週は明けて月曜日、放課後。野球部員達は集められるや否や、眼前に広がる光景に一部以外はポカンと口を開けていた。デレデレと鼻の下を伸ばして喜んでいる轟の隣に、無表情ななまえが学校指定の体操服とその上にジャージを着込んで立っている。雷市は嬉しそうにカハハッ! と笑っていた。

「今日からマネージャーになった俺の娘のなまえだ。まあ、よろしくしてやってくれや。あ、後、娘はやらねぇからな。死んでもテメェ等には嫁にやらねぇからな!!」

何の宣言だ、となまえを含めて轟以外の全員は心の中で突っ込む。簡単に自己紹介をしろと轟は突然投げやりに言った。適当なんだから、となまえは小言をこぼしそうになるのを堪えると、えっと、と唇を開いた。

「みょうじ、」

なまえは頭を軽く左右に振り言い直した。

「轟なまえです。学校側ではみょうじで通しますけど、ここでは、轟で通そうと思うので……」

その言葉にますます轟は感動したのか、瞳に嬉し涙を浮かべずずっと鼻水をすする。同じ苗字を名乗ってくれたことに雷市も思わずはにかむ。軽く自己紹介を終えた後、最後に、となまえは繋いだ。

「マネージャーになったからには目標は一つ。全力でわたしを甲子園へ連れて行ってください」

以上です、となまえは結んだ。流石は親子だけあってか言うことはそっくりだった。轟は、やっぱ俺の娘だな! と喜び、雷市は様々な投手をぶっ飛ばすと高らかに宣言する。他の部員達がただただ目を丸くしている中、真田は前に言われた轟の言葉を思い出し血は争えないなと笑った。

「とにかくだ。うちの息子に娘が居るんだ。このチームならもちろん狙えるよな、あの舞台をよ!」

轟の言葉に部員達はふっと表情をゆるめる。もうすぐ西東京大会が始まる。もちろん狙うのはただ一つ――頂点だ。

「甲子園に連れて行けよ、テメェ等!」

雷市と真田、部員達は声を揃えて、おお!! と勢いよく返した。その気迫に、団結した意志に、心の奥底から体を震わせた。



さっそく練習に入り、なまえは練習風景を間近で観ながらなにやらノートを取っていた。その光景を遠くで眺めながら轟は口元に笑みを浮かべる。そんな轟の傍に、ランニングを終え小休憩に入ったらしい真田がやって来た。

「監督、なまえちゃんとしっかり話し合いとかしたんですか?」
「ああ、まあな。しっかしあいつ、あれだ。マジでやべぇわ」

轟の言っていることが理解できず、何がやばいんですか? と真田は首をかしげる。轟は驚きの色のまま続けた。

「俺よりすっげーきっちりしてる!」
「あ、それは言わなくても知ってます」

そんなことかと真田はそっけなく返す。うるせぇ、と轟はこぼした。

「光熱費やら食費やら云々かんぬん……普通、十五の女の子が言うことかよ」
「それだけ苦労してるってことでしょう? でも良いじゃないですか、しっかり育った娘さんとまた一緒に居ることが出来て」
「おうよ! ありがとな、真田」
「俺は別に何もしてませんよ」

いやいや、と轟は頭を左右に振り真田に向き直る。

「あのタイミングでなまえをマネージャーに誘ってくれたこと、感謝してるぜ」

ふっと微笑むと、たまたまですって、と真田は返すなり、そろそろ練習に戻ります、と伝えるとグラウンドに入った。そんなことねぇよ、と轟は呟くと、もう一度、ありがとな、と心の中で言った。

愛子||160120