(※術鯖夢主設定。特殊な設定となっております、苦手な方はご注意ください。友情出演で槍清姫が出てきます)



「晴明、良いところで出会ったワン!」

突然、背後からそう声をかけられた。声の主はバーサーカーのタマモキャット。最近は良く厨房で料理の手伝いをしているからか、他のサーヴァント達よりも親しくなった気がする。自分に何か用かと問うと、現在、マスターの藤丸立香とエミヤ、ブーディカとマシュがシュミレーションで訓練をしており、昼食の準備をするにも人数が足りず少し困っているとのこと。かなり料理上手な一人――否、一匹といった方が正しいだろうか。キャットの足を引っ張らない程度になら手伝うと言うと、その返答を待っていたとキャットは笑顔した。
さっそく厨房へ赴くと、大量のカボチャがダンボールに積まれていた。昨日まではなかったはずだが、と目を瞬いていると、朝食後にチェイテ城から超特急便として大量のガボチャが送られてきたのだとキャット。今はハロウィンではなかったはずだがとなまえは思ったが、大量に食材があるのは良いことだと能天気にキャットは言う。数秒置いて、そうね、となまえは顔を引きつらせながらも相槌を打った。

「さて。ではアタシはカボチャの煮っ転がしを作る故、そちらは適当に任せるぞ」

なんて大雑把な注文なのだろうと心の中で思うも、わかったわ、となまえは頷く。ぐいっと袖をまくり、ダンボールにつめられているカボチャを自身の宝具のひとつであるピンボール程の大きさの式神達と一緒に一箱厨房に運びこむ。大量のカボチャを前になまえは手際よく準備を始めた。
肉体は消失し、何の悪戯かはわからないが魂だけは破壊される前の聖杯に取り込まれ、祖先である安倍晴明に宿った。魔術師でありカルデアのマスター立香の召喚に応じ、特殊なサーヴァントではあるが今では持てる力を存分に振るっている。晴明として第二の人生を歩んだものの、聖杯に取り込まれる前の記憶はしっかりとある。かなりのブランクはあるものの、カボチャの下ごしらえを式神に手伝ってもらいながらも一人で順調に進めていく。何度か一緒に厨房に立っているからか、キャットは一切口を挟まなかった。
なまえが作ろうとしているのはパンプキンスープ。時短方法を使い、手早く、それでいて丁寧にこしらえていく。式神達がほくほくと湯気を立てているカボチャを次々にミキサーへかけていくのと同時に、すでにバターで炒めたあめ色のタマネギが大量に入った大きな鍋に、ペースト状にしたカボチャを次々に注いでいく。後は目分量で牛乳を入れ、一口味見。ガボチャが甘いからか、これ以上の味付けは不要だと舌は判断した。一人で作るとかなりの時間を労するだろうが、式神達の手伝いもあり手早くスピーディーに、満足のいくものが出来上がった。
鍋の番を式神達に任せ、ふとキャットに視線をやる。そして、はて? と首をかしげた。
大きな寸胴鍋をコンロではなく床に置き、なにやら鼻歌交じりのキャット。鍋の中には角切りで面取りをした大量のガボチャが入っており、味付けがされている。

「どうして火にかけないの?」
「これからかけるぞ?」
「"これから"?」

再び首をかしげると同時に、厨房にある人物がやって来た。

「こんにちは。今日も安珍様のお役に立てると聞き参りました」

語尾にハートマークをつけかわいらしく微笑む立香のストーカーことバーサーカーの清姫だった。今日もよろしく頼むぞ! とキャット。今日も? となまえの頭上にはたくさんの疑問符が飛び交う。二人の間では話が通じ合っているのか、はい、と清姫は返事をすると眩い光に包まれた。それは一瞬の出来事で、瞬きをするなりなまえの瞳に映ったのは霊基をランサーにした清姫。なぜかスクール水着姿なのはあえて突っ込まないことにする。厨房の中へ入り、生のカボチャが大量に入っている鍋の前に清姫は立つ。サッとキャットは鍋に蓋をした。ふうっ、と清姫は軽く息を吐くと、いきます! と掛け声。

「(かなり手加減をした)道成寺鐘百八式火竜薙! 一発!!」


カッと目を見開き、清姫は鍋を相手に宝具を放つ。とんでもない光景になまえはただただ目を見開き、傍で見守っていることしかできない。かなりといっても随分な火力だ。
程なくして、清姫は宝具を解除する。とすんっと床に足をつけると、霊基はもとのバーサーカーへ。サーヴァントがこんなにころころと霊基を変えて良いものかとも思うが、それよりも鍋の中のカボチャは大丈夫なのだろうか。

「これでご主人も喜ぶだろう。また頼むゾ!」
「はい。安珍様の為とあれば、いつでもお呼びくださいまし!」

ニコッと笑顔すると、清姫は大人しく帰っていった。ぽかーんとしているのもつかの間、なまえはハッとなり急いで鍋に視線をやる。

「な、鍋は!? 主にカボチャは大丈夫なの!?」
「何をあわてている? 煮っ転がしは今ので完成したぞ」
「うそ!?」

本当だ、とキャットは鼻を鳴らすと蓋を開ける。すると、ほくほくと湯気が立ち上り美味しそうな香りが鼻腔をくすぐった。鍋の中にはまさしくカボチャの煮っ転がしがあり、箸で軽く割けそうなほどしっかりと味も染み込んでいる。これぞ最高の時短なのだ、とキャット。認めたくはないが、確かに史上最高に効率の良い時短だ。
鍋をコンロの上に乗せているキャットを横目に、こんなのありなの〜!? と頭を抱えうなっていると、ほれ、とキャットからあるものを差し出された。

「味見してみると良い。美味いぞ」

小さなフォークと、小皿に盛られた小さな煮っ転がし。素直にそれらを受け取り、フォークで煮っ転がしをさらに一口サイズにする。すっと入っていく感覚に、手間隙かけて作ったもののように錯覚してしまう。ぱくりと一口、味見をする。舌の上に広がる、しょうゆとカボチャの程よいバランスで整った甘み。熱々なのだが、口の中でほろっと崩れる食感はたまらないものがある。
ほわっとなまえの表情は綻ぶ。それを見てキャットは満足気に頷いた。
匂いにつられてやって来たのか、ふらりと姿を見せたのは、ランサー――否、ケルトの光の御子ことクー・フーリンだった。彼のことはなまえも知っている。生前、遠坂凛と衛宮士郎に途中から協力をしてくれたサーヴァントだ。

「良い匂いじゃねぇか。今日の昼飯はなんだ?」
「メインはカボチャ尽くしだ。が、嫌なら別のものを用意するワン!」
「カボチャか……良いねぇ。特に女連中が喜びそうだ」

ニッと笑みを浮かべるクー・フーリンに、そうだろうそうだろう、とキャットは相槌を打つ。ふと、なまえはクー・フーリンと目があった。手に持っている煮っ転がしが気になっているらしい。一口味見をしてみるかと提案しようとしたが、キャットに遮られた。

「ちょうど良い。アタシのは晴明に味見をしてもらった故、晴明の作ったものはランサーに味見をしてもらうと良い」
「えっ」
「へえっ。嬢ちゃんの作った料理を味わえるたぁ、今日はついてるぜ」

パチンと指を鳴らし、味見早(はよ)う、とでも言うようにクー・フーリンは厨房の中をのぞくように身を乗り出す。お客がお待ちだぞ、とキャットにもせかされ小皿を空いているところに置くと、はいはい、となまえは肩をすくめつつも準備をする。一体の式神に別の小皿をとらせ、鍋の番を任せていた式神にスープを注がせる。小皿を持った式神はふよふよと浮遊してなまえのもとに届けた。よしよしと式神を褒め小皿を受け取ると、そのままクー・フーリンに手渡す。
ふぅっ、ふぅっとスープに息をかけて冷まし、程よい温度まで下がったであろう頃合でクー・フーリンは小皿に唇をつける。くいっと皿を傾け味見。舌の上に広がる味を堪能したのか、皿から唇を離したクー・フーリンの表情は驚いたのと併せてほっこりとしていた。

「嬢ちゃん、」
「はい?」
「良い嫁さんになれるぜ! 抜群に美味い! いやぁ、正直驚いたっ」

満面の笑みで感想をこぼすクー・フーリンに、なまえは思わず面食らう。けれどもこんなにも褒めてもらえるとは予想していなかったため、想像以上に照れてしまった。ありがとう、と少し間を置いてから礼を言う。おかわりと小皿を差し出されたが、キャットが阻止した。

「味見は一人一回までだ。昼飯まで待つが良い」
「……仕方がねぇか」

渋々と小皿だけ返し、クー・フーリンは舌打ちする。くるりと背を向けるも、すぐに振り返った。

「嬢ちゃん――晴明……否、なまえ。昼飯の時、そのスープを指名するから大盛りで頼むぜ」

じゃあまた後でな、と残しクー・フーリンは食堂から去っていった。まるで嵐のようだった気もするが、過ぎたあとはとても晴れやかな気持ち。やっぱり良いお兄さんだなぁ、と思いつつ、なまえは小さく微笑んだ。


ノンシュガーの甘み
(さあ、もうひとがんばりしましょうか。お昼の時間まであと少し)

愛子||191006(title=確かに恋だった)