(※夏組が加入して日の浅い時期な設定)

電話を切るなり大きく息を吐き、共有の長ソファにぼすんと腰を下ろす。どうしたものかと頭をひねり現状を整理しようと思った。
新しい仕事の件で先程マネージャーから連絡があった。来年公開予定の映画のメインヒロインの役で、声が出ないというなかなかに難易度の高い今までにない大役だ。新しいステップへ進むにあたり難しい役は大変ありがたい。だが、相手役となる主役の俳優に頭を悩ませている。主役は、一つ屋根の下で一緒に暮らしているMANKAIカンパニー夏組リーダーの皇天馬なのだ。
子役の頃から良く共演をしているが、どうも天馬自身を好きになれないで居た。だが、気持ちとは反対に天馬の演技は大好きで、一緒に良い映画を作りたいとは思う。
今回の話と一緒に舞い込んできた仕事の話がもう一本ある。来春放送予定の民法ドラマの準ヒロイン役だった。平々凡々な役なのだが、大好きな役者人が集まるドラマだ。撮影期間は二つとも同じ時期で、どちらか一つだけを選ばなければならない。どちらを取るか考えておいて欲しいと言われたものの、天馬との共演に妥協をし大役を取るか、大好きな役者人が集まるドラマ撮影を取るか――どちらも捨てがたい。
どうしよー!! と声を上げ足をばたつかせていると、ガチャリとドアが開いた。仕事から帰ってきたのか、スマートフォンを片手に持った茅ヶ崎至がきょとんとした色でこちらを見ている。ピタリと動きを止め、おかえり、と声をかけると、ただいま、と返事。監督達は? と聞かれ、監督と春組団員達はレッスン室に篭っていると伝える。今後のことについてのミーティングも兼ねて個別の特別練習も行っていることを添えた。
早く顔を出した方が良いのではないかと言うと、これが終わってから、と至はスマートフォンに視線をやりつつ隣に腰掛けた。どうやらゲーム中らしく、本当に駄目な大人だ、と心の中で呟く。
たんたんと指で画面をタップしながら、それで? と声をかけられる。

「なに叫んでたの。失恋でもした?」
「してない。ちょっと……仕事のことで……」

ちらっと至を一瞥し、聞き流してもらっても良いので話させてください、と前置きすると一連のことを話した。至は時折頷き、短く相槌を打つ。何度か舌打ちもしていたが、それは聞こえなかったことにした。

「――ってことなんですけど……どうしようか悩んでいて……」
「っし。これで10キル」
「ああ、うん。本当にラジオみたいに聞き流していてくれてたんですね。別にいいけれども」

小さくガッツポーズをした至にずるりと肩を滑らせたが、すぐにこれが平常運転であることを悟り軽く頭を横に振る。

「なまえはどうしたいの?」
「……え?」

ゲームに一区切りついたのか、タップする速度を緩め至は続ける。

「レベルアップしたいのか、それとも今のままでいたいのか……それを決めるのはなまえ自身だよ」

言いたいことはもちろんわかる。ふと目が合い、ふっとと至は微笑み紡ぐ。

「なまえはもう、答えを出してるんじゃないの?」

さすがだな、と軽く息を吐く。話しているうちに腹は決まった。こくりと頷くと、マネージャーに今から電話をしようと思います、と告げる。ん、と短く返事をすると至は再び視線を液晶画面にうつした。
さっそくマネージャーに電話をしようと自身もスマートフォンを取り出し操作をする。通話ボタンを押そうとした瞬間、ちょいちょいと肩を叩かれた。至の方を見ると、ずいとスマートフォンを差し出される。ぱちぱちと目を瞬いていると、至はやさしい声音で言った。

「ちょっとこのボタン押して」

と、指で示されたのは「回す」というボタン。は? と首をかしげると、今日の昼から始まったイベントの期間限定ガチャで、かなりの低確率の排出されるUR武器がどうしても欲しいのだと言う。もう80連くらいは回しているらしいのだが、狙っている武器はいっこうに出てこないのだそうだ。このゲーマーめ……、と口の中で呟きつつ、話を聞いてくれたお礼も兼ねて、と「回す」というボタンを軽くタップする。ども、と礼を告げると至は鼻歌交じりに画面を見つめていた。
気を取り直してマネージャーに電話を、と思った時だった。

「――っ!?」

声にならない声を上げた至に、どうかしたのかと目を丸くする。大丈夫かと声をかけようとした刹那、ぎゅっと手を握られた。

「ありがとう神……!」

どうやら狙っていた武器が一番最初に出たらしく、至は深々と頭を下げる。神って、と呆れていると、レッスン室に篭っていたはずのいづみと春組団員たちがぞろぞろとリビングに入ってきた。
長ソファに座る二人が手を取り合っているように見える光景に監督を含め団員達が、はわあっ、となったのはまた別の話である。

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オタクな至さん素敵過ぎた。
執筆日||170207 掲載日||170319 (愛子)