アーサー・ペンドラゴンのマスターはどうも他の英雄からかなりといって良いほど好かれている。特にこの世界のアーサー王こと反転したアルトリア・ペンドラゴンと、英雄王として名高いギルガメッシュからの寵愛はかなりのもので、目を離せばすぐにでもどちらかの部屋に連れ込まれそうになったりデートと称して二人きりなるために勝手にどこかへレイシフトしそうになったりと、一瞬たりとも気が抜けない。
さっきだってそうだ。レクリエーションルームでなまえが子ども達に混じって遊んでいると、例の二人がやってきて、やれ巨大プリンを作ろう、やれ至上最高甘美なる世界へ行き極上のプリンを食べよう等などと口々になまえを誘ってきた。傍でなまえ達の様子を見ていたアーサーは例の二人を追い払うのとかわすのと逃げるのとで大変だった。子ども達は子ども達で、しゅらばー、がんばれー、と囃し立てるわ応援するわで本当に意味が分かって言っているのかと少し叱りたくなる程だった。
ふいと視線をなまえにやると、テーブルの上に二人分のプリンを並べて何やら満足気にしている。あまりにのん気な様子に、アーサーは再び大きく息を吐いた。
「アーサー、エミヤから貰ったプリン食べよう?」
明るい声でそう誘われ、一呼吸遅れてからアーサーはうなずく。どうもその仕草に何かを感じたのか、なまえはちょいと首をかしげた。
「アーサー、もしかして疲れてる?」
「えっ。いや、別に……」
図星をつかれ、思わず顔が引きつる。やっぱり! とパチンと手を叩き、なまえはアーサーの傍へと歩み寄った。
「最近、シュミレーションとかに良く付き合ってくれているけれども……あまりゆっくりできる暇がなかったからかな」
心配そうに目を伏せ、ごめんねと謝るなまえに、そっちの疲れではないのだがとアーサーは心の中で返す。大丈夫だよと微笑むと、本当に? と疑いの色でなまえは上目でアーサーを見た。本当だとも! と返事をするがなまえは少し考えた素振りを見せる。ほどなくして、よしっ、と腰に手を当てるもすぐさまアーサーの手をとり引っ張った。
「マスター!?」
「良いことを思いついたの。いつもアーサーにしてもらっている、元気になるおまじない!」
おまじない? とアーサーは首をかしげた。よいしょっ、という掛け声とともに席に座らせられた。自分はなまえにどんなおなじないを行っていただろうかと考える。けれども思い当たることはなく、頭上には疑問符が浮かぶばかりだった。
「マスター、いったい何を――」
言葉を遮るように、唐突にアーサーは温かな何かに抱きしめられた。ぱちりと目を瞬き、その正体がわかるや否やハッと息を呑む。アーサーは今、なまえに抱きしめられていた。とくん、とくんと、聞こえてくる優しいぬくもり、落ち着く匂い、柔らかな肌の感触――すべてに満たされていくような感じがした。さらりと髪に触れられたかと思うと、ぽんぽんとあやすように頭を撫でられる。
「落ち込んだ時や悲しい時、いつもアーサーはこうしてわたしを励ましてくれるでしょう?」
これがわたしにとっての元気になるおまじない、となまえは微笑む。確かに、アーサーはなまえに元気がない時や悲しそうな時に、そっと抱きしめてやり話を聞いてやった。何気ないことがなまえにとっては元気になる魔法となっていたことに気づき、そうかとアーサーは呟く。
元気になった? と問われ数秒あけてから、ああ、と答える。
「元気になったよ――なまえ」
良かった! と微笑み離れようとしたが、ぎゅっとアーサーは引き止めるようになまえの腰に腕を回す。驚いたなまえは、アーサーっ? と声を上げるも、突然の甘えぶりに表情は緩む。しかし、なまえ的にはプリンを食べたいという欲求が出ており、そろそろ離して欲しいという気持ちがうずうずと出始めていた。アーサー、と声をかけられるも、その意味を悟り強く抱きしめた。
「もう少し、このままで居たい。もっと元気が欲しいんだ」
いつも悪い虫からなまえを守っているのだ。それに、こうしてなまえが抱きしめてくれることなんて珍しく、しばらくは自分だけのこの特権を味わっていたい。
なまえは軽く肩をすくめると、プリンのことは一時あきらめることにしたのか、再びアーサーの頭を撫で始めた。
たまにはこうして、愛しい人に抱きしめてもらい、甘やかしてもらうのも良いものだ。また疲れが溜まったら、こうしておまじないをかけてもらおう。なまえの腕の中で、アーサーの心と表情は綻んだ。
甘酸っぱい抱擁
(もう少し、もう少しだけ、このままで――)
愛子||180218(title=空想アリア)