアーサーは驚き、これを全部? と問う。こくりとなまえは頷いた。

「味は大丈夫だと思う! 味見もちゃんとしたものっ。それに、エミヤくんやキャット、ブーティカさんに監修というか……見守ってもらっていた、から……」

緊張のあまり、声はどんどん小さくなる。一呼吸置いてから、数が多すぎるよね、と呟きふいと視線をそらす。作りすぎたのはわかってはいた。あの騎士王であれば大丈夫だろうとエミヤが笑い励ましてくれた為、信じてテーブルの上に並べてみたのだが、明らかに一人で食べきれる量ではない。後で立香やスタッフ達にも手伝ってもらおうかと考えていると、なまえ、とアーサーに呼ばれた。

「君が作ってくれた料理は、全部いただくよ」
「料理、残しても――……えっ?」

ぱちりと目を瞬きアーサーを見る。全部食べるから大丈夫、ともう一度言葉をかけるとアーサーはナイフとフォークを手に取り、いただきます、と料理に手をつけ始めた。
本当に全部食べるつもりなのだろうか。けれども数が多すぎるし、いくらサーヴァントでも難しいのではと思う。だが、ゆっくりとだがアーサーは料理を一つ、また一つと平らげていった。上品で優雅な動作だが、食べっぷりの良さに見ているだけで気持ちが良い。一つ、更に一つと皿の上を綺麗にしたところで、アーサーと声をかけた。

「その、不味くはない?」
「どの料理も美味しいよ」
「ほ、本当!?」
「本当だとも」

ふわりと微笑むアーサーに、ほっと安堵の息がこぼれる。

「良かった。初めて料理を作ったから、すごく不安だったの。アーサーに喜んでもらいたくて……」

この料理の数々を素人が作ったとは信じ難かった。余程手先が器用なのか、傍に居た者達の教えが良かったのか。考えもそこそこに、この料理を全部自分の為に作ってくれたということにアーサーは驚いた反面嬉しさがこみ上げてきた。一度手を休め、僕は幸せ者だな、と紡ぐ。

「こんなに美味しい料理をご馳走してもらえるなんて。マスター、今度このお礼をさせてほしい」

いいよそんな! となまえは慌てて両手をぶんぶんと振る。この料理はいつも世話になっているアーサーに何かお礼をしたくて作ったものだ。だから礼なんてものはいらないし、むしろそ逆に気を使わせてしまったかと思うと申し訳ない程だ。理由を説明し断るものの、アーサーも譲らなかった。

「それじゃあ僕の気がすまない。マスター、君の望むものを聞かせてほしい。出来る限りのことを叶えよう」

これ以上、断り続けるのもアーサーに悪い気がし、なまえは考えた。自分がアーサーに対して望むもの――それは既に一つしかなかった。それじゃあ、となまえは唇を開き願いを声にのせる。

「わたしの隣で、傍に居て……ください。これからも、その、あなたの力を貸してほしいの」
「それだと今と変わらないが……」

それで良いの! となまえは強かな瞳をアーサーに向けて続ける。

「わたしはアーサーと……ううん。一緒に戦ってくれることが何よりも心強いの。だからこれからも、力を貸してください――アーサー王!」

にこりと笑い、言葉を結ぶ。数秒経たずにアーサーは頷くと、すぐに柔らかな表情を浮かべた。

「僕は君の剣だ。この剣が幾ばくかの力になるのなら……全霊を以って力になろう、なまえ!」
「――はい! お願いします、アーサー!」

そっと腕を伸ばし、アーサーはなまえの手をとる。その手を握り返し、なまえはもう一度、今度は満面の笑顔をした。


二人だけの時間
「これほどまでに、食堂に入りづらいと思ったことはあっただろうか……」
「はい、先輩。まさか昼食の時間に少し遅れてしまっただけで、こんなことになっているとは……」

遅い昼食を食べようと食堂へやってきたのはなまえの同期である藤丸立香と後輩のマシュ・キリエライト。入り口からこっそりと中をのぞきつつ声を落として話をしていた。アーサーの正体を二人は知っている。そしてなまえとアーサーがマスターとサーヴァントの域を超えて仲が良いということも察していた。
二人の後ろにエミヤの姿もあった。なまえの健気なお願いにどうしても断れず力をかしたのだが、肝心の自身のマスターの食事のことがすっかり頭から抜けてしまっていたらしい。すまないと謝るエミヤに、良いよと立香は笑って許す。それにしても、とエミヤは言った。

「マスターの気持ちもわからないでもない。あの空気を壊すのは、なかなかに肝の据わった者でなければ――」

と、続けようとした時に気配もなく現れたのは、もう一人のアーサー王――もとい、反転したアルトリア・ペンドラゴンだった。アルトリアは立香達を一切無視し、ずかずかと食堂にと押し入った。

「良い匂いだ……とても食欲がそそられる。シェフはどこだ。私は今"腹が減った、飯を食わせぇ"状態だ!」

アルトリアーッ!! と誰かが叫んだ。空気を読んでくれとばかりに立香とマシュ、そしてエミヤは慌ててアルトリアを取り押さえたが、後の祭りとなってしまったのは言うまでもない。

愛子||170423(title=空想アリア)