「また海を見てるのか?」
「うん。太陽の光が海面にキラキラ反射して綺麗だから」
「そーかい。毎度毎度、飽きねーこって」

ぼんやりと海を眺めていたなまえに声をかけると、いつもと同じ返答。別にこいつが何を見ていようがどう考えていようがあたしには関係ない。が、ここ最近、毎日毎日、海を眺めては溜息つく。
情報屋として名高いなまえとは、結構一緒に仕事をしてきた。情報屋の癖に銃の腕はあたしには劣るがなかなかだし、阿吽の呼吸という奴か、何事にも息を合わせてくれる。酒に酔った勢いでお互いの過去を話したときもあったらしい(あたしは覚えてないがなまえは覚えてた。チクショウ)。
まあそんな仲だし、隠し事なんてする間柄じゃあなかった。なのに、だ。最近、なまえは海を見る度にため
息をつく。理由を聞いても教えてはくれない。それが無性に腹立たしくて仕方が無かった。
寛大なレヴィ姉さんでも、さすがに切れる時は切れる。それが今だった。

「Hey,なまえ。お前、最近可笑しいぞ。海見てあたしが質問したら毎回同じ回答してそんで溜息つく。何か悩みがあるなら溜め込まずに打ち明けろよ!」

魚雷を踏みながら言う。なまえはあたしに視線を向けると、うん、と言葉に詰まる。それがまたあたしの苛々を倍増させた。

「そんなに喋りたくないんなら、額で喋れるようにしてやろうか?」

片方の銃に手を伸ばす。少し間を置いてから、わかったわよ、となまえは呟くように答えた。

「……あのさ、絶対に言わないでよ?」
「あたしの気分によるな」
「レヴィの意地悪。それじゃ話さない」
「わーったよ。誰にも言わねえさ」

銃に伸ばしていた手を、今度はひらひらとさせる。

「本当?」
「本当だ」
「約束よ?」
「約束だ」
「絶対だからね?」
「そろそろ喋らねェと声を大にして言うぞ」

中々喋らないなまえに、再び苛々が倍増する。意を決したのか、なまえは深呼吸を一つするなり、頬を少し赤くしながら言った。

「この間ね、」
「おう」
「張さんにプロポーズされた」
「へー……ええええっ!?」

信じられない答えが返ってきた。張さんって、あの張の旦那!? 嘘だろ信じられねェ。つーか、それってつまり、あれじゃねェか。

「両想いだったのか」

なまえは以前から、張の旦那が気になると言っていた。情報を売って帰ってきた時は、いつもほけーとしていた程だ。
そうかそうか。張の旦那もなまえの事を大層お気にめしていたってことか。……待てよ。プロポーズされて嬉しいはずなのに、なんでなまえは溜息ばっかりついてんだ。

「嬉かねェのか?」
「そりゃ嬉しいわよ。今でも信じられないもの」
「じゃあなんで深い溜息ついてんだよ」

少し間を置いて、なまえは答える。

「俺と一緒になったらもう危ないことには首を突っ込むな、って言われたの」
「ふんふん」
「それってね、つまりね。レヴィ達と、もうお仕事できないかもしれないってことじゃない」
「……あ、」
「わたしは、レヴィ達と一緒にお仕事するのが好き。張さんと同じくらい、大好きなの」

なるほど。そういうことか。つまりなまえは、あたし達と離れるのが嫌で悩んでいたのか。
張の旦那と一緒になりゃ、そりゃなまえにとっては幸せだろうし今の生活よか随分と楽になるだろう。けどそっちを取ると、張の旦那のことだから、随分と過保護になるに違いない。なまえはあたし達と一緒に仕事が出来なくなる可能性が高くなる。それが嫌で、なまえは一人でずっと悩んでたのか。

「なまえは、どっちをとりたいんだ?」

ズボンのポケットから煙草の箱とライターを取り出す。煙草を一本取り口に銜えると、箱をポケットにしまう。紫煙をふかしながら、あたしは続ける。

「あんたが選ぶことだ。だからあたしはあんたが選んだ答えに文句は言わない。けどな、一つだけ言わせろ」

煙草の灰を海に落としながら、なまえの瞳をしっかりと見た。

「なまえが幸せだと思う方に進みな」

潮風が頬を撫でる。波の音、鳥の鳴き声。
ふと、空を仰ぐ。太陽の光が眩しい。けど、日差しはとても温かかった。
くすっ、となまえが笑う。視線を戻すと、なまえはゆっくりと口を開いた。


至って男前レディ
「ありがとう、レヴィ。わたし、決めたわ」
「へえ。どうするんだい? ベイビー」
「わたし――、」

愛子||180609(title=空想アリア)