先程からなまえの様子がおかしいことにバラライカは気づいていた。しかし、その原因は何なのかを理解していたからあえて問いはせず、黙々と朝食をとっていた。バラライカが先に食べ終わり、愛飲している紅茶を一口飲む。するとようやく、なまえが口を開いた。

「やっっぱりあの女、許せません!!」

バンッとテーブルを叩き、勢いよく椅子から立ち上がる。ボリスが宥めるが、なまえの怒りは頂点に達しているらしく聞く耳持たない、という状態だった。バラライカは紅茶を飲むのをやめ、ふうっと小さくため息をつく。

「もう過ぎたことだ。それに、あなたには関係のないことよ。それなのに、何故いまになって怒る?」

と、バラライカは平然とした口調で尋ねる。なまえの手にはいつの間にか相棒であるワルサーP99が握られていた。バラライカの問いに、なまえは即座に答える。

「さっきは耐えましたけど、やっぱりあの女っ、会計監査官だかなんだか知りませんけどムカつきますっ。なんですかあの態度! お姉さまに向かって!!」

効果音はプンスカだろうか、とバラライカは脳内でなまえの周りに効果音などをつけてみる。シュールな映像に、思わずくすっと笑いがこぼれた。

「ど、どうして笑うんですかっ」
「いや、何でもない。今のは……ノーカウントにしてくれ」

笑みをこらえながら、バラライカは続ける。

「タチアナが気に入らないのは、なにもなまえだけではない。だから、あなた一人がカッカする必要もないわ」

一度言葉を切ると、紅茶を飲む。なまえは不満そうに顔をしかめ、銃をホルスターに仕舞う。口内に潤いを与えると、バラライカはふっと微笑んだ。

「けど、ふふっ。まったく本当に、お前はかわいい奴だよ」

えっ、となまえはきょとんとした表情を浮かべる。バラライカは笑みをたたえたまま続けた。

「私のために怒ってくれてうれしいわ。礼を言う」

バラライカの優しい笑顔に、なまえの中にあったタチアナに対しての怒りは一瞬にしてどこかに吹き飛んだ。代わりに、とてつもなく幸福な気持ちに満たされた。


それでお終い、これで始まり
「お姉さま大好きっ!!」
「話は変わるけれども、朝食を食べたら張のとこへ行ってくれるかしら? 昨日の事件のことでもう少し詳しく、本人から話を聞きたいのよね」
「まかせてくださいお姉さま! 今すぐにでも行ってまいりますッ!!」
「お願いね」
「(大尉、さすがだなあ……)」

愛子||180609(title=モノクロ メルヘン)