新たに召喚に応じてくれたのは、アメリカ大陸で出会ったキャスター――エレナ・プラヴァツキーだった。自己紹介もそこそこに、マスターである藤丸立香とその後輩のマシュ・キリエライトはカルデアの中を案内する為にエレナを先導しようとした時だった。実は召喚後から密かに響いていたドドドッという音がどんどんと近づいてきているかと思うと、召喚部屋の前で止まりものすごい勢いとともに扉が開いた。
姿を現したのは、立香と同期のなまえだった。人理修復を行うにあたって、なまえにもマスターとして、そしてレイシフトの資格はあったものの、サーヴァントとの契約に関しては何故かはわからないが出来ずに居た。だが、立香一人では補いきれない魔力供給をダ・ヴィンチ特製のある装置を身につけて行っていた。立香にとってみればなまえは同期である以上に魔術師として、そして頼れる先輩的な存在でもある。
そんななまえは肩を上下に揺らし、息もたえだえにふらふらとした足取りで歩み寄ってくる。手にはなにやら分厚い本を持っており、立香が大丈夫かと声をかけ傍に近づくも、ふいと顔をあげて一言。

「立香、邪魔」

どんっと立香を横にはねのけると、エレナの前に歩を進めた。

「お久しぶりです、エレナさん! あ、でもこっちでは初めまして……になるのか」

例のアメリカ大陸での特異点で実は会っては居るものの、あの時の記憶は召喚されたエレナにはない。なまえは何度か深呼吸をすると、これっ、と持っていた本をエレナに見せた。すると、まあっとエレナの大きな瞳は丸くなる。しかし同時にキラキラと瞳は輝き始めた。
なまえが持っていたのは、生前エレナが書き残した本のうちの一冊、原本版の"神智学の鍵"だった。表紙はすでにボロボロだが、何度も読み返した後や付箋がたくさん貼られている。あたしの本……! とエレナはなまえと本を交互に見やった。

「小さい頃は魔術なんて大嫌いだったんですけど……でも、何気なく書斎にあったあなたの本を読んで、わたし、すごく感動したんです! ちょっと難しかったけれども、読めば読むほど神智学やマハトマのことをもっともっと知りたくなって……」

言葉を一度区切ると、なまえは高揚した色で紡いだ。

「大嫌いだったものが、あなたのお陰で好きになりました。だからどうしても直接、お礼を言いたくて……――素敵な本を残してくださってありがとうございました!!」

そう結ぶとなまえは深々と頭を下げた。
マシュに支えられながら、眼前の広がる光景に立香はなるほどと思う。あの時――特異点でエレナ・プラヴァツキーと出会い、本人であることを知るなり立香は思い切りはねのけられ、今のようにマシュに支えられた。なまえにとってエレナは心の師でもあるのだ。
ふるふるとエレナの体が小刻みに震えたかと思うと、パシッとなまえの手を取る。

「なんて素晴らしいの……! 嗚呼、もうっ。なんて言えば良いのかしら」

とりあえず、と前置きすると立香に目を向けると、ありがとう! と微笑む。再びなまえに視線を戻す。

「なまえ……といったわね。あなた、他の本を読んだことは?」
「もちろんあります! けど、もしエレナさんさえ良ければ直接お話を伺いたいのですけれども……」
「当然、よくってよ! 今すぐにでもあなたの部屋へ行きましょう! あ、でも行く前にこの施設を軽く案内してもらえると助かるわ」

お安い御用だとなまえは頷くと、さっそく行きましょうとエレナを先導するかのように歩き始めた。

「勝手になまえと呼んだけれども、良かったかしら?」
「はい! あ、わたしはエレナさん……と図々しくも呼んでしまいましたが……」
「構わないわ。むしろ、エレナでよくってよ」
「そそそ、そんな恐れ多いっ。慣れるまではそのっ、エレナ先生と呼ばせて頂きます!」
「先生……! ああ、本当、あなたはなんて素敵な子なのかしら!」

和気藹々とした雰囲気のまま二人は召喚室から出て行く。エレナのマスターであるはずの立香は、ただただぽつりとその場に立ち呆けている。そんな立香を、一部始終を見ていたマシュが、先輩! と声をかけて励ました。

「えっと……どんまいです!」

なぜかその言葉が一番胸に刺さり、立香はがくりと膝をついた。


神様のお気に入り
(嗚呼、ここはなんて素敵な場所なのかしら! もう一度、後でお礼を言わなくちゃ。呼んでくれてありがとう、マスターって!!)

愛子||180514(title=リコリスの花束)