突然、同期であり友人である藤丸立香と後輩のマシュ・キリエライトが訪ねてきたかと思うと挟み撃ちにされた。いったい何事かと、二人が入ってくるなりなまえは今朝できたばかりのアンデルセンの新作本をベッドの上に置くなり立ち上がった。背後には走って来たマシュ、扉の前には此処から逃がすまいと立ち塞がっている大きな箱を持った立香。驚いた色を浮かべて二人を交互に見ていると立香はにやりと笑みを浮かべた。
「ふふふっ。なまえちゃん、観念するのだ!」
「な、何に!?」
「私の――ううん、私達の着せ替え人形となることをッ!」
二人がかりだと!? と慌ててマシュを見ると、すみません先輩!! とすぐさま謝られた。なまえは立香の魔術の師でもあるはずなのだが、今までほとんど敬意を払われたことがない気がする。特異点では別として、カルデアではこうして時折、立香はなまえを着せ替え人形にしたり同性サーヴァント達とともに愛を込めていじってきたりしてくる。あまりに度がすぎるとマシュが助けてくれるのだが今回ばかりは敵のようだ。
じりじりと距離を詰めてくる二人にどうやって切り抜けようか考える。その間に立香とマシュは以心伝心して頷き合い、同時になまえへと迫った。
そうして――二人に攻められては敵うはずもなく、なまえはあれよという間に服を脱がされ着せ替えさせられた。
なまえが身に纏った――というより無理矢理纏わされた――のは純白のドレス。立香曰くダ・ヴィンチ最新作、なまえ専用の礼装で名前をホワイト・リリーという。同色のパンプスを履かされ、手にはたくさんの美しい白い薔薇で作られたブーケを、頭には白いネロ・クラウディスが身に着けている月桂冠のヴェールと似た、葉の代わりに特殊な加工が施された白百合が飾られたヴェールを被っている。
マシュは瞳をキラキラとさせ、とても綺麗です……、と感嘆しほうっと吐く。立香はどこから取り出したのか、小型のデジタルカメラでパシャパシャとなまえを撮り続けていた。
「あの……これは一体、何なの……?」
「立香先輩が考えた、なまえ先輩を綺麗に着飾ろう作戦です。大成功ですね、先輩!」
「うん、大成功。写真のデータ、後で皆に高値で売ろう」
聞き捨てならない言葉が聞こえ、立香〜? となまえは顔を引きつらせる。冗談だよ冗談、と立香はカメラを胸元まで下げるもシャッターを切るのを止めない。そろそろ撮るのをやめて欲しいとお願いするも、パシャパシャという音は鳴り続ける。にこりと笑い片腕を上げて指先に魔力を軽く集中させガンドを打つ準備をすると、ごめんなさい、と立香は謝り急いでカメラを懐に押し込むようにして仕舞った。
「けど本当、すごく綺麗だよなまえちゃん! やっぱり私の見立て通り!」
パチンと指を鳴らし、まじまじと立香はなまえを見る。ちなみにタイトルは純白の花嫁です! とマシュ。だから全部白いのか、となまえは思った。ふと、視線を動かして全身を見てみる。ふいに何だか恥ずかしいのと照れくさいのとで頬に熱が上った。眩しい程の視線を浴びなまえは体を小さくさせると、そろそろ脱いで良い……? と二人に問いかける。
「いいよ。すごく目の保養になった。ありがとう、なまえちゃん!」
「はいっ、とても素敵で……ありがとうございました、なまえ先輩」
もっと無理難題の何かをさせられるのではと思っていたため、素直に解放してくれたことにほっと安堵の息を吐いた。立香はこれからネロのところへ行きお茶をしてくるという。マシュは今からメディカルチェックがあるらしい。去り際に、ダ・ヴィンチちゃんからの伝言です、とマシュ。
「その礼装と付属品一式はなまえ先輩に差し上げるとのことです。また機会があれば着て見せてくださいね」
礼装を着ることはあれど付属品は"その時"が来るまで身に纏うことは絶対にないだろうが、機会があればね、と返して二人を見送った。
嵐の去ったマイルームは唐突に静かになる。さて、となまえは一先ずブーケを二人がけの丸テーブルの上に置いた。ブーケの花は後で花瓶に活けて飾るとして、頭のヴェールとパンプスに関してはしっかり厳重に誰にも見つからないように保管をしよう。礼装については――備え付けのクローゼットの中に仕舞おう。
そうと決まれば膳は急げだ。
なまえが唯一契約をしているサーヴァント――異世界のアーサー王ことアーサー・ペンドラゴンは立香達が来る前にシャーロック・ホームズに通信で呼ばれ現在不在にしている。アーサーが帰ってくる前に何事もなかったことにしておこう。
よしっ、と声に出した時だった。音もなくマイルームの扉が開いた。
「ただいま、マスター。さっきリツカ達に会って――」
扉を開けたのはホームズと話を終えて帰ってきたアーサーで、なまえの姿を見るなりぴたりと動きを止めた。なまえもまさかアーサーがこんなに早く帰ってくるとは露とも思わず、何事もなかったことにする計画は無事に無へと帰し、同じく動きを止めた。二人が固まる中、アーサーの背後にあるマイルームの扉だけが再び音もなく動いて閉まる。アーサーの視線に耐え切れず、テーブルに置いていたブーケに手を伸ばした。そして両手でしっかりとブーケを握ると、ぎこちなく顔を隠した。
どうしてこういう時に限って早く帰ってくるのかと心の中で叫びにも似た悲鳴を上げる。視線を泳がせ、どこかに隠れられる場所はないかと探し、クローゼットに目がついた。あそこだ! と思った瞬間、マスター、と呼ぶなりアーサーが傍へと歩み寄ってきた。
少しずつクローゼットへ移動しようとしたがアーサーにより阻まれる。手でブーケを避けると、アーサーは目を細めた。
「こういう時、気の利いたことを言わなければいけないのだろうけれども……すまない、この言葉しか思い浮かばないんだ」
一呼吸、間を空けてアーサーは先を紡ぐ。
「――すごく綺麗だ、なまえ」
立香とマシュに同じ言葉をかけられたが、アーサーからの言葉は特別だった。ブーケを胸元まで下げたものの、恥ずかしさとうれしさでふいと視線を逸らす。ヴェールのおかげで隠れてはいるものの、きっと今、顔は真っ赤に染まっていることだろう。
何故、ドレスを着ているのかと聞かれ簡単にだが経緯を説明した。なるほどとアーサーは相槌を打ち、だからリツカは早く部屋に戻れと言ったのか、と小声で呟く。しかしアーサーの声は、自身の心臓の音がうるさいのと諸々の事情で聞こえていなかったのか、なまえはちょいと首をかしげた。
少し考えた素振りをしたものの、アーサーは軽く吐くと突然、なまえの前で恭しく片膝をついた。えっ、となまえは驚き目をぱちりと瞬く。そんななまえの手を、アーサーは静かに取った。
「せっかく素敵な衣装を着ているのだから、何かしなくてはね」
「何かって……?」
穏やかな声音でアーサーは続ける。
「この先へと続く未来の為に――全霊を以って力になることを誓おう。そしてこれからも、時間が許す限り君と共に未来へと進み続けたい。なまえ、僕と共に歩んでくれるだろうか?」
サーヴァントとしてではなく、王としてではなく、一人の騎士としての言葉。
なまえの答えは当然、決まっている。
瞳の中に真っ直ぐとアーサーの姿を映すと強かに頷いた。
「――はいっ。これからも一緒に、歩んでください」
よかった、とこぼしてアーサーは立ち上がると腕を伸ばしてなまえのヴェールを上げる。はにかんだ色を浮かべているなまえの頬を、アーサーは優しく撫でた。ゆっくりとアーサーの顔が近づいてきたのを合図に、なまえはそっと瞼を閉じる。ほどなくして、唇に柔らかな感触。一瞬、離れたかと思うと、次に訪れたのは温かく、それでいて深くて愛しい口付けだった。
永遠の愛を刻みましょう
(あなたと一緒に、未来を歩んでいくことを誓う)
*おまけ*
アーサー「リツカ、少し良いだろうか?」
立香「どうしたの?」
アーサー「英雄王や反転した異世界の私から聞いたのだが……なまえの"例の写真"を持っている、というのは本当かい?」
立香「!! 黙っているつもりはなかったんだけど……アーサーとなまえちゃんにはいつも色々お世話になっているから――特別に、タダで全データを写真に焼き増ししてあげる!」
アーサー「!? ほ、本当かいっ?」
立香「二言はありません! ちなみに今デジカメあるんだけど……私としてはこの写真がオススメ。すっげーなまえちゃん可愛いの。ちょーきれいなの。で、この写真が一番人気。アルトリアが家宝にするって言ってた(デジカメのデータをアーサーにじっくり見せる)」
アーサー「――リツカ、ありがとう」
立香「お礼だなんてそんな……なまえちゃんを愛でる会会長の私には勿体無いお言葉です」
二人は無言で頷くと、がしりと熱い握手を交わした。
愛子||180603(title=空想アリア)