待ち合わせの時間よりも少し早くに約束の場所に着いたのだが、すでに彼は到着していた。挨拶を済ませ遅くなってしまったことを詫びるも、彼――真田俊平はお互いに早く着いてしまったことを笑った。
日曜日のお昼過ぎ――なまえは来たる弟の雷市の誕生日プレゼントを買いに駅前のショッピングモールへとやって来た。買う物は既に決めている。素振りをする時に少しでも手へのダメージをカバーする為に、練習用のグローブを渡そうと考えていたのだ。しかし、贈るものは決まっているものの、やはりバットを振っている人の意見も欲しい。その為、真田に付き添いを頼んだのだった。何でも、このショッピングモールに真田御用達のスポーツ用品店があるのだという。品揃えも良く、定価よりも安く売ってくれる為、気に入っているのだそうだ。
ショッピングモールに入るなり、どこか見たい店はあるかと聞くが、一番に雷市のプレゼントを買いたいとなまえは答える。真田は苦笑するもわかったと返事をした。
二人は他愛のない話を交わしつつ、スポーツ用品店へと入った。野球関連の商品が置かれている場所に足を進める。バットやグローブには目もくれず、なまえは手袋の陳列されている棚の前に立ち頭を捻った。
「練習用は……」
「練習用はこっちだな」
真田はなまえの腕を軽く引き、少し横に移動する。ノック兼打ち込み用とラベルに記されている商品をいくつか手に取りなまえは悩んだ。メーカーと値段を見比べ希望のものを二つに絞り込むと、先輩、となまえは声をかけた。
「これとこれ……。お試しで出ているやつ、つけてみてくれませんか?」
「俺の意見なんかで良いのかよ?」
「バットを振る人の意見を聞きたいので、お願いします」
それならと真田はなまえが指定した手袋をひとつ一つ試していく。一通り試した後、感想を伝えた。真田の意見を聞き、なまえはうーんと唸る。
「白色も良いけれど、こっちも捨てがたいなぁ……」
「こっちの黒と黄色の方はどうだ? つけ心地も良かったぜ」
真田の指差した先にある手袋に視線をやり、パチパチとなまえは目を瞬く。持っていた手袋を陳列場所に戻すと、黒と黄色の配色をした革製の手袋を手に取った。そして一呼吸置いてから大きく頷いた。
「これにしますっ。ありがとうございます、真田先輩!」
そう言うとなまえは足早にレジへと向かった。その後姿を目で追いながらふっと真田は微笑む。なまえの仕事は終わった。次は自分の番だと口の中で呟くと、真田はなまえの後をゆっくりとした足取りで追った。
スポーツ用品店を後にしたのは良いものの、目的はなくなった。どうしましょう? となまえはバッグに買ったプレゼントを仕舞いながら上目で真田に問いかける。真田は何気ない色で言った。
「今から家に帰っても暇だろ? だったら少しぶらつこうぜ」
確かに今から帰ったにしても暇をもてあますことをわかったのか、バッグをしっかりと持ち直すと、はい、となまえは返事をした。二人は並んで歩き、ショッピングモールを堪能した。時折歩みを止め、ショーウィンドウに飾られている商品を眺めたり、店の中へ入ったりする。しかし、一通り見回ったが以前になまえの親友が言っていた"気に入った物を見つければ動かなくなる"ということはなかった。さり気なく欲しい物はないかと聞いてみるも、なまえは特に無いと言う。
困った、と真田は密かに頭を抱えた。
一歩後ろを歩き、真田はズボンのポケットからスマートフォンを取り出す。三島にお手上げだというメールを送ろうとした時、ある店のショーウィンドウの前でなまえの動きが止まった。
ショーウィンドウに向き直り、じっとある商品に目を凝らす。もしかしてと思い、真田は静かになまえの隣に並ぶと、視線の先にある物をとらえた。
「腕時計?」
「……可愛い」
見惚れてしまっているのか、ぽわんとした色でなまえは呟く。腕時計は二つ種類があり、一つはシルバーで不思議の国のアリスをモチーフとしている。もう一つはピンクゴールドで白雪姫をイメージさせるものだった。二つとも、値段は轟の希望内で納まっている。チャンスだと言わんばかりに真田は更に問いかけた。
「どっちの時計が気になってるんだ?」
こっち、となまえはシルバーの時計を指差す。ウサギ……、と呟いたのを聞き真田は心の中でガッツポーズをした。我に戻ったのか、なまえはバッと真田を見る。そして急いで、欲しいとかそういうのじゃないですからね!! と言った。あからさまに本心を隠していることを真田は察する。わかってると返すと、なまえはふいと視線をそむけ、お手洗いに行って来ると告げその場を離れた。ここで待っていると真田は言いなまえを見送る。姿が見えなくなったのを確認すると、真田は急いでスマートフォンを取り出した。先程までなまえがじっと見つめていた商品と店先の写真を撮りメールを送る。すると、待機でもしていたかのようにすぐに三島から返信が来た。『真田先輩 グッジョブ!』と絵文字つきのメールだった。真田はふっと笑い、ドヤ顔ともとれる顔文字だけを打ち込み返事をすると、真田はスマートフォンをもとの場所へ仕舞った。
ほどなくしてなまえは戻り、次はどうするかと尋ねてくる。一度休憩をしようと真田は提案し、近くのコーヒーショップへ入ることにした。誕生日のプレゼント代わりに奢ってやる、と言うと、なまえは一瞬驚いたが、素直に受け取ることにしたのか、満面の笑みを浮かべて喜んだ。
後は三島となまえの親友へ役割を交代だ。頼んだぜ、と真田は心の中で伝えるなり歩き始めた。
愛子||160220