スペシャルパフェはアルトリアのマスター、藤丸立香とその後輩のマシュ・キリエライトのお気に入りの品らしく、先程、話を聞き居ても立っても居られずにこうして向かおうとしているのだと結んだ。
酒盛りは気乗りしないが、アルトリアの言うスペシャルパフェは心が惹かれた。ついでにゆっくりとアルトリアとも話をしてみたかったことだし、そういうことならとアーサーは承諾した。新宿のアサシンは少し拗ねたがそれでもすぐにけろっとした表情になり三人で食堂へと足を進めた。
食堂へ着くなり新宿のアサシンを除いた二人のセイバーの鼻についたのは強い酒のにおいだった。新宿のアサシンは急いで酒盛りに加わり飲めや歌えやと騒ぎ始める。厨房に目をやると、エミヤは酔っ払い集団の無理難題ともいえる注文に一つ一つ忙しなく応えていた。これではパフェどころではないなと判断し踵を返そうとしたが、悪い酔いした牛若丸と荊軻につかまり逃げるに逃げられなくなってしまった。
酒の席ということで、飲むつもりはなかったのだがグラスを手渡される。大量の酒を注がれては次々に仰ぐ羽目となってしまった。
いつからそうなったのかはわからないが、アルトリアと飲み比べ対決も行った。二人とも同じ負けず嫌いな性格が祟り、一歩も退かずに大量の酒をあおる。だが、いつしかその勝負もおざなりに終わった。何故かどっと疲れ、少し離れた席に移動して一息ついた時だった。
「そないに離れて……この酒盛り、おもろうない?」
酒壷とお猪口を手に持った酒呑童子がアーサーの隣に腰掛けた。そういうわけではないと軽く頭を横に振り、ちょっと休憩をしたかったのだと返す。さよか、と酒呑童子は微笑むとお猪口をアーサーの前に置き、酒壷の中の酒を注いでくれた。
他愛のない会話を交わしていると、話題は互いのマスターのことについてとなった。酒呑童子のマスターはアルトリアと同じ立香だ。立香はさまざまなサーヴァントと契約をしているのだが、なまえにはアーサーただ一人だけだ。
それでもなまえの人気は絶大だ。その為、なまえを好いている一部のサーヴァントから嫉妬の念を抱かれているのをアーサーは知っている。
「マスターはんもええお人やけど、なまえはそれ以上にええ子やねぇ」
立香となまえは同期だ。二人で特異点の修正を始めた頃から何故かなまえには資格があるにも関わらずサーヴァント達と契約は出来なかった。その為、サーヴァントの契約は立香一人で行っていた。だが、立香だけでは補いきれない魔力供給をダ・ヴィンチ特製のある装置を身につけてなまえも行っている。
それがある時、特異点で二人は出会い縁を結んだ。そうしてほどなくして、アーサーが召喚に応じなまえのもとへ現れた際、あれだけ出来なかった契約がアーサーとだけ出来た。
不思議な子やねぇ、と小さく笑うと、気ぃつけや、と酒呑童子は続ける。
「いくらあんたはんとだけ契約を交わしとるにしても、あの子を狙っとる輩はぎょーさん居る。はよ印つけとかな、誰かに心移りしてしまうかもしれへんよ?」
「っ、そんなこと――!?」
「ない、って言い切れるん?」
ずいっと酒呑童子は顔を近づけアーサーに問う。アーサーは言葉に詰まり少し体を退いた。
たくさんの英雄が集うカルデア。自分よりもなまえと付き合いの長いサーヴァントは数え切れないくらいに居る。誰かに心移りしてしまうかもしれない、という酒呑童子の言葉が頭の中で低回した。否定できない自分が情けない。
何気なく、酒呑童子に注がれていた酒をあおる。密かに酒呑童子の唇の両端がちょっとだけ上がったが、アーサーは気づいていない。
「ほな、それ飲んだら静かになまえの部屋に向かい。後のことはうちに任せとったらええ。うまいこと誤魔化しといてあげるさかい」
飲み干した後、随分と強い酒だと思った。ただ一献あおっただけなのにくらりと眩暈を覚えた。すまない、と酒呑童子に断りを入れるとアーサーは立ち上がりふらふらとした足取りで食堂を後にした。
アーサーが去った後、酒呑童子はテーブルに置いていた酒壷を手に持つと軽く揺らした。今度お礼のひとつくらい言うてや、と呟くと、なにやら茨木童子と一触即発となりかけている坂田金時を呼んだ。金時は舌打ち交じりに傍へとやって来る。口直しに悪態をつきながらも酒呑童子の持っている酒壷の中の酒をくれと言った。そらあかん、と酒呑童子はきょとんとした表情で拒否する。
「だってこれ、うち特製"媚薬入りの酒"やもん」
「び――ッ!!??」
なんて物を持って来ているのかと金時は声を荒らげる。
「効果を試したくて、小僧にいつ盛ったろうかと思っとったけど、もう必要がなくなったからいるんやったらあげるで?」
「いらねぇよッ! つーか捨て――……おい、まさかとは思うが誰かに盛ったのか?」
悪戯っぽく酒呑童子は笑うと、内緒、と人差し指を唇に押し当てた。
強い酒の所為かはわからない。
食堂を出た後、アーサーの記憶はない――。
愛しているから不安になる、でも愛さずにはいられなかった
(はやく、はやく君に会いたい。触れたい……)
愛子||180204
(title=確かに恋だった)