(※夢主=特殊鯖設定。苦手な方はご注意ください)


厨房の片付けを終えて一息つく。きれいになったコンロや流し台を見て、自然と口元に笑みが浮かんだ。
昼食をとってすぐ、人類最後のマスターである藤丸立香とその後輩のマシュ・キリエライトは管制室へ緊急招集された。なんでも極小ではあるものの特異点が観測されたらしい。二人が管制室へ向かって数分と経たず、厨房を牛耳るサーヴァント達は立香により呼ばれた。
最近は良く厨房で料理の手伝いをしているからか、今回は声のかからなかったキャスターのサーヴァント、安倍晴明――真名、なまえは召集を受けた赤い外套のアーチャーことエミヤから、すまないが後片付けを頼むと言われ、もちろん快く引き受けた。そして先程すべてを終えた。
さて、この後は管制室に行きマスター達の様子を見に行こうか。もし特に大きな問題がなさそうであれば、軽く夕食の下ごしらえをしよう。
厨房から出ようとした時、食堂の入り口に誰かが現れた。訪ねて来た人物は入り口の前できょろきょろと辺りを見まわすなり小さく息を吐いた。なまえは厨房から顔を出すと、踵を返そうとした人物の名前を呼んだ。

「アビゲイル、どうかしたの?」

はたっと動きを止めて、アビゲイル・ウィリアムズは入り口から恐る恐る顔を覗かせる。アビゲイルは最近、立香が新たに契約を交わしたサーヴァントだ。厨房に居たなまえの姿は見えていなかったのか、少し驚いた色を浮かべたものの、えっと、と言葉に詰まりつつ答える。

「マスターを探していて……」

ぽつりとつぶやくように言うアビゲイルに、立香なら管制室から召集がかかり現在は不在にしていることを伝える。そう……、とアビゲイルは残念そうに息を吐いた。立香に何か用があったのかと聞くと、ふるふるとアビゲイルは頭を横に振る。

「特に用はないのだけれど……少し、お話が出来たら良いなと思ったの」

でも居ないのなら仕方がないわ、とアビゲイル。再び踵を返そうとしたアビゲイルを、なまえは呼び止めた。

「もし良ければ、わたしとお話しない?」

えっ、とアビゲイルは動きを止めてなまえを見た。嫌かしら? と苦い笑みを浮かべると、そんなことないわっ、とアビゲイルは急いで頭を左右に振る。

「是非、お願い! 東洋のキャスターさんっ」

そう言うと小走りで食堂の中へと入ってきた。好きなところに腰掛けるように言うとアビゲイルは素直に従う。
さて、何かあったかしらと首をかしげながら冷蔵庫を開けると、咄嗟に目に入ったのは牛乳とはちみつ。この二つであるものを作ることにした。
冷蔵庫から牛乳とはちみつを、次に食器棚からマグカップを二つ取り出す。マグカップに適量のはちみつと牛乳を注ぎ、電子レンジに入れて加熱する。本当なら鍋に入れてしっかりと加熱をしたいのだが、時間が惜しいため仕方がない。様子を見つつ続けて加熱を行っていくと、ほこほこと湯気がたち始めた。木のスプーンでかき混ぜ味見をする。中まで熱が通ったことを確認し、なまえは笑みを浮かべ、二つのマグカップを手に、アビゲイルのもとへと向かった。

「ごめんなさい、お待たせ。ホットミルクは飲める?」
「ええっ。ありがとう」

なまえからマグカップを受け取り、アビゲイルはやけどしないように、ふうっ、ふうっ、と冷ます。一口、ホットミルクを味わうなりほわっとアビゲイルの表情は緩んだ。一口、また一口とホットミルクを飲むアビゲイルを見て、気に入ってくれたのだなとなまえは微笑む。

「ホットミルクがこんなにも美味しいだなんて……驚いたわ、東洋のキャスターさん」

ホットミルクを飲むなり、それ、となまえは言う。

「"東洋のキャスターさん"、なんて呼びにくいでしょう? だから、名前で呼んで」
「名前……良いの?」
「もちろん。晴明でもなまえでも、呼びやすい方で構わないわ」

ぱちりとアビゲイルは目を瞬く。

「……なまえ?」
「わたしの真名よ」

えっ、とアビゲイルは驚いた色をした。どういうことかと疑問符を浮かべているアビゲイルに、昔話をしましょうか、となまえは自身について語った。
今となっては遠い昔――けれども鮮明にある記憶、思い出。自身のことは皆、知らない話ではない。時折、冗談を交えて話すと、アビゲイルは真剣な眼差しをし、時に笑い、考えるように相槌を打った。
話し終えると、ほうっとなまえは息を吐く。一気に話しすぎてしまったなと思いホットミルクを飲むと、すっかり冷めてしまっていた。温めなおそうかと聞くと、いいえ、とアビゲイル。

「他の皆さんも凄い伝説をお持ちだけれど、あなたはもっと別な……ううん。特別なものを感じたわ」

くるくるとマグカップの中のミルクを揺らし、ふわりとアビゲイルは微笑んだ。

「名前――、」

先を紡ごうとした時、アビゲイルは少し緊張を孕んだ瞳をした。

「東洋のキャスターさん……いいえ。"なまえお姉さん"と呼んでも良いかしら?」

思わずきょとんとした色をしたのはなまえで、二、三度瞬きをする。しかしすぐに、何だか照れてしまい、同時に口元は緩んだ。
アビゲイルはカルデア(ここ)に召喚されて間もない。親しくなった者は多けれど、まだ立香やマシュにさえも心を開ききってはいない。少しでも馴染めるように、一日でも早くもっともっとこの場所にとけこめるように――願いを込めてなまえはにこりと笑った。

「もちろんよ、"アビー"!」

ぱあっとアビゲイルの表情も明るくなる。照れたように頬を染めるとアビゲイルはミルクを飲む。優しい甘さのミルクは口の中いっぱいに広がり、寂しい心をぽかぽかと温めてくれた。


見つめるは花の顔
食堂の入り口から二つの影がなまえとアビゲイルの様子を眺めていた。影の正体は難なく特異点の修正を終えて帰還した立香とマシュで、笑い合っている二人を見てぽつりと呟いた。

「なまえとアビーってさ……なんていうか、」
「姉妹、のようですね」

なまえとアビゲイルはマシュの言うと通り、まるで姉妹のようだった。笑い合う二人の姉妹を見ていると、こちらまでつられて笑顔になってくる。不思議だな、と立香は思うも、ずっと影に隠れて見ているわけにもいかない。そろそろ声をかけようか、と目で合図を送ると、マシュはこくりと頷く。

「――ただいま、二人とも」

と、声をかけると、なまえとアビゲイルは立香とマシュに視線を向けて目を細めた。

「お帰りなさい。マスター、マシュちゃん」
「おかえりなさい、マスター、マシュさん! なまえお姉さんと二人で、私、良い子にして待っていたのよ」

小走りで立香のもとへ駆け寄るアビゲイルを穏やかな色で見つめ、アビーはとても良い子にしてたわ、となまえ。立香は腕を伸ばしてアビゲイルの頭を優しくなでてやると、えらいえらい、と褒めてあげた。

愛子||181113(title=リコリスの花束を)