寝るまで一緒に居て欲しいと、弟のシエルに頼まれた。執事のセバスチャンを下がらせた後、姉のなまえはまるで母のように子守唄を歌いながらシエルが眠るまで傍に居た。そうして先程、ようやくシエルは深い眠りに落ち、なまえは静かに部屋を出た。あくびをかみ締め自室へと向かう。窓の外から指す月明かりを頼りに廊下を歩いていると、ふと背後に気配を感じた。この時間、闇に紛れることが出来るのはもちろん"彼"しか居ない。なまえは歩みを止めふうっと息を吐き振り返った。

「何か御用? セバスチャン」
「私の気配を察するとは……流石です、お嬢様」

ありがとう、と礼を言い、それで? と本題を促す。セバスチャンは背後に両腕を回したまま、ゆっくりとなまえのもとへと歩み寄る。ちょいと首をかしげた瞬間、目の前に何かを差し出された。なまえは驚き目を二、三度、瞬く。差し出されたのは、黒い薔薇の花束だった。

「わあっ……黒い薔薇なんて初めて見たわ」

物珍しそうになまえは花束をまじまじと見る。

「ええ、とても珍しい薔薇です。偶然手に入れることができましたので、是非、お嬢様にと」
「わたしに、くれるの?」

ええ、とセバスチャンは頷く。なまえはほんのりと頬を赤く染めつつ花束を受け取った。両手で花束を持ち、幻想的ね、とこぼす。

「お嬢様、黒薔薇の花言葉をご存知ですか?」
「花言葉?」

と、復唱し、知らないわ、と返す。セバスチャンはにこりと微笑みなまえの耳元に顔を寄せると、そっと囁いた。


死ぬまで一生愛されてると思ってた
("貴方はあくまで私のもの"――ですよ。これからもずっと、坊ちゃんも貴女も、私だけのものです)

愛子||140727
(title=夜に融け出すキリン町)