「――と、まあ。そういうわけなんだが、どうだ? 一緒に行くか?」
「行く!!」

廊下を歩いている最中、モードレッドに声をかけられた。挨拶を交わしどうしたのかと尋ねると、実はバーサーカーのフランケンシュタインことフランとともに珍しいものをレイシフト先で食べに行こうと話に上がり、悩んだ結果、今回はプティングの原点であるプラム・プティングを食べに行くことが決まった。自他共に認めるプリン好きのなまえも誘おうということになり、こうして声をかけたのだが、即答したのを聞き想像していた通りの答えだったのかモードレッドは笑った。

「いつ行くの!? 今すぐ!?」
「いや、昼食ってから。だいたい13時頃かな」
「13時! その時間に管制室に集合!?」

あまりの気迫に、おう、とモードレッドは一歩後ずさりする。人類最後のマスターの一人でもあるなまえは、モードレッドのマスターでもある立香の魔術師の師でもあり時に冷静に、正確に状況判断も出来る優秀なマスターだ。だが、プリンたけでここまでテンションの上がる人間はカルデア広しといえどなまえだけだろう。

「あ、そうだ……お洒落した方が良い? プティングの原点を食べに行くんだもの、ちょっとでも綺麗にした方が良いよね?」
「お洒落も何も、食いに行くだけだから普段通りで構わねぇだろ……」

目をキラキラと輝かせながら、そう? と自身のスカートをちょいと指先でつまむ。プリンが絡むとどうしようもなく周りを見なくなってしまう悪い癖が顕著に出ており、モードレッドは軽く息を吐く。とにかくっ、とパンッと手を叩き話を戻した。

「昼飯食った後、13時に管制室集合な」
「はい、モードレッド卿!」
「後、それから」
「何でしょう、モードレッド卿!」
「お前のところの……男の父上にはこの事、内緒な」
「わかりました、モードレッド卿! ――どうして?」

元気よく返したもののなまえはちょいと首をかしげる。だってよぉ、とモードレッドは片手で後頭部をかいた。

「男の父上、お前に対してめちゃくちゃ過保護だし……今回は仲の良い面子だけで行くって決めてるし。一緒に来られたらぶっちゃけ面倒なんだよなぁ」

モードレッドの言う男の父上とは、なまえが唯一契約を結んでいるサーヴァント――異世界のアーサー王こと、アーサー・ペンドラゴン。過保護かどうかは別として、仲の良い面子、という言葉になまえは自然と笑みがこぼれた。わかった、と頷き、アーサーにはこの事を内緒にすると結んだ。

「それじゃ、また後でな! 服装も普段通りで良いからな!」
「わかった! また後でねっ」

モードレッドと別れ、鼻歌交じりにマイルームへと戻る。プティングの原点であるプラム・プティングとはいったいどのようなものだろう。本で写真等を読んだことはあれど、本場の、しかも当時のものなんて見たことがない。心は踊り、早く13時にならないかなぁと思う。いつの間にかマイルームに着き扉を開けると、お帰り、と耳をくすぐる優しく聞きなれた声。

「プ――ッ!?」

マイルームには軽装姿のアーサーで、二人がけのテーブルイスに腰掛けていた。今日の午前中はシュミレーションルームでキャスターのクー・フーリンとアーラシュ達とともに模擬戦をすると言っていたが、どうやら終えて戻ってきていたらしい。軽装姿なのも、恐らく模擬戦後に風呂を浴びたからだろう。

「た、ただいまアーサー……」
「お帰り。随分とご機嫌だね」
「そ、そうかなっ?」

気のせいじゃないかな? と目を逸らしつつマイルームへ入る。どうもなまえの様子が可笑しいと感じたアーサーは首をかしげ、何気なく立ち上がった。

「マスター、」
「な、なんでしょうっ」
「……何か、隠していないかい?」

どきりと心臓が飛び跳ねた。何て勘の鋭い騎士王様なのだろうと思う。別に隠し事なんて、と声を上ずらせながら無意識に二、三歩後退していた。アーサーから柔らかい表情は消え、静かになまえのもとへと歩み寄ってくる。逃げるようにして後ずさるが、とんっと背中が壁とぶつかった。あっ、と声を上げるも前にアーサー、後ろには壁と、完全に逃げ道を塞がれてしまった。
どうしようと内心ひやりとした時には遅く、すぐ傍にはアーサーの姿。そっと両腕がこちらに伸びたかと思うと、これ以上、なまえが逃げないようにするためか体を壁に押し付けられた。
驚きで目を瞬くも、頭の片隅でこれ知ってると思う。以前、刑部姫から借りた少女漫画に出てきた描写の一つ――壁ドンというやつだ。
それを今、アーサーにされている。すぐ近くにアーサーの顔があり、強かな瞳から視線を外すことはできず、むしろ吸い込まれてしまいそうだ。

「なまえ、僕には何も隠さないで欲しい」

囁くように、けれども胸の奥底に響く声音。嗚呼、これ以上は無理――となまえは観念すると一呼吸あけてから、あのね、と紡いだ。

「お昼を食べた後、モードレッドとフランと一緒にレイシフトをして……プティングを食べに行こうって話になったの」

それで? とアーサーは相槌を打つも続きを促す。それだけでは誤魔化した答えにはなっていないらしい。

「モードレッドから、アーサーには内緒って言われて……」
「何故、僕には内緒に?」
「今回は……友達だけで行こうって決まったから」

なまえに対してアーサーは過保護だと言ったモードレッドの言葉は伝えず、けれども本当のことを告げる。
ほどなくして、アーサーは深く息を吐くとなまえから離れた。ふとアーサーの顔を改めて見るとどこかしら安堵の色を浮かべている。壁に押し付けてしまったことを詫び、アーサーは柔らかい声で続けた。

「それじゃあ、午後は気をつけて行ってくると良い。僕はそうだな……たまには立香の手伝いでもしておこうか」

ぱちりと目を瞬き、ぽかんとした表情をなまえは浮かべた。昼食はともに食べれるのかと聞かれ、数秒遅れてこくりと頷く。

「あ、あの……」
「何だい?」
「誤魔化したこと……怒らないの?」
「全て話してくれただろう? なら、その必要はないと判断したまでだ」

それに、とアーサーは続ける。

「女性同士の中に入るわけにもいかない。今日はモードレッド達と楽しんでおいで」

ただし道中は何が起こるかわからない為、気をつけてとアーサーは添える。内緒だと言っていたモードレッドには悪いが、全て話してしまうと心持ちは違うと思った。それに、やはりアーサーには隠し事をしたくはない。

「アーサー!」

名前を呼び、ふわりとなまえは微笑む。

「お土産、楽しみにしていてね。たくさんプティングを買ってくるから!」
「現地のものを、魔力変換なしで持ち帰れたかい?」
「わからないけど……その点は、何とかしてみせますっ」

力強く言うとアーサーは小さくふき出すも、楽しみに待ってると目を細めた。
ふと、壁にかけてある時計に視線を向けるとそろそろ昼前だ。今日は早めの昼食を取り、午後からに備えておきたい。少し早いがそろそろお昼を食べに行かないかとアーサーを誘うと、わかったと頷いてくれた。
そっとアーサーはなまえに手を差し伸べる。食堂までエスコートをしてくれるらしい。その手を取ると、アーサーは指を絡めてなまえの手を握る。

「では、約束の時間まで僕がなまえを独占するとしよう」
「え、あっ、わっ……よ、よろしくおねがいします……アーサー王っ」
「イエス、マイマスター」

普段そんなことを言わないはずなのに、突然耳慣れしない言葉を添えるものだから堪らず頬に熱がのぼる。顔を直視することが出来ず、照れ隠しと、感謝を込めて、なまえもぎゅっと強くアーサーの手を握り返した。


恋を味わうとはそういうもの
(いつも傍に居る君だから、隠し事はすべてお見通し)

愛子||190815(title=星屑Splash!)