さてどうしたものか、とアーサー・ペンドラゴンは悩んでいた。今日は3月14日――ホワイトデー。自身のマスターであるなまえに、日頃の感謝と、バレンタインデーにチョコレートを贈ってもらった礼に、何か形として残るモノをプレゼントしたいと考えていた。だが、なかなか良い案は浮かばず時間だけが過ぎ、イベント当日を迎えてしまった。しかし、幸いにもなまえは今、仲の良い女性サーヴァント達と集まりお茶会を楽しんでいる。その間にもプレゼントを用意したいが……はてさて、何を贈れば喜んでくれるだろうか。

「あら。こんな道端で何を悩んでいるのかしら、異世界のセイバー」

背後から声を掛けられ振り返ると、裏切りの魔女として名高いコルキスの王女――メディアが居た。彼女の存在はもちろん知っている。時折、なまえが魔術の教えを乞いに通っているキャスターのサーヴァントだ。ただ、教えを乞う代わりにメディアの選んだ可愛らしい服の着せ替え人形になっているそうだが、それについてはもう一人の人類最後マスターである藤丸立香から密かに着飾られたなまえの隠し撮り写真を貰っている為、追及はしないでおく。いつかリクエストは出すかもしれないが。
話は逸れてしまったが一人で悩んでいても仕方がないと思いアーサーはメディアに打ち明けた。なまえと呼び掛けてマスターと言い直すと、言い直す必要あったかしら嫌がらせかしらいつかキルケー敗北拳くらわせてやるわよ、とムッとした色をメディアは浮かべたがしっかりと話を聞いてくれた。

「――……そういうこと」

肩を竦めるなりメディアは軽く息を吐いた。

「思いつかないのなら作れば良いじゃない」
「……なる、ほど」

メディアの言葉にも一理ある。しかし、作ると言っても何を作れば良いだろうか。形として残るモノを、というふわっとしたイメージはあるもののそれ以上が思い浮かばない。

「あの娘(こ)は私の妹分みたいなものだし。それに時々こっちが楽しませてもらっているというか……まあ、そういうわけだから。悩んでいる貴方に良い場所があるわ、ついていらっしゃいな」

メディアに手招きされ、アーサーは首をかしげるも後をついて行った。



食堂から一歩廊下へ出るなりなまえは軽く背伸びをした。今日は仲の良い女性サーヴァント達に呼ばれお茶会ならぬ女子会を楽しんだ。お茶とお菓子を楽しみ、そしていつしか始まった恋バナに胸をキュンキュンとさせたかと思いきや、突然話を振られてこちらが赤面したりと、後半は忙しくてほとんど記憶に残っていない。主に好物のプリンの味が。
そういえば、アーサーは何をしているのだろう。もしかしたら、また立香が契約を結んでいるこの世界のアーサー王ことアルトリア・ペンドラゴンとシュミレーションルームで手合わせをしているのかもしれない。そうだとしたらパスを開いて呼ぶのも悪い気がして、真っ直ぐにマイルームへと戻った。
扉を開けようとした瞬間、あっ、と聞き覚えのある声が鼓膜をくすぐった。声のした方を見ると両手を後ろに回したアーサーが居た。
なまえを見るなりアーサーは何やら小さく呟く。首をかしげると、ふるふると頭を小さく左右に振ってからアーサーは傍へとやって来た。いつもと違う雰囲気に何かあったのだろうかと、もう一度アーサーの名前を呼ぼうとした時だった。

「今日はホワイトデー、だね」

嗚呼――そういえば、と思い出す。
カルデアではバレンタインとホワイトデーが入り混じる現象が多々起こり麻痺して記憶から抜けていたが、今日は3月14日……ホワイトデーだ。そうだねと思い出したようにこぼすと、君に渡したいモノがあるんだ、とアーサー。

「これを受け取って欲しい」

そう言って後ろでに隠していたモノを差し出した。アーサーの両手には可愛らしくデフォルメ化されたライオンのぬいぐるみが一つ。ところどころつぎはぎが見え、頭は綿を詰めすぎているのか重みでだるんっと上を向いている。ぱちぱちと瞬きアーサーと手の中にあるぬいぐるみを交互に見やり、えっ、となまえ。

「わたし、に……?」

ちょいと首をかしげて問うと、アーサーはこくりと頷く。アーサーからぬいぐるみを受け取り、わあっ、と表情を綻ばせた。よく見ると縫い目の荒いところがあり、もしかしてと思った。

「これ……手作り?」

アーサーは目を丸くしたものの、驚いたな、呟く。

「君は何でもお見通しなんだね」
「そう、かな?」
「そう。そのぬいぐるみは、僕が作ったんだ」

アーサーが作ったんだ……、となまえは呟く。しかしすぐに、えっ!? と今度は大きな声を上げた。

「アーサーが作ったの!?」
「あ、ああ。僕が作った」

手作りというのがそんなに意外だったのか、なまえは驚いた色のまま、アーサーと手元にあるぬいぐるみを再び交互に見やった。実はね、とアーサーはぬいぐるみを作るきっかけとなった事を話始めた。
メディアに相談した後、ついてくるようにと言われ後を追うと、シュミレーションルームの一画にやって来た。バーサーカーのヴラド三世が使用している区画で、彼の城内が再現されていたのだが――何名かのサーヴァントが既に集まり手元に集中しながらも談笑しつつ何やら作業に勤しんでいた。メディア曰く、定期的に開催されている「ヴラド三世お裁縫教室」なのだとか。驚きと、この場に混ざっても良いものかと固まっていたアーサーの代わりにメディアがヴラド三世に軽く事情を説明し、あれよと言う間に裁縫教室の一員となっていた。改めて内容を確認され、形に残るモノで考えていると伝えると、それならぬいぐるみはどうかとヴラド三世。なるほど、それは思いつかなかったと感心し、少し悩んだものの贈り物はぬいぐるみに決めた。初心者ということもあり、左にメディア、右にヴラド三世、そして何故か正面にシャルルマーニュ十二勇士が一人のアストルフォに囲まれ、裁縫教室が始まった。ちなみにアストルフォはピポグリフのぬいぐるみを作っているらしいのだが、土台が既にアストルフォの腰の辺りまでありまだ半分以上も出来上がっていない。あれは見なくて良いとヴラド三世はため息を吐いた。
そうして――様々な指摘や横やりを受けながらも、なんとかぬいぐるみは完成した。
それが今、なまえの手元にあるぬいぐるみだった。

「何故か頭がしっかりとしなくて上を向いてしまうのだが……どう、かな?」

恐る恐るといった風にアーサーはなまえの反応を窺う。ぬいぐるみは良く見ると確かに荒い縫い目もあり、つぎはぎも目立つ。頭はすわらず、だるんっと上向きに倒れてしまう。
けれども――自然と表情は綻んだ。
アーサーが自分の為に悩んで一生懸命、形に残るモノを作ってくれた。
それだけ、その気持ちだけで、なまえの心は満たされた。

「ありがとう! 大切にするねっ」

ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめて伝える。アーサーは静かに安堵の息を吐き、よかった、と目を細めた。

「来年のバレンタインも楽しみにしていてね、アーサー!」
「ああ、もちろん。今までありがとう。そして、これからもよろしく――なまえ!」

満面の笑みを浮かべ、こちらこそ、となまえ。ほんのりと頬を染めつつも、アーサーも幸せそうに微笑んだ。


いま伝えたい愛がある
(日頃の感謝と親愛を、貴女に)

愛子||200315(title=空想アリア)