目を覚ますなり、なまえの体は固まった。目の前には、見知った女性――否、髪の短い、顔に火傷痕のある知らない男性の姿。二、三度、瞬きをした後、なまえはわなわなと体を震わせ、声を上げようとした時、大きな手のひらで口を押さえられた。

「どうしたなまえ。何を震えている?」

男性はパチリと目を開け、なまえに問う。ポンポンと、口をふさいでいる手を叩くと、男性は何も言わず離す。

「きぃっ――モゴッ」

声を上げようとした時、再び口を塞がれた。

「何故、声を上げようとした?」
「モゴモゴッ、フゴ!」
「何を言っている?」
「モゴモゴモ!」
「離せと言っているのか。大声を上げないのなら、離してやる」

こくこくとうなづくと、手は離れた。深呼吸をするなり、なまえは問う。

「あ、あなた誰っ? バラライカお姉さまはどこ!?」

すると、ふむ? と男性は首をかしげる。

「何を言っている? バラライカならここに居るだろう」
「え……? ど、どこ……?」
「だから、ここに居ると言っている」

そう言って男性は突然体を起こし、なまえの上にまたがる。引き締まった肉体に、無数の火傷の痕。あれ、となまえは思う。

「もしかして……お姉さま……?」
「お姉さま? お兄さまの間違いだろう?」

ぐいっと、男性――バラライカは顔を近づける。ドキリとなまえの胸は高鳴った。

「あ、の、どうし……なんで、男性に……?」
「先程からお前の言っていることが良くわからないが……それにしても酷いな」

と言って、バラライカはなまえの頬をそっと撫でる。

「昨日、あれだけ愛してやったというのに……な」

昨日? と思い、なまえはふと視線を下げる。お互い着衣を身に着けていない。顔に熱が上っていくのがわかり、ふいと視線をそらした。なまえ、と名前を呼ばる。バラライカに目をやると、ゆっくりと近づいてきていることがわかる。顔を背けようにも、体が言うことを利かない。きゅっと目をつむった。
お互いの唇が触れ合う寸前、ゴンッという鈍い痛みがなまえを襲った。


「いっ、つ!?」

声を上げ、痛みが走ったところを抑える。目を開け、体を起こす。どうやらベッドから床に落ちたらしい。ハッとなり、なまえはベッドの上の人物の上にまたがる。そして、ほっと安堵の息をこぼした。

「……何をしている?」

聞きなれた声が言う。なまえは瞳に涙を溜め、ぎゅうっと抱きついた。

「お姉さま! ああっ、本物だ!! 女性だ!! おっぱいある!!」

バラライカが女性であることを、体に頬ずりをして確認する。すると、ゴンッと頭に拳骨を落とされた。痛い、とつぶやきつつも、なまえは頬ずりをやめない。

「何なの朝っぱらから……気持ち悪い」
「嗚呼、二度と女性の姿であるお姉さまに会えないのではないかと心配になりましたっ……! ううっ、よかったよぉっ!」

はあ? と、不機嫌な色を浮かべながら、バラライカは冷ややかな目でなまえを見る。一体何があったのかは知らないが、とりあえず、なまえの頭を撫でてやることにした。


お約束ハプニング
「ところで……何であなたはここに居るの? しかも裸で」
「そんなの決まっています! 夜這いをかけたんですけど、お姉さまと一緒のお布団に入ったとたん眠たくなっちゃって……それで今に至ります!」
「よーし、三秒数える間に部屋に戻りなさい。じゃないと、眉間に穴が開くわよ」
「やだお姉さま! 穴だなんて、なんだか卑猥ですわ!」
「один(アジン)……два(ドゥヴァ)……тр(トゥ)、」
「どうも失礼いたしました続きはまた朝食時に!!」

愛子||180609(title=空想アリア)