今日から姉のいづみと夏組、そして雑用係として支配人の松川伊助が合宿へと出かけていった。当初、いづみの代わりに皆木綴が食事係を勤めることになっていたのだが、急遽、用事が入ってしまい夕飯を作ることができなくなってしまったと連絡が入った。春組稽古の面倒等を見るべく残ったついでだ。軽く息を吐くと、グループLIMEに「私が作る」と送ると、最寄のスーパーへとさっそく足を向けた。学校帰りとはいえ一応は有名人であるため、念のために深くマスクをかけなおす。
食材を買い終え寮へつくと、まだみんな帰っては居なかった。しかし、LIMEには返事が複数きていた。驚いた文章もあれば、写真ヨロ、等々さまざまな反応があった。いづみは開きすらしていないのか、返事はなかった。
姉妹共同部屋に鞄を置き、エプロンを拝借する。下準備を終えると、さっそく料理を始めた。
しばらくして、最初に学生組が帰って来た。佐久間咲也と碓氷真澄はキッチンに立つなまえの姿を見るなり、本当に作っていると驚いた色をする。しかし、漂う良い香りに夕飯が楽しみだと咲也は笑顔した。真澄は監督の料理云々とぼやいていたが聞かなかったことにした。
次いで外へ出かけていたらしいシトロンと、遅くなると言っていた綴が帰宅した。LIMEで言っていた通りになまえが料理をしているのを見て、学生組と同じく目を丸くしていた。だがシトロンは、ジャパニーズドリーム! とニコニコと笑った。
料理が出来たと同時に最後に姿を現したのは、茅ヶ崎至だった。匂いからして違うのはわかってはいたが、カレー? と尋ねた至に、ひかえおろー! と声を高らかにテーブルの上に出来上がった料理を並べる。テーブルに集まり料理を見た春組メンバーは、おおっ……! と感嘆の息をこぼした。
「まさかの和食」
「しかもすげー旨そう……!」
「おいしソーダヨ!」
「すごいです! 焼き魚に煮物にお味噌汁……どれも美味しそうっ」
「監督の料理が食べたい」
「真澄はさっきから喧嘩売ってるの? 何なの? 買うわよ?」
人数分の料理を並び終え、私服に着替えた春組メンバーにさっそく席に着き食べるように促す。腹の準備は万全だったのか、みんな素直に従い席に着いた。箸を手に取り、いただきます、と手を合わせる。
なまえの手料理はいったいどれほど美味しいものなのか、期待の色を宿したまま料理に手を伸ばす。同時にぱくりと料理を口に入れた瞬間、皆、小さく首をかしげた。租借をしつつ、もう一度、料理に手を伸ばし口に入れる。そしてやはり、今度は逆方向に首をかしげた。
何も感想を言わないメンバーに痺れを切らし、当然美味しいでしょう? と作った本人は微笑む。そっと箸を下ろし、メンバーは閉じていた唇を開いた。
「味がしない……だと?」
「オーウ……ゾウモウなアジだヨ……」
何だこの料理はと驚く至の後に、目を白黒とさせシトロンが言う。は? と首をかしげるなまえに、それって、と綴が言葉を直した。
「不毛な味って言いたいンすか? いやでも不毛って普通料理には使わないけど……」
合ってるといえば合ってるか、と綴はひとり納得する。
「不味い」
率直に真澄は言った。はあっ!? と声を荒らげ急いで真澄の傍へ行くとぐいと胸倉を掴む。そんななまえをどうどうと綴は宥め真澄から離した。
「不味いって何よ! これでもお姉ちゃんと一緒に料理とかしたり、友達の家で作ったりしたことがあるのよ!?」
「はあ……監督の料理が恋しい……」
「この料理を友達の家で作ったっていうことに誰か突っ込みを入れてくれ」
「至さん、これ以上、なまえを刺激しないでください……」
ムキーッと目を吊り上げるなまえを、今度は羽交い絞めにして落ち着けと綴。料理を食べた友達は何も言わなかったのかと続けて尋ねる至に、至さん! と綴は声を上げる。
「Amazing! って言われたわ!!」
「友達は外人!? しかも感動というより驚かれてるし!! あー、もう。とりあえず本当に落ち着けって、な?」
やさしく諭すも怒りはおさまらず、バタバタと足をばたつかせ今にも皆に食って掛かりそうだ。どうするか、と綴が頭を回転させていると、咲也がにこりと笑顔した。
「自分好みの味に調節できて、俺はおいしいって思います!」
満面の笑みを浮かべて咲也は紡いだ。
「美味しいご飯を作ってくれて有難うございます!」
先程までの怒りはどこへ行ったのか、落ち着いたらしく、離してと凛とした声音で綴に言う。綴から離れると、なまえは照れたようにフンッと鼻を鳴らした。
「最初から、素直にそう言っていれば良かったのよ。カレーばかりじゃ飽きてるんじゃないかって思って、和食にしたんだから」
皆の為を思って今日の献立を考えてくれていたらしい。夏組の誰かと本当に良く似た性格だと至と綴は改めて思う。パタパタと咲也のもとへ早足に寄ると、おかわりあるからね! と微笑み返す。咲也は一瞬戸惑った様子だったが、ぎこちなく返事をした。
「良かったじゃん、嫁の貰い手が出来て」
「オーウ! ワタシもそれ立候補するヨー! カントクとフタリまとめてワタシのお嫁サンも良いネ! シバヅケ丼ヨー!」
「綴、通訳お願い」
「ええ!? いや、これは俺でもちょっと……シバヅケ丼……」
「あ、俺はわかった」
パチンと指を鳴らし、至がかわりに通訳した。
「姉妹丼!」
「ソレネ!」
「大人の汚いオタク用語だったか……」
頭を抱える綴に咲也は首をかしげながら笑う。なまえも"姉妹丼"の意味がわからず頭の上に疑問符を浮かべていたが、とりあえず笑うことにした。
ただ一人、焼き魚に大量の醤油を垂らしながら、真澄は合宿へ出かけた監督に想いを馳せながら大きく息を吐いた。
★おまけ★
いづみ「――えっ!?」
一成「どうかしたの? カントクちゃん」
いづみ「今、LIMEを見たんだけど……なまえが晩御飯を作ってるの!?」
椋「はい、そうみたいです。なまえちゃん、どんな料理を作るんでしょう?」
幸「そこのカレー星人と似て、どうせカレーなんじゃない?」
いづみ「……私と違って、あの子はそこまでカレーに拘らないの。でも……」
天馬「でも……なんだよ?」
いづみ「なまえが一人で作ると、調味料とかふんだんに入れちゃって、まったく味のしない料理が出来ちゃうのよね……見た目は美味しそうなんだけど」
幸「……それ、向こうも今頃罰ゲームみたいなモンじゃん」
椋「罰ゲームって! そんなこと……ないと、思う……けど……」
一成「うわー……あーでもでも、なまえちゃんの料理食べてみたいかも!」
天馬「お前ら姉妹、どんなだよ……」
執筆日||170226 掲載日||170319(愛子)