自身の携帯電話をじっと見つめつつ、なまえは大きく息を吐いた。談話室にある共有の長ソファにぐだりと倒れこみ、まるで駄々っ子のように両足をばたつかせる。
原因は、事務所からの指示で半ば強制的に期間限定ですることとなったインステだった。正直言ってこういった類は苦手だ。かわいいものを見ても、おいしそうな料理が出ても、基本的に写真なんてものは撮らないし、家族や友達に送ることもない。そもそも携帯なんてものは相手と連絡を取り合うことができ、少し遊べるくらいで良いのだ。それなのに最近の携帯は電話という機能の他に写真の画質だとかうんたらかんたらと性能が良すぎやしないかと愚痴がこぼれてしまう。
初めは嫌々だったが事務所の決めたことだし、運営はスタッフ達に任せていれば良いと言われた為、ファンサービスの一環だと思って了承したのだが、まさかの事態がついさっき起こった。
それは、インステを初めて数時間経った今。フォロワー数があっという間に5万を超えたという報せとともに課せられたファンサービスの一環として、なまえ自身の手で写真を投稿しろ、というものだった。初めは嫌だと断ったがマネージャーからのお願いはかなりのもので、一時間近くも話し合った。が、結局はなまえが折れ、インステに写真もしくは動画を上げなくてはならなくなった。
しかし、まずインステに投稿をするという作業がわからなかった。写真を撮るのは良いが操作が理解できず、どうしたものかと頭を悩ませていたのだ。そんななまえのもとに、救世主ともいえる人物が談話室に何気なくやってきた。

「何か飲み物あったっけ……」
「一成三好! 良いところに!!」
「うわあっ!? びっくりした……ていうか何々、その呼び方」

談話室へやってきたのは、確か以前にインステをしていると言っていた三好一成だった。ガバッと起き上がり一成を見やると、驚いた色を浮かべてなまえに視線を向けている。ソファに座りなおし、ポンポンと隣のスペースを叩く。一成は首を傾げつつなまえの隣に腰掛けた。

「一成、インステしてたよね」
「モチやってるよ〜。さっきも出来たばかりのフライヤー画像上げて、結構ええな貰ってる!」

嬉しそうに笑う一成になまえはさっそく話をした。一成はなまえが期間限定でインステを始めたことを既に知っていたのか、もちろんフォローをしていると言う。ありがと、と礼を添え相談をする。すると一成は意外そうな色をしたが、そういうことならお任せあれとでも言うように、さっそく自身の携帯をズボンのポケットから取り出すと目の前で操作方法のレクチャーを始めてくれた。
写真の撮り方は省き、載せ方、そしてコメントの添え方。閲覧の方法と、コメントの返し方等など。教わってみれば案外簡単で、なるほどと呟いた。

「二人して何してんの? まさかインチキエリートとネオヤンキーに唆されてゲームでも始めたわけ?」
「違う違う。なまえちゃんがインステ始めたらしくて、やり方を教えてただけだよん!」

次回公演で使う予定の作りかけの小道具とソーイングセットを手に瑠璃川幸が談話室へとやって来た。ふーんと適当に相槌を打つと、幸は空いている前のソファにぽすんと座る。手元にある小道具を見て、綺麗ねぇ、と感想をこぼす。誰が作っていると思っているのだと幸は鼻を鳴らすも、素直な感想をもらえて満更でもないらしく、口元はかすかに綻んでいた。

「ていうか、さっそくインステに何か上げてみなよ。なんだったらオレとツーショ、」
「えー何を撮ろうかなー!」
「うわぁ、見事にスルーされた」

しゅんと肩を落とす一成には目もくれずなまえは首をかしげて悩む。幸はそ知らぬ顔で小道具をチクチクと作り続けていた。そんな三人のもとに、今度は三角探しから帰ってきたらしい嬉々とした表情の斑鳩三角と、少女マンガの新刊を手にした向坂椋がやって来た。三角は新しい綺麗な三角形をした石をキラキラとした瞳で愛で、くるくるとその場を行ったりきたりしている。椋は隣に座って良いと幸から許可を得ると、ソファに座りわくわくとした面持ちで漫画を読み始めた。
最後に談話室に入ってきたのは、撮影から帰ってきた皇天馬だった。疲れた声音でただいまと言い、何か飲み物はあるかと呟きながら、天馬は真っ直ぐに冷蔵庫へと歩を進める。
その瞬間、なまえはハッと何かを思いついたのか、一緒に写真を撮ろうと諦めずに誘い続けてくる一成から離れ天馬を呼んだ。その瞬間、再びしゅんと肩を落とした一成に、コミュ力高男の自業自得だと幸は鼻で笑った。椋はただただ苦笑し、三角はまったく話を聞いていないのか石を愛でている。
ちょうど冷蔵庫から誰のものかは知らないが、封の切られていないペットボトルのコーラを取り出した天馬は視線だけを向けてくる。なまえはさっそく携帯のカメラを起動させると、ムービーへ切り替え天馬に向けた。

「ブルブルブルーミング! って、決めポーズ添えて言ってみて」
「……はあ?」

突然わけがわからないと天馬は顔を顰める。早くしろとなまえはニコニコと笑顔するも、嫌だ、天馬は返した。が、もちろん天馬がそう返事をするとわかっていたため、準備は良いですかー? となまえは続ける。

「五秒前〜」
「はあっ!? ちょっ、」
「四、三、二――」

これも職業病というやつか、そう声がかかるだけで天馬は手に持っているコーラをどうしようかと慌てた素振りするも、一、とカウントを切った瞬間、表情は変わった。

「ぶるぶるぶるーみん!」

きっとここに女性ファンが居れば、たちまち黄色い悲鳴が上がるであろう程の決め顔、そしてポーズを天馬はカメラ――もといなまえの携帯に向けてした。
シンッとした空気が談話室に訪れる。全員の視線を浴び、どうだ、とでも言いた気に天馬は次いで極上の笑みを浮かべた。
程なくしてその空気を破ったのは、プッと噴き出すなり急いで録画を止めたなまえだった。それを皮切りに手を止めた幸、漫画で顔を隠した椋、そして腹を押さえた一成が大笑いし始めた。三角は、いまの顔よかったよ〜、と天馬を褒めるが、当人はからかわれていることに気づき色を変えた。

「何言わせンだよ! つーか、いきなり五秒前とかカウントすんじゃねぇ!!」
「だって、カウントしないとしてくれないじゃない。やーい、職業病ー!」
「お前に言われたくねぇよ! クッソ、なんか腹立つな……!!」
「ポンコツ役者が、ぶるぶる……」
「ぶるーみんぐ……」
「そこ! 笑うな幸! 椋!!」

顔を赤らめ指差し注意するも、二人の肩はぷるぷると震えさっと顔を背ける。それはいくらなんでも無理な話だろうと一成はフォローするも、笑いすぎて目には涙が滲んでいた。三角はまったく話を聞いていなかったのか、天馬がしたのは演技だと思っているらしく、あんこ〜る! と声をかける。アンコールするな! と怒る天馬を他所に、なまえはソファに戻ると携帯を操作し始める。先程撮った動画を、今の気持ちを添えてインステに投稿を終えた瞬間、これで誰も文句は言うまいと満足感があった。

「テンテン、さっきのインステにあげたいからもう一回やってよ!」
「ふざけんな! 二度とするか!!」
「天馬、ありがとね〜! お陰で仕事、一段落ついたわ!」
「仕事ってなんだよ!」

何なんだまったくと息を吐くと、天馬は逃げるようにして部屋から出て行った。
数時間後、なまえのあげたインステの記事が瞬く間にとてつもない再生数とコメント数と、そしてええなが付き、反響と話題を呼んだ。この事は夜になるとインターネットのニュースにもなり、インステの存在を知った天馬が姉妹共同部屋へ特攻をかましたのはまた別の話である。

★おまけ★
一成「うわっ、すげー。ネットニュースになってんじゃん、テンテンのあの動画」
幸「ねえ、あれもう一回観たいんだけど再生してくれない?」
一成「オッケー任せてゆっきー! ていうかコメントの数もええなもすげー……さすがなまえちゃん」
椋「コメント、なんて書かれてあるか読めるんですか?」
一成「読めるよん! えーと……"天馬くん素敵すぎるー!"、"二人とも仲良すぎてツライ結婚しろ"、"めっちゃワロタ"――とか、いっぱいきてる!」
三角「さんかくのコメントは〜?」
一成「すみー、さすがにそれはないかな」
三角「えー……ざんねーん……」

天馬「お前等!! なまえの奴どこに居るか知らないか!?」

幸「あ、ぶるーみん! ってドヤ顔決めてたポンコツ役者」
天馬「もうそのネタでいじるのやめて!!」

* * *
みんなが集まってテレビとか観ているあのスチルの場所は談話室で合っていますかね…? とても不安。もし間違えているようでしたらごめんなさいorz
ちなみにおまけの天馬はネットニュースをたまたま読んで夢主を探しているところです。
ていうか、一成に飲み物飲ませるの忘れてた。(170319||愛子)