今年のクリスマスは去年以上に疲れたような気がした。寒さ等に関しては皆のフォローのお陰で幾分かはましだったのだが、同期の藤丸立香とともに考えた作戦がばれずに進められるか、不安と緊張で神経の方を主に使った気がする。だが心配はどこへやら、今年のクリスマスも万事すべてうまく運ぶことができた。
作戦に協力をしてくれた者もあわせて、全員でカルデアへ帰還する。帰ってきたという安心感に疲れがどっとやって来た。立香達はこれから子ども達と腹ペコらしい反転したアルトリア・ペンドラゴン――サンタバージョン――とともにクリスマスパーティーをはじめるらしい。
立香だけでは大変だろうからと、全員の保護者のような立場で参加をするとエミヤも手を挙げた。なまえはどうするかと聞かれ、今年は遠慮する旨を伝えると、子ども達が残念そうに声を上げた。ごめんねと謝りジャック・ザ・リッパー、ナーサリー・ライム、そしてジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィの順に頭を撫でてやる。
クリスマスパーティーの参加を断ったのは疲れているからという理由だけではない。なまえが唯一契約をしているサーヴァント――アーサー・ペンドラゴンと残り時間が少なくなったクリスマスをゆっくりと二人で過ごしたいと思ったからだ。
だが子ども達はそんな気持ちを露知らず、パーティー!! と懲りずに誘ってくる。おかあさん、お姉さん、トナカイ2号さん、と呼ばれ揺すられ続け、観念したなまえは前言撤回しマイルームで一休みしたら参加すると訂正した。やったー! と子ども達は喜び、待っているとにこりと笑顔。そんな表情を見せられては行かないわけにはいかず、約束ね、と返すとマイルームへと足を向けた。管制室を出ようとした時、待て、とサンタオルタ。歩みを止め振り返ると、ジャンヌ・オルタ・リリィの持っていたサンタ袋の中からサンタオルタは綺麗な花束を取り出すと、なまえに投げて寄こした。花束は宙を舞うものの、なまえの腕の中にポスンと落ちる。きょとんとした色で花束に視線を向けていると、トナカイ2号、と呼ばれた。顔をあげると、サンタオルタはふっと微笑んだ。

「私からの餞別だ。幸せになるが良い」

そう言うとサンタオルタはジャンヌ・オルタ・リリィに袋を返すと、パーティー会場へ向かうぞ腹が減った! と胸を張って宣言した。相変わらず自由だな! と突っ込むエミヤを他所に料理の内容を尋ねている。サンタオルタの言葉の意味がわからず、なまえはちょいと首をかしげていた。幸せになれとはどういうことだろう、と考えていたのもつかの間で、会場で待ってるから、と立香とマシュ。またあとで、と交わすとなまえは再び歩を進めた。
マイルームへ戻ると、ベッドの縁に腰掛け本を読んでいたらしいラフな格好のアーサーがなまえを見るなりふわりと笑む。お帰りと声をかけられ、ほっと息を吐いた。ただいま、と返すとアーサーはなまえの腕の中にある花束に視線を向けて目を瞬く。

「これ、サンタオルタさんから貰ったの。幸せになれよって」

どういう意味なんだろう? と苦笑いしつつ、どこかに花瓶はなかったかと探す。けれども花束を飾れる程の容器はどこにもなく、パーティーに行く前にダ・ヴィンチの工房を訪ねるとしよう。丸テーブルの上に花束を置き軽く背伸びをし、先にシャワーを浴びようか、それともアーサーとのんびり過ごそうか。どうしようかと悩んでいると、唐突にアーサーに名前を呼ばれた。

「なぁに、アーサー?」

くるりと身体を反転させる。ぱたんと本を仕舞いベッドの縁に置くと、アーサーは腰を上げてなまえの傍へとやって来るなり、突然、恭しく片膝をついた。ぎょっと驚き一歩後ずさってしまう。そんななまえの左手を、アーサーは静かに取る。

「アーサーっ!? いったいどうし、」

真剣な色でアーサーはなまえを見つめる。なまえは息を呑み、アーサーの瞳に、表情に、雰囲気に見入ってしまう。自然と胸は高鳴り頬に熱がのぼっていく。ぱちりと瞬くと同時に、アーサーはズボンのポケットからあるものを取り出した。取り出したのは白色の小箱。片手で器用に箱を開けると、シルバー色のリングをそっとなまえの薬指にはめた。薬指で輝く指輪に、えっ、と一呼吸遅れて反応した。

「アーサー、これ……」
「騎士である前に僕も一人の男だ。――なまえ」
「は、はいっ」

思わず声がうわずってしまう。しかし、アーサーは気にせず先を紡ぐ。

「これから先も、僕とともに未来を歩んでくれないかい?」

ほんの少しの静寂。けれどもそれは、アーサーの言葉の意味をしっかりと理解し、知らずとなまえの頬を伝った涙により破られた。アーサーは急いで立ち上がり顔色を変える。どこか痛むところでもあるのかと聞かれ、なまえはふるふると頭を横に振った。

「それじゃあ、寒空の下で出かけていたから何かの影響が今になって……」
「ちがうっ。ちがうの、そうじゃないの……!」

服の袖で涙を拭いふわりと笑みを浮かべる。涙の理由を問われ、瞳の中に真っ直ぐとアーサーの姿を映すとなまえは強かに続けた。

「未熟なわたしですが、アーサーと一緒に――未来を歩ませてください」

流れた雫の意味がわかり、そうか、と一呼吸置いてからアーサーは目を細めた。軽く息を吐きよかったと呟くと、なまえの手を引き自身の腕の中に閉じ込める。ぎゅっと強く抱きしめられ、なまえも応えるようにアーサーの背に腕を回した。心はぽかぽかと温かくなる。何よりこみ上げてくる嬉しさに涙が止まらない。

「これからもよろしくね、アーサー……っ」
「ああ、もちろん。こちらこそよろしく、なまえ」

少しだけ距離を取り、なまえは上目でアーサーを見る。背伸びをしたのを合図に、お互いの気持ちを確かめるように二人の唇は重なった――。


契る恋と涙の跡
なまえが出かけてすぐのこと。なにやら準備をしているサンタオルタをアーサーは呼び止めた。急いでいるから手短にしろと促され、サンタオルタにあるものを見せた。この日の為に密かにダ・ヴィンチに相談をし、用意をしていた、シンプルなシルバーの指輪。それを納めた小箱とともに、クリスマスプレゼントとして匿名で自分のマスターに渡して欲しいと伝えた。するとサンタオルタはカッと目を見開き、断る! と即答した。

「なっ、どうして――!?」
「そういった大事な物は自身の手で直接渡せ。少女にとって……否、女性にとってはクリスマスと同じくらいに大切なものだッ!!」
「そ、そうなのか……? そういったものなのか?」

当然だ、とサンタオルタは頷く。

「私から渡してもトナカイ2号は決して喜ばんだろう。お膳立てくらいはしてやる」

グッドラック! と声をかけると、アーサーに背を向けてサンタオルタは管制室へと鼻歌交じりに姿を消した。自身の手で渡すことに意味がある――こんな気持ちになったのはいつ以来だろうと思った。
まだ本番ではないものの、緊張で心臓が早く高鳴る。軽く深呼吸をすると、よしっ、とアーサーは呟きなまえのマイルームへと踵を返した。

(僕が想っていることを……願っていることを、彼女に伝えよう――)

愛子||181224(title=空想アリア)