(※ギルガメッシュ→セイバーオルタ→夢主な描写があります。苦手な方はご注意ください)


今日という日は一部を除いてみんな協力的で、お互いに用意できなかった素材や技を補い合う。なまえも皆と協力し合いながら、きれいな器に手際よく材料を盛り付けていく。コーンフレークとチョコレートソースを土台に、バニラアイスクリーム、生クリームを重ね、安定したところで今朝とって来たばかりだというオレンジにキウイ、リンゴにさくらんぼ。カットできるフルーツは丁寧に切り、可愛くできるものはウサギの形で遊び心を取り入れる。最後になまえ渾身の力作である手作りプリンをのせて、生クリーム、さくらんぼで飾り、銀スプーンを沿えれば特製プリンパフェの完成だ。見た目よりも味を重視したためパフェと呼ぶには少し小さいが自信作だ。
みんなより先に完成した為、大きな声で礼を言う。渡す人物はみんなと違うことを最後に結ぶと、知ってるから早く行けー! と追い出すような、けれども背中を押す明るい声音。もう一度、ありがとう! と礼を告げ、両手でしっかりとプリンパフェを持ち、女性サーヴァント達とともに占拠していた厨房を一足先に出た。出る直前に後輩でありデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライトから、がんばってください! とエールを受けた。マシュも頑張ってね! と返すと、はいっ、とうなずいてくれた。
プリンパフェを贈りたい大切な人は、今朝からシュミレーションルームにこもっている。なんでも、今後のことに備えてソウルイーターとの戦闘をシュミレートしておきたいらしい。何か考えがあってのことなのだろうが――否、今はそれよりもパフェを早く届けなくては。
シュミレーションルームへ向かう最短の道を小走りし、角を曲がった時だった。偶然にも、厨房にはいなかったセイバーオルタこと反転したこの世界のアーサー王――アルトリア・ペンドラゴンと、そのすぐ傍に立ち何やら話しかけていた英雄王――ギルガメッシュに出会った。

「雑種、何をそんなに急いている?」
「ずいぶんと美味しそうなものを持っているな、なまえ」

立ち止まったなまえが大事そうに持っているパフェに視線を落とし、二人はふっと微笑んだ。

「それは……なるほど、我への献上物か。雑種にしては殊勝な心がけよな」
「今日はバレンタインデー――好いた者や世話になった者に食べ物を贈るイベント。つまりそれは、私への贈り物ということだな?」
「ええと……」

どうしよう、となまえは一歩後ずさりした。二人の瞳は完璧にプリンパフェを捕らえており、まるで獲物を見つけた肉食獣のように鋭い眼光を放っている。二人の分は他の人達に渡す分として、パフェではないが別に用意しており今日中に、けれども落ち着いてから渡そうと思っていた。どうしても一番最初に渡したい人が居るため先を急いでいるのだが、二人も譲る気はないようだ。

「ちなみに英雄王は一時間程前からここでなまえを待っていたらしい」
「なっ!? それは貴様も同じだろう、セイバー!」
「いや? 私は偶然、たまたま、奇遇にもさっきここを通りかかり、たまたま、たまさか! なまえと出会った。それだけだが?」

ふふんっと鼻を鳴らすアルトリアにギルガメッシュはくわっと顔色を変えたものの、すぐにそこがまた可愛らしいと恍惚な表情を浮かべた。なぜかよくわからないが話はまとまったところで、さて、と二人は切り返し再びなまえに視線を向ける。

「そのパフェを寄越すが良い、雑種。贅の限りを尽くした我だが、食べてやらんこともない」
「パフェを私に渡せ、なまえ。しっかりと味わいつくした後、お前も食べてやろう」
「それは我も混ざりたいぞセイバー!」

断る! 混ざる! と小競り合いを始めた二人の脇を、なるべく気配を殺してそろそろと通り抜ける。ほっと息を吐いたのも束の間で、アルトリアとギルガメッシュは光の速さでなまえを見た。

「何処へ行く雑種!」
「逃げるなっ!」
「ひぇっ……ご、ごめんなさい!!」

頭を下げてその場から逃げるようにして走り始めると、二人も後を追いかけて来た。パフェを落とさないように集中しながら魔術で足を強化しスピードを上げる。ちらっと後ろに視線をやると、流石はサーヴァントというべきか、既に近くに迫ってきている。後ろを気にしては駄目だと悟り、魔力を足に回して更にスピードを上げた。
流石にこのままではシュミレーションルームへは真っ直ぐに向かえず、やや遠回りをしながら必死に逃げる。常に通しているパスを開き、唯一契約をしているサーヴァント――異世界のアーサー王ことアーサー・ペンドラゴンになまえは声をかけた。

「アーサー! まだっ、シュミレーションルームに居る!?」
『マスター? ああ、まだ居るよ。何か用、』
「た、たすけてぇ!!」

一呼吸空けて、えっ、とアーサー。何かに追われているというのはなまえの声音でわかったのか、今どこに? とアーサーは緊迫感を含ませて問う。とりあえず遠回りをしてからそっちに向かってるから! とだけ応え、なまえは走ることとパフェを落とさないことで手一杯でそれ以上の情報は伝えられなかった。
もう一度、角を曲がると見覚えのある人物とすれ違った。だが、逃げることに精一杯で確認をする暇はない。おそらく同期の藤丸立香だとは思うのだが――とにかく今は走ることに専念する。
程なくして、ステイ! と背後から誰かが大きな声をあげたが、息を荒らげながらも前だけを見て走っていたなまえは気づいてはいない。シュミレートルームまでもう少し、と思った刹那、ぐらりと足がもつれた。

「あっ、」

体が前に傾いた瞬間、すべてがスローモーションのように流れた。パフェを守る為にここまで頑張ってきたのに、アーサーの喜んだ顔を見るのはお預けになってしまうのかと、悲しくなった。否、あきらめてはいけない。パフェだけでも守らなくてはと両腕を高く上げ、衝撃に備え瞼を瞑り、顔から床に倒れようとした時だった。ふわりと、体は何かに支えられ痛みはなかった。

「――無事かい? マスター」

頭上からかかった言葉に、声にはっと目を開けて視線を向けた。

「アーサー!」

会いたかった人物が目の前に居り、ほっと安堵の息を吐く。支えてもらいながらもしっかりと姿勢を立て直して礼を伝える。どういたしましてと言いながらも、アーサーは周囲を警戒していた。

「マスター、何かに追われているようだったが……」
「そ、そうなの! アルトリアと王様にっ、」

背後を振り返ったが、そこには誰も居なかった。あれ? と驚き目を瞬いたものの、一応、上手くは撒けたらしい。もう大丈夫みたいと微笑むと、そうかとアーサーは相槌を打った。思わず力が抜け膝を付きそうになったが、パフェの器がぐらりと傾き急いで持ち直す。アーサーの視線は次にそちらに向き、それは? と首をかしげた。なまえは姿勢を正し、二、三度深呼吸をする。いろいろと落ち着いたところで、よしっ、とこぼすと持っていたパフェを差し出した。

「ハッピーバレンタイン、アーサー!」

ぱちりと目を瞬きアーサーは少し考える。程なくして今日はバレンタインデーだと思い出したらしく、何やら小声でひとりごちたが、すぐに笑みを浮かべた。

「――ありがとう、マスター!」

さっそく受け取ろうとしたが、さっとなまえはパフェを横にそらす。きょとんとしているアーサーとは逆に、なまえはふいと目を伏せた。

「受け取って欲しいのだけれど……アイスがちょっと溶けちゃってるから……」

逃げるのに必死で気づかなかったが、中に盛っていたバニラアイスは残念ながら半分ほど溶けていた。本当ならもっと完璧なパフェを渡したかった。もう一度作り直してくるから待っていてくれますか? と肩を落として紡ぐと、アーサーは軽く頭を左右に振りパフェを受け取った。

「このままで構わない。むしろ、このパフェが食べたいな」

アーサーは近くに設置してあった長椅子へ座ろうとなまえを促した。こくりと頷き、なまえもその後に続く。二人並んで椅子に腰掛けるも、やはり作り直してくるとなまえは言ったが、いただきますと声にするなりアーサーは添えてあったスプーンでぱくりとパフェを食べ始めた。アイスを何口か口に入れた後、次はなまえ特製のプリンを一口。瞬間、ほわっとアーサーの表情は緩んだ。

「うん。このプリン、美味しいね」
「ほ、本当!?」
「優しい甘さというのかな。僕は好きだな、この味」

アーサーの正直な感想になまえは良かったと胸を撫で下ろした。プリンは自分の手作りだと伝えると、アーサーは一瞬目を丸くしたが、通りで美味しいわけだと微笑んだ。
アーサーと会えて無事にパフェを渡せたことに、心の奥底から安堵した。少しアイスは溶けてしまっていたが、それでもアーサーは喜んで受け取ってくれて美味しいと最高の褒め言葉をくれた。
落ち着き始めると、走ったせいか体が熱く感じぱたぱたと軽く手で仰ぎ風にあたる。マスター、と呼ばれアーサーの方を見るや否や口の中に何かが入ってきた。
唐突に口内に広がる、冷たくて甘いバニラの味。どうやらアーサーが気を利かせて食べさせてくれたらしい。こくんと喉を鳴らして飲み込むと、もう一口食べるかい? とアーサー。欲しい、と思うのだが、ふとアーサーの手にある銀スプーンに視線が向いてしまう。バニラアイスを食べさせてくれたということは、間接的ではあるがアーサーとキスをしてしまったことになる。下がるはずの熱は更にのぼり、みるみるうちになまえの顔は真っ赤に染まった。それを見て、マスター!? とアーサーは驚いた。

「さっきよりも顔が赤いが、大丈夫かい!?」
「……アーサーのせいだよ」
「僕のせいっ?」

善意でしたことがなまえにとっては致命傷にも似た行動だったことにアーサーはもちろん気づいてはいない。どこからかともなくふわりと漂ってくるチョコレートの香りがなまえの鼻腔をくすぐる。気づかないうちに随分と長く当てられていたせいなのか、それとも何か別のものか――胸の奥がむずりとした。霊衣の端を掴み上目でアーサーを見ると、静かに唇を開いた。

「おかわり……下さい」

瞳が、表情が、声が艶やかで、アーサーは息を呑んだ。一瞬手が震え上手くアイスをスプーンにすくえない。なんとかアイスを一口すくうと、なまえの前に差し出した。ゆっくりと唇を開けてはむっと食べる。

「プリンも、欲しい」

続いてのおねだりにもアーサーは応える。プリンを食べさせてやると、ふわりとなまえは嬉しそうに表情を綻ばせた。その笑みを見て無意識にアーサーの手は動いた。空いているスペースにパフェを置き、そっとなまえの頬を手のひらで撫でると、そのまま顔を近づけ小さな唇に自身の唇を押し当てた。触れるだけのそれはすぐに離れるも、睫毛を伏せたなまえを前に止まらなくなる。なまえの口の中ににはまだプリンが残っており、舌で絡めとると甘い味が広がった。

「――アーサー、」

少し距離が開いた時、なまえはぽつりとこぼすように紡いだ。

「いつもありがとう――大好き」

それはこちらも同じだとアーサーは思う。もう一度、軽くくちづけるとアーサーもふわりと微笑んだ。

「パフェ、有難うマスター――否、なまえ」

それから、と先を続ける。

「これからも一人の騎士として、傍に居ることを誓おう」
「はいっ。これからもよろしくお願いします、アーサー!」

空いている手でなまえの手を取ると、アーサーは誓いを立てるように甲に唇を押し当てた。嬉しくて温かくて、漂うチョコレートの香りもあり甘い気持ちになる。感謝と、尊敬と、敬愛を込めて――なまえははにかみながらも満面の笑みを浮かべた。


愛らしく恋らしい
(愛しい貴方へささやかだけれども、わたしらしい感謝を込めた贈り物を一つ)


*おまけ*
もう一度唇を合わせようとした時、頭上からふと影がかかった。

「私の美味しくなまえを頂く計画を先に実行するとは……羨まし――否、ずるいぞ、卿!!」
「我のセイバーとなまえの両鍋――否、どきどきハッピーバレンタイン計画を邪魔するとは……覚悟は出来ておろうな?」
「ちょっと二人して何言ってるんですかね?」

影の正体は不機嫌極まりない様子のなまえが巻いたはずのアルトリアとギルガメッシュだった。その後ろに立っている立香は冷静に突っ込み、アーサーとなまえの邪魔をしないのー、と続ける。当然ながら二人は聞いておらずアーサーにガンを飛ばし続けていた。
アーサーとなまえは一度、顔を見合わせたものの静かに距離を開けた。お互いに顔は真っ赤に染まっており視線をそらす。そんななまえが可愛らしいのか、アルトリアは片膝をつくとぎゅっと抱きしめた。それを見て、あっ!? とアーサーとギルガメッシュは声を上げる。

「ああ、柔らかい。そして相変わらず良い匂いだな」
「ちょっ、あの、アルトリア!? く、くすぐったい……!」
「よし、このまま流れでキスをすれば全て計画通り」

心の声が漏れすぎているアルトリアからアーサーは急いでなまえを引き剥がす。なまえを守るようにするアーサーにアルトリアは舌打ちをする。その後ろでギルガメッシュはくつくつと喉の奥で笑ったかと思うと、肩を震わせて今度は大笑いした。

「ふはははは! なるほど……セイバー! 貴様は口付けを所望していたのか! よかろう。我がその願いをかなえて、」
「断る。英雄王、そんなにキスをしたければ異世界のアーサー王としているが良い。卿等が乳繰り合っている横で私はなまえとイチャイチャする」
「「それは断る!!」」
「わあ、アーサーと王様……きれいにはもった……」
「あの、俺の存在忘れないで?」

アーサー、アルトリア、ギルガメッシュの熾烈な争奪戦を見守っていたが、これ以上は収集がつかなくなりそうだと判断した立香は、ヒートアップしていく三人を他所になまえに声をかけて黙ってその場を離れることを提案した。立香の考えは正しいとなまえも理解し立ち上がると、二人は並んで歩き始めた。

「そうだ。後で立香とマシュにもバレンタインデーの贈り物をするね」
「もしかしてなまえからチョコ貰えるの!? やった、ありが」
「えっ。チョコじゃなくて贈るのはプリンだけれど」
「あ……ですよねー。さすがプリン教の教祖、ぶれない。楽しみにしてまーす!」
「楽しみにしててくださーい!」

二人が消えていることに気づいたアーサー、アルトリア、ギルガメッシュのよく分からないバレンタイン奮闘気はまた別のお話――。

愛子||190218(title=空想アリア)