(※概念礼装【カフェ・キャメロット】ネタ。現パロです。苦手な方はご注意ください)


数ヶ月前に出来た街外れにある小さなカフェ。名前はカフェ・キャメロットといい、連日、時間等関係なく常に満員で、特に女性客の人気は高く時折黄色い悲鳴が上がるほどだ。
テスト終わりのお昼頃。待ち合わせをしていた藤丸立香は後輩のマシュ・キリエライトと校門で合流をした。お待たせと声をかけると、そんなに待ってはいないとマシュは微笑む。二人は並んで歩き始めた。
行き先は決まっている。二人がお気に入りのカフェ・キャメロットだ。今日はそこでランチを取りつつ勉強会をする予定となっている。もちろんカフェが人気なのを知っているから、昨夜のうちに既に席だけは予約済みだ。
電話に出たのはきっとオーナーだろう、少し間をあけた後、明日は二人のためだけに席を用意しておくと言われ、はて? となったのだが立香は深く詮索しなかった。
目的の場所に着くなり立香とマシュはぱちりと目を瞬く。扉の前には「CLOSED」と記された看板が立てられていた。立香達の後ろで何名かの女性客から、休みなの〜? やら、今日は会えないのかー、と落胆した声が聞こえる。肩を落として去っていく女性客の姿がなくなり店前に立香とマシュの二人きりになった時、カランと音を立てて扉が開いた。

「いらっしゃいませ。立香くん、マシュちゃん。さあ、入って!」

と、店の中から姿を現したのはカフェの店員の一人であるみょうじなまえだった。顔を見合わせたのもつかの間で数名の女性がカフェの話をしている声が聞こえた瞬間、なまえは立香とマシュの手を引き急いで店の中へと入った。店の扉が閉まるなり、先程聞こえていた女性達が扉の前で残念そうな声を上げてとぼとぼと去っていった。いいのかな……、と心の中で思っていると立香の気持ちを読み取ったかのように、今日は特別だから、となまえは微笑んだ。

「改めて、いらっしゃいませ。席は用意しているから案内するね」

と言われ、なまえは二人の前を歩き案内をする。

「やあ、いらっしゃい二人とも」

厨房から店のオーナーであるアーサー・ペンドラゴンが姿を現す。こんにちは、と挨拶をするとアーサーはにこりと笑顔した。

「あの、看板は閉店になってたけど……」

いつもの賑わいはなく、静かな店内に何だかそわそわとしてしまう。

「なまえさん、今日は特別とおっしゃっていましたが……?」

店に入るなり言っていた、"今日は特別"という言葉が引っかかっているらしく、席に着くなりマシュはきょろきょろと店内を見回しつつなまえに尋ねた。予約をする際のことを思い出して、自分とマシュだけのために店を閉じているのだろうか、立香はまさかのことを考える。なまえは小脇に抱えていたメニュー表をテーブルの上に広げながらくすくすと笑った。

「実は今日ね、VIPなお客様が来るの。昨日の夕方、突然電話をしてくるものだから……もう大変だったわ」

ねえ? と静かな店内になまえのきれいな声音が響く。アーサーは目を細めて相槌を打った。立香とマシュが何を注文するのか既にわかっているのか、アーサーはカウンターの内側で手を動かしている。
VIPなお客様? と首をかしげる二人に、来るのは夕方だからまだ時間はあるのだけどね、とアーサー。けれども例のVIPなお客様は注文が多いらしく、店を閉めて貸切状態にしておかないと色々と煩いのだと言う。ちなみに今日は厨房担当のヴァン・ホーエンハイム・パラケルススも休みだとなまえは添えた。
厨房担当のパラケルススの料理――特に日替わりメニューはある意味ロシアンルーレットだ。美味しい日もあれば、絶対にこれは自分では試さず客に試食もとい実験させるために出しているものだろうという料理もある。見た目はとても美味しそうなのだが、食べてみるまではわからないのだ。また、通常の料理に関しても気まぐれにサプライズを仕掛けてくるものだから困りものである。なまえやアーサーの制止や忠告を聞かないというのだからこれまたどうしようもない。
安心して注文が出来ることに、立香とマシュは自然とほっと息を吐く。VIPなお客様の正体も気になるところだが、先ずは注文だ。今日は昼食も兼ねているのだから。
何にしようか悩んでいると、テーブルの上に二つのティーセットが並べられる。アーサーの淹れた紅茶だ。ふわりと香る良い匂いは二人の鼻腔をくすぐった。良い匂い、とマシュがぽつりとこぼすと、今日の茶葉はアールグレイだとアーサーは教えてくれた。お好みでミルクをどうぞ、と小さな容器に入ったミルクも添えてくれる。

「先輩、何を食べますか?」
「悩んでる……ここのご飯、どれも美味しいから」

ハズレがこなければ、とは付け加えない。何故なら今日は厨房担当が居ないのだから。うーんっ、と二人して悩んでいると、唐突にそっと一枚の紙が眺めているメニューの上から差し出された。

「"10名様限定、グラタンランチ"……?」
「デザートにプリン付……」

立香とマシュは紙に書かれてある内容を声に出して言うと同時にアイコンタクト。二人は声をそろえて、グラタンランチで! と頼んだ。

「かしこまりました。それじゃあ待ってて、作ってくるから」

と、アーサーは厨房へと踵を返した。

「ふふっ、流石お目が高い! というか、注文をしてくれてありがとう」

なまえはパチンと手を合わせてにこりと笑う。二人が注文をしたグラタンランチは、近日中に新メニューとして出そうとしているのだとなまえは言った。グラタンはアーサーの手製だ。アーサーのグラタンはすごく美味しいから期待してて! と声を大にして言うなまえに、ハードルをあげないでくれ! と厨房からアーサーの声がした。

「だって本当のことなんだもの、宣伝をしておかないと!」
「まだ二人は食べていないじゃないか。だから今の段階でハードルを上げるのは本当にやめてくれ」

むうっ、と顔を顰めるなまえに、本当に二人は仲が良いなと立香は思う。立香とマシュのような常連客は周知のことだが、なまえとアーサーは既に婚約済みの仲である。二人がそのことを知ったのは一週間程前で、何気なくなまえとアーサーのことを観察していたマシュが最初に気づいたのだ、お揃いのペアリングを左手の薬指に嵌めていることを。気になって仕方がなくなり、お二人はそういう関係ですか? となまえとは少し仲良くなっていたためこそっと耳打ちして聞くと、答えは口ぱくでイエスだった。

「今はテスト期間中だっけ? 学生さんは大変ね」

メニューを仕舞いながら、お疲れ様、となまえは言う。立香は額をテーブルにゴンッとぶつけ、今日は駄目だった……、と唸った。マシュは何とも感じなかったのか優雅に紅茶を楽しんでいる。

「先輩は、確か今日は英語と世界史でしたよね」
「英語が死んだ……もうおしまいだぁ……」

そんなに!? とマシュは驚き、どうフォローをすべきかとおろおろとする。微笑ましい光景に、なんだか和むな〜、となまえは口にした。

「先輩っ、今日のことはもう過ぎたこと。明日の数学と古典を頑張りましょう!」
「過ぎた……こと……」

マシュなりの励ましが逆に立香的には大きなダメージとなったのか小さく唸った。ハッとなったマシュはすみませんと謝るものの別の言葉が見つからないのか、ええと、と考え始める。そんな二人が可愛いらしくてなまえは声を出して笑った。
そんな和やかな雰囲気の中に、ふわりとチーズの焼けた匂いが漂ってきた。立香とマシュは視線を動かす。なまえは少し横にずれると、二人ともお待たせ、と言った。

「グラタンランチです、冷めないうちにどうぞ」

熱々のグラタンをキッチンミットをつけたアーサーがテーブルの上に並べてくれる。最後に花柄の容器に入ったプリンと食器の入った籠を置くと、ごゆっくりどうぞ、とアーサー。立香とマシュは出されたグラタンに、おおーっ! と歓声を上げた。

「先輩、先輩! グラタン、すごく美味しそうです! それにプリンもっ。全部、全部美味しそうです!」
「マシュ、冷めないうちに食べよう!」
「はいっ!!」

二人は同時に手を合わせると、いただきます、と声をそろえた。手にしたフォークを湯気の立つグラタンにさくように入れる。マカロニとチーズを絡めて一口すくうと、軽く息をかけて適温まで冷ましてからは口の中に運んだ。租借した刹那、立香の表情はほわっと変わった。マシュも同じくグラタンを一口、味わった瞬間、ほわんっと表情を緩める。

「美味しい……」
「幸せです……」

はふっとこぼすように感想を言うと、なまえとアーサーは顔を見合わせ嬉しそうに微笑んだ。

「二人も美味しいと言ってくれたことだし、近いうちにメニューに追加だね」
「後はメニュー用にチラシを作り直すだけね」
「立香、マシュ嬢。プリンの感想も聞かせてくれるかい?」

二人はいったんフォークを置くと、小さなスプーンを手にしデザートのプリンを食べる。またしても立香とマシュの顔は綻んだ。

「プリンってこんなに美味しかったっけ……!?」
「卵の味が際立って……でも、カラメルが甘すぎず……先輩、プリンもとても美味しいですね!!」

二人の感想を聞き、ひそかになまえはガッツポーズをした。ぱちりと目を瞬くと、プリンはね、とアーサー。

「なまえの手作りなんだ」
「なまえさんの手作りですか!?」
「ファンになります」

立香の一言でなまえは、わーいっ! と今度は嬉しそうに両手を挙げて喜んだ。確かにファンになります! とマシュも続き更になまえは上機嫌になる。しかし、なまえの隣に立っていたアーサーだけが渋った色をした。

「困ったな……やはり、プリンを付けるのをよそうか……」
「何で!? 立香くん達も絶賛してくれているのにっ」

だって、とアーサーは先を紡ぐ。

「僕以外の誰かに……特に男性に、君の手料理を食べて欲しくない」

それって俺? と無言で立香は自身を指さすも、少しお静かに、とマシュは手で制した。二人は静かになまえとアーサーを見守る。

「それを言うなら――わたしだって、アーサーの手料理を本当は他の人になんて食べて欲しくないよ……わたしだけの、特別にしておきたいもの」

ふと目を伏せたなまえにアーサーは向き直り、それじゃあ新メニューはやめるかい? と問う。そっと頬に触れて顔を覗き込むようにするアーサーに、ふるふるとなまえは頭を横に振る。

「新メニューにする……歯を食いしばって耐える……」
「うん、やめようか」
「やめないーっ!」

値段は900円前後にするのー! と具体的なランチ値段を言うなまえに、また後でゆっくり相談をしよう、とアーサーは優しく諭すと落ち着かせるように額に触れるだけのキスを落とす。するとぴたりとなまえは動きを止め、上目でアーサーを見つめるとこくんと頷いた。ふわりと微笑み合う二人は、まるで画のようにきれいで見惚れてしまう。
ぽかんと口をあけて二人を見つめていた視線に気づいたのか、なまえとアーサーはハッとなった。完全に立香とマシュのことを忘れていたらしく、ごめんと謝りランチを楽しんで欲しいと伝える。席から離れようとした二人と話していたくて――否、もっとなまえとアーサーを見ていたくて、立香は別の話題を振った。マシュも同じ気持ちなのか、グラタンを食べつつ話に花を咲かせてくれる。なまえとアーサーはほんのりと頬を染めながらも話に応じてくれた。
いつもと違う店の雰囲気で、四人でゆったりとした時間を楽しむ――こんな日があっても良いな、とテスト期間という現実を忘れて立香は微笑んだ。



幸せな合図をどうぞ
(やっぱり此処は居心地が良い――)


*おまけ*
立香「アーサーさん、なまえさん、ちなみにVIPなお客様って誰なんですか?」
マシュ「あ、わたしも気になっていました! いったいどなたが来られるんですか?」
アーサー「ああ、それは……君達も知っている人だと思うよ」
なまえ「――よし! じゃあ、そのVIPなお客様のモノマネをするから当ててみて!」
立香「モノマネ!?」
マシュ「どきどき……」
なまえ「こほんっ。"フハハッ! お前の見上げる太陽の輝きが余である!"」
立香「……」
マシュ「……」
立香「ま、まままさかっ」
マシュ「テレビで観たことがあります。VIPなお客様というのはっ、」
立香「エジプトのすごい大富豪でありハリウッドスターの――オジマンディアス!?」
なまえ「立香くん大正解!」
マシュ「サイン! サインが欲しいです!!」
立香「俺も!! ていうか握手して欲しい写真とりたい!!」
なまえ「だーめ。いくら常連さんでもそれは許しません。何故ならVIPなお客様だから」
アーサー「どうして、なまえのモノマネはしっかりと特徴を掴んでいるのだろう……まるで本人が目の前に居るようだった……」

愛子||180515(title=星屑Splash!)