(※真名に触れる描写があります。苦手な方はご注意ください)



図書室に入り目当てのものを探す。図書室には誰も居らず鼻歌を歌っても注意する者は誰も居ない。探していた物は確かこちらの棚だったかと、案内表を見ながら移動をする。そして――ある書物が並べられている棚の前に立ち、あった! とこぼした。しかし、同時に顔を顰めて本を睨む。何故なら、探していた本は一番上の棚に並べられているからだ。
背伸びをすれば取れるだろうか、と爪先立ちをして腕を伸ばすも、背表紙に触れはするもののなかなか本自体を手に取ることはできない。肩で息をしつつ、諦めてきょろきょろと脚立を探していると、これかい? と背後から声をかけられ、誰かが本を取ってくれた。

「わあっ、ありがとう!」

礼を言い振り返ると、音もなく忍び寄り背後に立っていた人物――新宿のアサシンはニッと歯を見せて笑いなまえに本を手渡してくれた。彼は同期である藤丸立香が新たに契約を交わしたサーヴァントだ。
新宿のアサシンは手渡した本の表紙まで見ていなかったのか、いったい何の本なのかと問うてくる。じゃーんっ、と効果音を口に出して言うのと同時に本の表紙を見せた。すると新宿のアサシンはきょとんとした色を浮かべるも、すぐに肩をすくめた。

「本物が目の前に居るのに、物好きだねぇ」

そうかな? と首をかしげる。なまえが手に持っているのは有名な本の文庫版――水滸伝だ。新たに仲間となった彼のことを詳しく知りたくて、図書室まで足を運んだのだ。なまえの心を読み取ったのか、タイトルを見るなり新宿のアサシンは笑顔で自身を指さす。

「本人の口から語って聞かせてやろうか?」

確かに、本人から直接聞いた方が一番良いのかもしれない。けれどもなまえは別の側面からも彼のことを知りたいと思った。欲張りかもしれないが、それが自分の求めていることなのだから。ふるふると軽く頭を横に振り、それはまた今度聞かせて、返すと新宿のアサシンはぱちりと目を瞬いた。

「ちゃんと読み終えたら、次はあなたから直接聞かせて。それまでは……待っていて欲しいな」

変わった奴と新宿のアサシンは呟く。一呼吸置いてから、はいよ、と短く返事をするも新宿のアサシンはなまえの手から本を奪い取った。ぽかんと口を開けて新宿のアサシンを見上げると、悪戯っぽく笑っていた。

「さぁて問題だ。俺の真名はなんでしょう?」
「それは、これから本を読んで……」
「おっと。こいつぁ野暮な質問だった。それじゃあ、俺の属性は知ってるか?」
「ええと、混沌と……悪……だっけ」

以前に立香から聞いていたことを思い出し、新宿のアサシンの属性を口にする。つまりはそういうことだ、と新宿のアサシン。なまえは頭上に疑問符を浮かべた。

「本を返して欲しかったら、俺の話に付き合ってくれよ。なまえ」

にこやかに言う新宿のアサシンに、それはとどのつまり本を読まずとも自分の口から知りたいことを語って聞かせてやる――ということではないか。理由をちゃんと話したよね!? と抗議するも新宿のアサシンは聞く耳持たず、くるりと背を向ける。返して欲しければ付き合えということらしく、鼻歌交じりに図書室から出て行く。慌てて後を追いどこへ行くのかと問うと、食堂、と一言。

「酒でも飲みながら、のんびりじっくり語って聞かせてやるよ」
「わたしはまだ未成年だから飲めませんっ。というより返してよ。水滸伝、一冊しか無いんだから!」

唐突に立ち止まり、急には止まれず新宿のアサシンの背中になまえは顔を思い切りぶつけた。二、三歩後ずさり、顔を俯けダメージを受けた鼻を両手のひらで抑える。いきなり止まらないでよ……、とこぼし何気なく視線を上げると同時になまえは目を大きく見開いた。目に前に新宿のアサシンの整った顔があった。驚きのあまり声を出せずに居ると、その顔、と新宿のアサシンは呟くように言う。

「俺、あんたの驚いた顔が好きでねぇ。それから困った時や怒った時の表情」

新宿のアサシンは目を細め舌なめずりをする。一瞬、身の危険を感じたなまえは再び後ずさった。

「呵呵ッ、冗談だ冗談。本気にしたかい?」
「も、もうっ。からかわないでよ……」

安堵の息を吐いたのもつかの間で、突然、新宿のアサシンに手をとられる。えっ、と声を上げたと同時に先を先導するかのように新宿のアサシンは歩を進めた。それにあわせてなまえも足を動かし後をついていく。

「さぁて。それじゃあ食堂で俺は酒を、あんたはプリンを肴にジュースでも飲みながら語り合おうか」

やはり本は返してはくれないようだ。だが、好物のプリンと聞きなまえの表情は瞬時に変わる。プリンを食べさせてくれるならじっくりゆっくり新宿のアサシンから存分に話を傾聴しようではないか。先程とは違い、喜んで! と答えると、新宿のアサシンは大きく笑った。


もしもし言葉は通じてますか?
(次への一歩を進むのに必要なのは、まずはあんたが俺の真名を口にすることだ)

愛子||180730(title=星屑Splash!)