森の中を何気なく散歩していると、ふとあるものが目についた。それは木の下に咲いていた可愛らしい花で、豊久は少し考えるなりそうだと思った。これをもって帰れば彼女が喜びそうだ。喜ぶ顔を想像しながら、豊久は木の傍へ行くと片膝を折り花を手折った。
仲間のもとへ戻ると、ちょうど弓の練習を終えたのか、与一と汗を流したエルフ衆にぱったりと会った。他愛のない話を軽く交わした後、おや、と与一は気づいた。

「お豊、その花どうしたの?」
「ああ、こいか。先程(せんに)見付けた」

そう言うと豊久は片手に持っていた花を与一に見せる。綺麗だねぇ、と笑うなり与一は続ける。

「もしかしてなまえ殿に?」

自分の考えていたことを見事に当てられ豊久は流石だと驚く。えっへんと与一は胸を張ってみせた。

「その花……」

と、黙って話を聞いていたシャラがひょこりと話に割り込むと、豊久の持っている花を指差し言う。

「花言葉は確か――……」

シャラから花言葉を聞くなり、今のお豊にピッタリだ、と与一は笑う。豊久は少し恥ずかしそうに片手で顔を隠しながらも、彼女を探してくると残し、逃げるようにしてその場を後にした。



同期のオルミーヌとエルフの女性たちと世間話をしていると、後ろから名前を呼ばれた。振り返ると、右手を後ろに回している豊久の姿があった。彼女――なまえはオルミーヌ達にまた後でと残すと、駆け足で豊久のもとへ向かった。

「何か御用ですか?」

ちょいと首をかしげ上目で見る。豊久は恥ずかしそうに一度なまえから視線を逸らすと、空いている手で軽く頬をかく。なまえは頭の上に疑問符を浮かべ、言葉を待っている。
意を決したのか、こほんと咳払いをすると、豊久は隠していたものをなまえの前に差し出した。

「お前に……やる(やう)」

ぱちくりと大きな瞳を瞬かせるなまえに、豊久は無言でずいと花を近づける。あまりにも不器用な渡し方に、なまえは噴出すと小さく笑った。豊久は頬を染めながら、どうして笑うのかと尋ねた。

「だ、だって豊久さん、顔真っ赤だし、渡し方が……ふふっ」
「そげに笑うなら、もう花はやらん」
「あっ、待って待って」

腕を下げようとする豊久をあわててなまえは引き止める。そっと、差し出された手を両手で包むようにして握った。

「すごく嬉しい。ありがとう、豊久さん」

ふわりと微笑むと、望んでいた表情が見られ嬉しいのか、不機嫌な表情から一転し太陽のような笑顔を見せた。そうだ、と豊久はあることを思いつく。目を瞑るように伝えると、豊久から手をはなすなりなまえは素直に従う。目を瞑っているなまえの髪に、そっと花をつけてやる。

「よか。目ェ開けい」

静かに瞼を開き、髪に何かがついている感覚があるのか、そっとなまえは手を伸ばす。

「良う似合うちょる。綺麗(みごて)じゃ」

さらりとなまえの頭を撫でると、ほんのりと赤く頬が染まっていく。ありがとう、と恥ずかしそうに礼を言った。

「ねえ、この花って花言葉とかってあるのかしら?」

花に手を触れたまま豊久に尋ねる。しかしすぐに聞く相手を間違えたと気づいたのか、二、三秒程、間を置くなり、後でエルフの子達に聞いてみるわ、と苦笑した。だがそんななまえを見返すように、豊久の目がキラリと光りニタリと口角を上げる。

「俺は知っとるど」
「えっ!?」

本当に驚いたのかなまえは大きく目を見開く。更に一歩後ずさりもした。あまりにも酷い反応に、お前なぁ……、と豊久はため息をつく。

「そげな奴(わろ)には教えん」
「ご、ごめんなさい……豊久さん。花言葉、教えて?」

可愛くおねだりをして見せるなまえに、豊久は再度ため息をつくと、今回だけだと付け足した。

「花言葉は――、」

瞬間、なまえははにかんだ。


想い結び、恋結び
("真実の愛"――俺はなまえを前からずっと好きじゃった)

愛子||150112
(title=空想アリア)
(花はマリーゴールドです。あの世界にならきっと咲いてると信じてる)