どうしてこうなった、とエダは考える。
事の発端はヨランダが持ち込んできたものだった。

「エダ、仕事だよ。今日一日、この子の子守を頼む」

は? と首をかしげるエダの前にヨランダの後ろに隠れていたのか、一人の少女が現れる。歳は三、四ぐらいで髪は金色、瞳は美しいスカイブルー。シフォンの白ワンピースが良く似合う、愛らしい少女だった。
少女の名前はなまえと言って、父親は今日このロアナプラでビジネスを行っているのだそうだ。仕事の合間、一人娘をホテルに残しておくのは可哀想だから、ということで、ヨランダに面倒を頼んだらしい。
しかし、ヨランダも今から出掛けるのだと言う。そのため暇であろうエダになまえの面倒を頼んだのだった。
エダはもちろん嫌だと抗議をしたのだが、ヨランダの口には敵わない。仕方なく、エダはなまえの面倒を引き受けたのだった。
なまえがおとなしかったのは最初の数分で、それからは聖堂ではしゃぎ、現在はエダと鬼ごっこ中だった。

「いい加減に大人しくしやがれってんだよ!!」

椅子をはさみ、なまえと対峙するエダ。なまえはニコニコと笑みを浮かべ、さも楽しそうだ。

「お姉ちゃん鬼には捕まらないもーんっ!」

もともと短気な性格だからか、エダの額やこめかみには血管が更に浮かぶ。ホルスターから銃を引き抜こうとしたが、瞬時に我に返り軽く頭を振る。子ども相手に、とエダは小さくため息つく。
ふと、気がつくとなまえの姿がない。辺りを見回すが、どこにも居ない。

「どこに行きやがった!? ――ったく、」

片手で後頭部をガシガシをかくと、エダは面倒くさそうになまえを探し始めた。

三十分ほど経って、教会の外を一周したエダは未だになまえを発見できていなかった。口では文句を呟きながらも、内心、焦りを覚えながら一度教会の中に戻る。神が奉られている前の席で休憩をしようと、エダはゆったりとした足取りで向かう。

「なんで子守をあたしに任せるんだよ本当に……、」

と、一番前の席で足を止めるなりエダは口を閉じる。木製の長椅子の上に、横になり眠っているなまえの姿があった。はあ、と深くため息をつく。
散々探した挙句に戻ってきていた上に疲れて眠っているときた。だから子どもは嫌いなんだ、とエダは心の中で思う。
しかし、いつの間にか怒りや焦りはどこかに吹き飛んでいた。なまえの傍に行き床に膝をつくと、寝顔を覗き込みながらふっとエダは微笑んだ。

「まあ、なんだかんだ言っても、子どもは可愛いな」

柄にも無いな、と思いつつも、エダはそっとなまえの頭をなでた。

「……お前は、こっちの世界に足を踏み入れるんじゃねェよ」

誰に言うでもなく、ぽつりとエダは言う。サングラスの奥にある瞳は、どこか寂しそうな色を映していた。


胸に灯った一つの優しさ
「……ふあっ。お姉ちゃん……?」
「っ!? よ、よお。おはよう……」
「うんっ、おはようっ。なまえ、お姉ちゃんに捕まっちゃった」
「……そうだな、捕まえた」

(お前は何も知らず、白のままで居てくれ)

愛子||180609(title=空想アリア)