そろそろ夕飯の時間だが、アーサー・ペンドラゴンのマスターであるなまえはまだマイルームに戻って来ていない。カルデアベースに出来た紫式部が管轄している図書館に行くと言い残し、昼食後に別れたきりだ。作家組曰く、本の虫でもあるなまえのことだから、きっと入り浸って本を貪り読んでいるのだろうと、聞いても居ないのに探している途中に突然に推理を始めてそう告げられた。
確かに最近は図書館へ行くのも多く、恐らく誰かの新作が出たのだろうとアーサーも推理もとい意見には賛同する。自身のマスターの体調管理も契約しているサーヴァントの役目だと思い、アーサーは図書館へと向かった。
図書館は静かだが、何名かのサーヴァント達が居り、本を読んだりノートを広げ何やら熱心に勉強したりと自由に過ごしている。なまえはどこかと辺りを見回していると、本を片付けている最中の紫式部と目が合った。ぺこっと頭を下げられ、アーサーが何をしに来たのか瞬時に理解したのか、ご案内しましょうか? と紫式部。厚意を有難く受け取り後に続く。図書館の奥に、絨毯の敷かれた広々としたスペースが眼前に見えた。そこには探していた人物と、年少系サーヴァント達が輪になって集まっている。

「最近、なまえ様が皆様に読み聞かせを行っているのです」

最初は長テーブルを使って行っていたが、年少系サーヴァント達から読み聞かせ用の場所が欲しいとお願いされ、急遽作り上げたスペースなのだと言う。子ども達以外にも、実はなまえの読み聞かせは好評なのだとも紫式部は添えた。なるほど、それで最近は良く図書館を利用しているのかと、予想は外れてしまったがアーサーは納得した。
そろそろ物語も終わりに近いらしく、声を掛けても問題はないはずだと助言し、紫式部は自身の仕事に戻った。礼を言い「おしまい」の言葉が聞こえてくるのを、少し離れた場所から待つことにした。
ほどなくして、なまえの唇から「おしまい」が紡がれた。パチパチと年少系サーヴァント達から拍手が送られる。ふと、なまえの背中に乗っていたジャック・ザ・リッパーがアーサーを見やり、あっ! と声を上げた。

「お兄さん!」
「えっ――……アーサー!」

やあっ、と片手をあげて傍へを歩み寄る。いつから居たのかと聞かれ、今さっき来たばかりだと小さな嘘を吐く。そろそろ夕食の時間だと伝えると、もうそんな時間なのかとなまえは驚いた色を浮かべた。

「今日は何を読んでもらっていたんだい?」

子ども達に尋ねると、これよ、とナーサリー・ライムが閉じられた本を両手で持ち上げ表紙を見せてくれた。

「新・人魚姫ver9! 新作なのよ! 人魚姫の逆襲がとっても面白かったわ!」
「人魚姫の……逆襲……?」

はて、人魚姫はそういった内容だったかと記憶をまさぐる。

「はいっ。人魚姫が王子様と結婚するために、邪魔をする人達や魚達をばったばったなぎ倒すんです!」
「人魚姫が……邪魔者を……ばったばったとなぎ倒す……」

新・人魚姫ver9の内容を楽しそうに語るジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィに、アーサーは思わず眉を顰めた。とにかくと慌てて咳ばらいをして夕飯の時間だと告げる。もうそんな時間なのかとなまえは目を丸くし、年少系サーヴァント達は早く食堂に行かねば好物が無くなると経験上わかっているのか走り出した。
ノートを広げて何やら勉強をしていた一人である反転したジャンヌ・ダルクが怒った声を上げたが、その声の方が大きかったのは言うまでもない。
なまえは軽く背伸びをし、絨毯の上に放り出された本を拾い上げると、脱いでいた靴を履きアーサーの隣に並んだ。

「お待たせ。迎えに来てくれてありがとう」

気にしなくて良いと添え、手を差し伸べる。エスコートをしてくれるのだとわかったのか、なまえはその手を取った。

「最近、図書館へ居る理由は読み聞かせをする為だったんだね」
「ナーサリーにお願いされて。喜んでくれているみたいだけれど、結構難しくて……」
「紫式部女史が言っていたけれども、子ども達以外にも、マスターの読み聞かせは好評らしい」
「えっ!? ま、待って……他ってことは、子ども達以外も聞いてるってこと……!?」

読み聞かせを行っているからには、子ども達以外にもなまえの声は静かな図書館では聞こえてしまうだろう。今度からはマイルームで行おうかな、と頬を赤く染めてぶつぶつとこぼすなまえにアーサーは小さく笑った。

「――……確かに、その方が良いかもしれないね」

受付に本を戻し、図書館から出るなりぽつりとアーサーは言う。えっ? となまえはぱちりと目を瞬いた。

「マイルームで読み聞かせをすれば、他の者達に君の声は聞かれない。子ども達が居る間は仕方がないけれども……それでもね? 僕だけが、独り占めできる」

数秒と経たずになまえの顔はみるみる赤く染まっていく。もうっ、と照れ隠しにそっぽ向く姿が可愛くて、愛らしくて、思わず歩みを止めた。同時になまえも足を止め、どうしたのかともごもごとしつつ上目で問うてくる。辺りに誰も居ないと軽く見渡して確認してから、アーサーはなまえを抱きしめた。

「アーサー、」

突然のことに咄嗟に反応出来ずに居るなまえを強く抱きしめ直す。アーサーの背中になまえが腕を回そうとした瞬間、ぐうっと誰かの腹の虫が鳴った。もちろんその犯人はなまえで、良い雰囲気を自身で壊してしまったという罪悪感と大きな腹の虫を鳴らしてしまったという羞恥心に更に顔は赤く染まっていく。
ふっとふき出したのはアーサーで、喉の奥でくつくつと笑いをこらえながらなまえから離れた。

「食堂へ急ごうか。早く行かないと、席がすぐに埋まってしまう」
「そ、そうだね……っ」
「それに、なまえのお腹の虫も早く鳴き止ませないとね」

くすりと笑うと、もうっ! となまえはペチンとアーサーの腕を軽く叩いた。もう一度、手を差し伸べるとむすっと頬を膨らませるもなまえは再び手を取る。今度はエスコートではなく、しっかりと指を絡めて握った。驚くなまえを余所に、行こうと告げる。こくりと頷くと、なまえはそっとアーサーに寄り添い再び歩み始めた。


つい意地悪をしたくなる
(君を独り占めできたら良い――と思うのは、本当の気持ち)

愛子||201229
(title=星屑Splash!)